【BLOGOS対談】「光の道」めぐりソフトバンク・孫正義社長が大激論（前編） - BLOGOS編集部
※この記事は2010年06月21日にBLOGOSで公開されたものです
「2015年までに国内の4900万世帯にブロードバンドを普及させる」との目的で、原口一博総務大臣が提唱した「光の道」構想。これを支持するソフトバンクの孫正義社長と、反対の立場を取る経済学者の池田信夫氏が、6月17日に「光の道対談」を行った。司会進行をドワンゴ取締役の夏野剛氏が務め、ニコニコ動画やUSTREAMでも生放送される中、2人はそれぞれの立場から意見を戦わせたほか、電波行政や各キャリアの裏事情を明かす場面も。じつに3時間以上に及んだ大激論の模様をレポートする。（取材・校正：上新大介）<後編はこちら>----------------------------------------------------------------------------------
夏野：Ustreamとニコニコ生放送をご覧の皆さん、こんばんは。夏野でございます。今日はソフトバンクの孫正義社長と、経済学者・池田信夫さんの「光の道」対談の司会を務めさせていただくことになりました。この対談は5月13日に孫さんと佐々木俊尚さんとの間で行われた対談の第2弾にあたります。「光の道」というのは、日本国内の全家庭に光ファイバーの回線を引くのを一気に進めようという構想で、もともとは総務大臣の原口さんが言いだしたものです。…孫さんが仕掛けたわけではありません（笑）。
孫：私も前から言ってはいましたけどね。基本的なビジョンは原口さんによるものです。
夏野：孫さんはこの「光の道」構想に全面支持の姿勢を打ち出しています。ただ、この構想に関しては、多くの方が「そんなに簡単ではないだろう」とお話されていて、池田先生もその一人です。その池田さんのコメントに、孫さんがツイッター上で「語り合いましょう」とつぶやき、池田さんも了承したことで、私がなぜか司会になってお二人で対談していただくという形になりました。まずは孫さんから、「光の道」がなぜ必要かについてプレゼンしていただきたいと思うのですが。
孫：（ディスプレイに映し出された資料に目をやりながら）「光の道」とは何かというと、いま固定回線が6200万回線ありますが、この中に含まれているメタル回線を全部なくして光回線に切り替えましょう、しかも税金を１円も使わずにやりましょう、そしてそれを民間の企業のまま実現しましょう、という構想です。
物理的な回線におけるメタル回線の料金は1400円ですが、これと同じ値段で光回線を提供する、というのが「光の道」でやりたいことその1です。
やりたいことその2は光のブロードバンドサービス。情報サービスや通信サービスなどをADSL以下の価格で提供するようにしましょう、しかも離島も含めて一人も取り残さず希望者全員にこれらのサービスを行き渡らせるようにしよう、というものです。その利活用の代表的な例として、電子教科書や電子カルテといったものの端末を無料で、ハードだけじゃなくソフトや通信代も込みで無料で配りましょう、というのがあります。ちなみに田舎の方、あるいは都会の方でも、「うちは黒電話しかいらない。従来の電話だけでいい」という方がいらっしゃいます。そのような方々にも、従来のハードウェアはそのままで、従来の値段でサービスを受けられるようになります。
なぜ「光の道」をやるのか？ 日本の成長戦略の鍵は情報通信にあると思っています。国民の関心事の中でも、「日本の成長戦略をもう一度描く」ということには大きな関心が集まっています。ただし過去15年くらいを見ると、情報通信関連の産業は伸びていますが、他の産業はあまり伸びていません。実際問題として、伸びていないところをもう一回伸ばすのは、なかなか難しいですね。だったら伸びているところ、つまり情報通信をもっと伸ばしましょうと。もしインフラごと、1円の税金もつかわずにさらにレベルアップできたなら、日本国内の成長エンジンになりうるのではないかと思います。
ところで、日本のブロードバンドはもう十分だろうという説もあります。たしかに一時的には、世界一安く世界一速い、普及率も世界一かも…という時期を迎えました。でも一瞬気を抜いた途端、日本は16位に転落してしまっています。だから「日本がブロードバンド普及率で世界1～2位を争っている」は誤解で、これから巻き返さなければいけません。
よくNTTさんは、「光回線の普及率は、もう90%のところまで行っていますよ」という話をされますが、じつは33%の世帯でしか光が使われていないのが現実です。他の国々はどうか。シンガポール、韓国、オーストラリア、スウェーデン、アメリカなどは、100%、あるいはそれに近い普及率を目指しております。33%くらいの普及率の日本が安穏としていい状況ではまったくないのです。これだけ普及率が低い状況から、メタル回線をなくすことで光回線100%に切り替えましょうというのが、今回の「光の道」の肝になります。光回線で成長を加速させる事は、日本の国家のインフラ、教育、仕事、余暇、健康、あらゆる産業に役立ちます。
それから私は、情報産業だけが成長すればいいというのではなく、たとえば農業もITを活用した農業を行っていく、さらに漁業も、流通業も、製造業も、金融業も－－というように、ありとあらゆる産業がIT化して、従来型の産業構造から21世紀型の産業構造に変えなければいけないと思っています。情報通信という一つの産業だけをレベルアップするのではなく、すべての国民・すべての産業が、新しいパラダイムとしてインフラを利活用できるようにに持っていくことが大変重要じゃないか、という風に思うわけです。
池田さんからは、私の「光の道」の案に対する様々なご指摘がありましたし、NTTさんからも「そんなものできるわけがない」というご指摘を色々頂いております。たとえば「無線は光に比べて安い」という話、「技術革新で無線と光の速度は同等になるのでは」という話、「都心でつながりにくい状態は、光回線では解決できない」という話など。池田さんも、「無線帯域の拡張の限界による光回線の敷設は間違いだ」という風に仰っています。それから「無線帯域不足なら電波解放を求めるのが筋だ」とも。光回線を引くのは不要で、DSL、ADSL、フェムト、あるいはVDSLとフェムトなどでいいのではないかとお話されています。あとは「欧米では光ファイバーの整備はもう終わった」、「普通のサービスであれば数メガあれば十分」、「光回線への強制切り替えは財産権の侵害である」、「30年後を見越したインフラ整備というのはそもそも不可能じゃないか」など。それと光未対応機器の発生－－これはNTTさんも仰っていましたね。こういう風にたくさんのことを、池田さんのブログやツイッターをはじめ、ご意見をいただきました。この辺について、全部これから説明します。ちゃんと論点を整理して、準備万端整えてあります。
他にもいろんな質問が出ております。いままで頂いたご質問には満額回答。すべての質問に今日は答えます。だから2時間では終わるはずがない！（笑）と私は端から思っております。納得行くまでやろうじゃないか、ということです。
まず最初に、なぜ光が必要なのかということを申し上げます。
当社の実績として、過去5年間でデータトラフィックが70倍に伸びました。5年前は900GBで済んでいたのが、いまでは62TBです。しかも、データトラフィックの伸びをグラフを見ていくと、二次曲線になっているので急激に伸びています。これからさらに同じ曲線をたどると私は思っています。過去の成長率が5年間で70倍だったのを、もっと低めに見て半分くらい、つまり5年で33倍伸びると見たとしても、指数倍的な伸びを見せれば10年で33×33倍、すなわち1000倍になります。20年経てば1000×1000倍で100万倍です。本当に100万倍もいくのか？という議論は、今日はさほどしなくてもいいと思いますが、少なくともこれから10～20年の間に、トラフィックは1000～10000倍まで伸びるのではないかと思うわけです。
これだけ伸びるであろうトラフィックを無線だけで収容するのは、もうまったく不可能なのであって、だから光アクセスが不可欠だということを、今日、私は申し上げたいのです。
なぜこれ以上そんなに伸びるのか？ということですが、要するに人も端末も情報量も増えるということです。他の国では携帯端末の普及率が100％を超え、一人2～3台持っている国があるけれど、日本はまだそこまでいっていません。
でも今後、さらに端末の数が増えるでしょう。実際、今日来ている３人ともiPadを持っておられます。たとえば一人がiPhoneを1台持ち、もう1台iPadを、他にもさまざまな機器を持つ、それぞれに通信がつながる時代がやってくるだろう、ということです。
さらに続いて、1台あたりの情報量も飛躍的に伸びるでしょう。今日の対談もニコニコ動画とUstreamでやっておりますが、このような動画に関して、今度新しく出るiPhone4はハイビジョンクオリティの動画が映るとということになります。それだけ1台あたりの情報量はもう飛躍的に伸びるわけです。
一方でホワイトスペースの件や、あるいは「無線帯域がまだ使われていないところがあるので、1.7倍の帯域が増やせるのではないか」という意見もありますが、仮に周波数の割り当て帯域が1.7倍ではなく3倍にまで増え、LTEのような技術進歩によってさらに3倍上がって、これらをひっくるめて10倍伸びたとして、1000倍、10000倍、場合によっては100万倍伸びていくようなトラフィックを受け入れる周波数帯域がない、ということになります。要は無線の端末が増えすぎるのに、それを受け入れる無線の帯域が少なすぎると申し上げたいわけです。
私は無線の会社を経営していますし、iPhoneだiPadだを売っているぐらいですから、無線の端末は大好きですし、これからどんどん主流になっていくと思います。ただし、それを受け入れる周波数の幅が少なすぎます。
もうひとつは、これもわが社の実績ですが、iPhoneにしろiPadにしろ、あるいは普通の携帯電話にしても、無線の利用の中心は、じつは自宅だとか、会社、学校などの屋内にいるときに発生しています。駅構内なども屋内と見なした場合、屋内で使われる割合は全体の87%です。本当に屋外の、道端や駐車場といった場所で使っているのは、13%に過ぎません。
だからこそ、この13%のところに従来型のマクロ局、あるいはマイクロ局を使い、屋内にいるときには、できるだけ光回線を使ってバイパスさせなければいけません。そうしないとマクロ局あるいはマイクロ局で受けようとしても、無線の端末が受発信するデータトラフィックをとてもじゃないけど収容できない、ということを私は申し上げたいわけです。
したがって光回線を建物の中まで持ち込み、あくまでバックボーンとしては光回線でオフロードさせるべき。無線のデータトラフィックに関しては、建物の中ではWiFiだとか、あるいはフェムトだとか、そういう無線の端末を使えばいいわけですが。
池田さんのブログでは、「日本以外で光回線を議論している国はあまりない」とありましたが、じつはアメリカもオーストラリアもニュージーランドも、シンガポールも韓国も、みんながいままさに光回線を真剣に検討を始めています。あるいは具体的な議論をしています。
iPadを3人ともお使いですからよくご存知だと思いますが、iPadも高解像度のディスプレイですし、動画とかiBooksとか雑誌とか、とにかくたくさんのものがiPadやiPhone4で使われます。すると無線のトラフィックがうなぎ上りとなり、とどまるところを知らなくなるのです。
iPhone4は一昨日（6月15日）、予約を開始しました。でも一瞬で予約がパンクしてしまい、皆さんに怒られるし、この場を借りてお詫び申し上げます。じつは去年の実績の10倍以上の予約を受けられるだけのキャパを用意していたのですが、日本だけでなくアメリカもヨーロッパも、各国で去年のiPhone 3GSに比べて10倍以上の予約が来てしまったのです。
日本も10倍をはるかに超える予約が来まして、サーバーが一瞬でパンクし、慌てて東京と大阪のデータセンターにサーバーを運びました。夜中にトラックを飛ばして。そうやって緊急でキャパを増大して、去年の予約規模の100倍来ても大丈夫なようにトラフィックキャパを用意しました。もう大変でしたね。ちなみに日本だけではなく、各国とも予約が10倍以上来てしまい、注文を受けるサーバーがダウンしました。僕らも日本ではお叱りをいただいて猛反省したんですが、同じ日にアメリカのアップルのサーバーも落ちて、AT&Tのサーバーも落ちて、ドイツもほぼ落ちて、各国みんな全滅したわけです。そんな中、日本だけが生き残ったことでお褒めの言葉をいただきました。もちろん我々もへろへろで、何時間かはダウンと同じ状況になっていたのですが…。それくらい世界中で波が来てるということです。従来の携帯電話でやっているようなトラフィックではとても済まない状況であります。
iPhone4は何が怖いかというと、ハードウェアの大きさや画面の大きさはiPhone 3GSと大して変わらないのに、画面のディスプレイのドットピッチが、リゾリューションが縦に2倍、横に2倍、つまり４倍の情報量が一画面に必要になること。それだけでまたトラフィックがいっぱいになってしまいます。さらに動画などはものすごく強化されていて、これでまたトラフィックの嵐になります。
第1部で私が申し上げたかったのは、無線の端末がどんどん普及するというのはまったく同感で、固定のPCより無線のiPhoneやiPad、あるいはこれから出てくるAndroidのPadやAndroidフォンといった無線の端末がどんどん使われるようになります。ただ、その無線のキャパを受け入れるだけの周波数帯の幅が残っていないということなのです。
だから「無線が嫌いだから光回線だ」と申し上げているのではなく、無線端末のトラフィックを受け入れるために、光ファイバーを屋内に全部引かなきゃいけない、というのが私が一番申し上げたいことであります。
池田：孫さんの仰った「技術的に無線の周波数のキャパが非常に厳しくなる」というのは、僕も極めてピンチだと思っています。日本の無線の周波数割り当ては絶対に足りない。だから無線の周波数をいまの数倍、下手すると数百倍にも増やさないといけないでしょう。となると基地局を増やすなり最大限帯域は増やしていかないといけなくなります。
それは孫さんの仰る通りで、孫さんの基本的な技術認識も賛成だし、そのために電波が絶対的に足りないというところも賛成だけど、それをNTTの経営問題と結び付けるとこだけが、かなり論争的に問題だと思うんですね。
いまの加入電話網は非常に効率が悪くコストがかかる、これを光回線にすることは、同時に全部IP電話にするということだと思いますが、僕はIPにすることには賛成ですし、この間NTTも総務省のヒアリングで、今年秋から電話の交換機を全部取り払って全部IPにする計画を出してきています。おそらくここは日本の通信業者も総務省もみんな賛成すると思います。
ただ、おそらく一番問題なのはその先の、アクセス系を6200万世帯に光を引くというところについては、僕がいろんな通信事業者の方とお話を聴いた感じでは、あまり賛成する人はいないでしょう。問題はそこだけだと思うんですよ。
夏野：少し解説させていただきたいんですけども、一つは非常に安い価格で光をもっと普及させないと、もう限界に来ているということですね？
孫：そうです。
夏野：いまの普及率が、敷設ベースで正式な数字で言うと90%と言っていますが、加入者ベースで言うと33%でしかないと。
孫：近所まで来てるのが9割だけど、家までつながって実際利用されているのが3割ですね。
夏野：この数字をもっと上げないと、おそらく近所まで来ているレベルでは世界ナンバーワンのはずなのに、ちゃんとつないでいる人が33%しかいない。これは非常にもったいないことだということですね。それによって電子教科書とか、医療カルテとかできる可能性があるので、非常に大事な話だということです。
それに日本の成長戦略としても、IT産業ほど投資の乗数効果が高い産業はない。だから孫さんが仰ったように、すべての産業に向かってITを整備することが効果をもたらすというのは、非常に正しいことだと思っています。なかなか政権でそういうことが語られないのが残念だとも思っているんですけども…。
あと、トラフィックがもうコントロールができないっていうこと。私もNTTドコモにおりましたが、じつはドコモの場合、パケ放題のユーザーさんは別制御しているんですよ。つまり使い放題できるけど、その代わり混んできたら、定額制じゃない人のほうがちゃんと優先されると。でも、そんな仕組みをいれてるキャリアなんて世界でもたぶん一社しかないでしょう。普通はそんなことできないですね。お金もたくさんかかるし。
なので、iPhoneとかiPadとか新しい端末が出てくる中で、キャリア側がもはやトラフィックをコントロールできない時代になってくると、十分な帯域を用意するしかもう手がなくなります。そういうことも孫さんは仰っていると思いますね。
池田：ここ10年くらいの日本の生産性の上昇率を見てみると、なんと日本の生産性上昇の8割はIT部門だけがら出ています。つまりIT部門が経済成長の最大のエンジンなんですよ。
これ以後も変わっていないし、逆に言うとITを利用する他の部門があまりにも効率が悪いですね。孫さんが仰ったように、情報革命に昔ながらの産業構造が適用できていません。インフラの方はかなり進んでいるのに、他の部分が付いていってないということが、日本の経済成長が落ち込んだ一つの原因であるということですね。
それから、孫さんの話と同じですけど無線のトラフィックが物凄く伸びてきています。一方で加入電話がどんどん落ちてきている。僕が今日申し上げたいのは、とにかく周波数の割り当てが非常に不合理になっているということです。
3GHz以下の周波数帯を実測してみると分かりますが、たとえば渋谷駅前のような、一番使われているはずの帯域でも、3GHzから下の帯域で「時間」「空間」で積分すると、90%以上空いてるという恐るべき状態です。ガラガラなんですよ日本の電波は。東京の都心でさえ。
もう一つは、電波行政の言葉だと「アロットメント」と言って、電波をどこの社に割り当てるかという問題がありますが、それより大きな問題は「アロケーション」、つまりどこの周波数帯にどういう用途を割り当てるかが非常に恣意的に決まっていて、何でこんなところに割り当てられるんだということがいっぱいあるということですね。具体的に言いますと、業務用無線とテレビが非常に無駄に使っています。
2011年7月にはアナログが停波するため、300MHzの空きが出ます。おそらく、これだけの電波が空くチャンスは二度とないでしょう。なんとかして、これも「電波ビッグバン」のチャンスとしたいということであります。
とくにUHF帯の、500MHzから800MHzのいわゆる「プラチナバンド」と呼ばれる周波数帯は非常に使いやすく、皆さんが喉から手が出るほど欲しいし、ソフトバンクも兼ねてから欲しいと仰っているのに、テレビに占拠されたままほとんど使われていない状態です。
とにかく絶対的に足りない。みんながしっかり効率的に使っているなら納得できるけど、実際は使ってないところがいっぱいあります。何でそんなことになっているのかというと、先進国では日本だけが、総務省の官僚の基準で割り当てられ、いわゆる「美人投票」と称するやり方で電波を配給しているから。そういう社会主義的なやり方で配給していることが非常に問題であると思います。
具体的に細かい話を少しさせて頂きますけども、VHF帯において来年7月にアナログ放送が止まると、そこが空くわけです。ただ、NHKは1～3で、民放の周波数帯は4～12ですが、じつはその中の10～12のところは、いまかなり煮詰まっていて、来月に2グループのうちどちらか1つが決まるという形勢になっています。でもこれが非常に不透明な定義で、どうもNTTドコモとフジテレビの日の丸連合に決まることが内定しているというお話になっているんですね。
さらに問題なのは、来年7月に空く4～11チャンネルの周波数帯が、あと1年に迫ってもまだ何に割り当てるか決まっていないということ。なぜこういうことになるのか？という前に、大体その4～9が公共無線かなにかで、10～12がマルチメディア放送となっているけど、誰がそういう用途を決めたのかと。非常に不透明な手続きで決まっているわけです。
UHF帯にしても、2012年7月から470～710までをテレビが使い、それより上を他の用途が使うことになっていますが、テレビって東京でも7チャンネルから10チャンネルですよね。つまり6MHzで1チャンネルですから、6MHz×7チャンネル、つまり42MHzあれば十分テレビ放送ができるのに、なぜ240MHzも取ってるんですかと。これはかなり大きな問題です。
それと、非常に差し迫った問題ですが、総務省の情報通信審議会の周波数委員会で700MHzの割り当てがいったん決まりかけたものの、ツイッター上で孫さんを含め、「ちょっとおかしいんじゃないか？」という話になり、もう一度差し戻しになって、原口総務相の直属のタスクフォースで再検討するという異例の手続きがとられています。なぜこれが問題かというと、いま日本では、700MHz帯に上り40MHz下り35MHz、合計75MHzを取ることになっているものの、実際は700MHz帯と900MHz帯をバラバラに取っています。ところがアジアの周波数フォーラムでほぼ決まった標準周波数だと、700～800MHzで上り下り両方取ることになっています。アジアもヨーロッパも、おそらくアメリカもこの周波数になるので、世界中がおそらくこの割当てになるはずです。そうすると、次世代の「LTE」といわれる技術を使ったiPadもiPhoneもこの周波数帯で出てくることになります。その結果、初代のiPhoneが日本で使えなかったのと同じことが起こります。つまりアメリカやヨーロッパ、中国、インドでは国際周波数でiPadが使えるのに、日本だけ使えないのです。これはもうソフトバンクにとっても商売に支障があるでしょうし、ユーザーにとっても非常に困ったことが起こりえます。
もう少し細かい話をしますと、710～730MHzのところに「ITS」という謎の周波数がありまして、これは本来、車と車がぶつからないようにする技術として始まりましたが、いまは北海道で少し使われている程度で、いつ商用化するかがまったくめどが立っていません。それにまだ仮に割り当てただけで、最終的な割り当ても行われていない状態です。
730～770MHzの部分は移動通信に割り当てられますが、最大の問題は770～806MHzの部分。ここは「FPU」、フィルダピックアップと呼ばれます。じつは総務省の方々もあまりご存知ないようで、総務省の電波分派表には「PFU」と書いてありましたが、それは間違いです。このFPUは何かというと、テレビの中継の周波数です。昔だと、田舎のお寺から中継するときなど、中継車から電波を飛ばしていましたが、いまはみんな通信衛星でやっています。だからUHF帯のFPUなんて使ってないし、世界的に見ても、こんなところにFPUを割り当てている国ももうないんですよ。ラジオマイク連盟というのが日誌をつけているので利用実績を見せてもらったら、月に数十時間、首都圏だと3日に1回くらいしか使われていません。しかも何に使うかといえばマラソン中継くらい。36MHzという、ソフトバンクが丸々持っているくらいの周波数を遊ばせているという、とんでもない使い方をされているわけです。
それからもう一つ、これは夏野さんの方が詳しいと思いますが、850MHzより上のところには「MCA」という謎の周波数があり、これは特殊法人が使っています。なぜ商業的に儲かる周波数を特殊法人が使わなければいけないのでしょう。それで特殊法人の名簿を見てみたら、理事長以下、専任の理事のうち5人中3人が総務省の天下りでした。なんでこれが事業仕分けにならないのか不思議です。
孫：しかも理事長も天下りですよね。
池田：天下りのために作ってるというしか思えないような組織ですよ。利用している人は30万人もいないでしょう。ほぼ同じ帯域でソフトバンクも、NTTドコモも何千万という人が使っているのに、その100分の１も使っていない特殊法人がまだこんなところに生き延びていると。
あと、901MHzは地域防災とかで使われていますね。これは近所の有線放送みたいなもので、夕方5時に「ピンポーン」って鳴るのがそれ。地域防災無線というのは、何年かに1回来る災害時のためにあるけど、そのときに使えるかどうかテストするために、毎日5時に放送したり、音楽を流したりしているわけです。1日1回の音楽のために周波数を取っている、しかも国と県と市町村で三重に取っていて、とんでもない無駄遣いをしているわけです。
夏野：付け加えさせていただくと、900MHz周辺の周波数（850～950MHz）は、ヨーロッパではiPhone 3Gなどの携帯電話にも使われている周波数で、ここが携帯電話に使えると、海外の端末を日本に持ってくるのがすごく簡単になります。よくiモードは「ガラパゴス携帯」と言われますけど、電波そのものがガラパゴスなんです。
池田：少し難しい話になりますが、710MHzより下の470～710MHzの240Hzはテレビが使っている周波数帯です。でもテレビ局が使っている周波数帯は、図で見ると真っ白になってしまいます。茨城県を例に挙げると、40チャンネル取っているのに実際には7チャンネルしかなく、あとの33チャンネルは真っ白。それこそソフトバンクでも十分営業できる周波数帯なのに、なぜかテレビ局が占拠しているのです。これを「ホワイトスペース」と呼んでいて、これは無駄ではないかと言っていたら、最近は原口大臣もホワイトスペースに関して言及するようになり、総務省もホワイトスペースはかなり前向きに検討する方向です。アメリカではFCCが免許不要帯として無線LANに割り当てると言っています。
来年7月にアナログ放送が終了する予定ですが、こんなにいい周波数がも空くことはもう二度とないので、ここでとにかく踏ん張って周波数を一挙に空けましょう、というのが私の提案であります。VHF帯に2つの業者でずっと競り合ってるんだけども、はっきり言ってその業者のどっちかはやる気はないけど総務省に頼まれてやってる業者もいると聞いています。そういう業者が本当にやる気があるかどうかは、オークションに出してみたらわかるんですよ。その会社は儲かると思っていないから、高い値段はつけないでしょう。
いまの電波行政の何がいけないかというと、用途を総務省の電波部の皆さんが勝手に決めてしまい、固有の用途に固有の変調方式で、お互いまったく互換性のないインフラで割り当てられてるから、まったく使わない周波数が他の人が使えないことにあります。それではもったいないので、全部一番下のレイヤーの物理層は汎用の無線にして、そこにIPを乗せて、あとはアプリケーションとしてモバイルでもテレビでもWEBでもやればいいんのではないか、というのが私の提案です。
夏野：池田さんの話をまとめると、電波が足りないのに、足りない部分をさらに効率悪く使っていて、割り当てがあまりに適当、これは適切じゃないと言う意味です。だからテレビの問題とか業務用無線とか…。電波の話というのは、過去40～50年にわたって徐々に拡張を割り当てられてきた経緯があります。最初から計画されてなかったのは事実だと思いますし、インターネットが出てきた頃からまだ15～20年の世界なので、ここに対応できていないということがあるとは思いますが。
もうひとつ大きな論点として、国際周波数のハーモナイゼーション、つまり周波数を海外と合わせないと機器が使えないじゃないか、というお話も指摘されています。それと同時に日本の割り当てがいかに合ってないかという話と、変なところでいい帯域が割り当てているっていうのを説明していただきました。最後に、そもそもなぜ電波行政が昔のままやっているのかと。新しい時代に合ってないじゃないか、というプレゼンをいただきました。
孫：基本的に電波の周波数が十分に活用されていないし、有効利用されていないんですよ。これに関しては、僕はもう言いたいことは山ほどあります。だいたいiPhoneが、「都心から少し離れるとつながらない」と、もう毎日のようにお叱りを受けていますが、我々が建てている電波の基地局の数って、少なくともauさんの倍くらいあるんですね。ドコモさんとあまり変わらないぐらいの基地局の数を持っているのに、我々には2GHz帯しかなく、我々だけが800MHz帯の周波数を割り当てられてないんです。
夏野：孫さんの仰ったことを解説すると、たとえばドコモの携帯電話は二つの周波数、厳密には三つなのですが、わかりやすく言って二つの周波数を使ってます。一つは国際的に、この3Gという方式で認められた2GHz帯というものです。もう一つは第2世代用に使っていた800MHz帯という電波。もともとは「PDC」という方式で、初期のiモードなどに使われていた周波数帯です。ドコモの場合、これを3Gにも転用しているので、この携帯電話は二つの周波数を使っています。2GHzと800MHzを比べると、じつは800MHzのほうが、遠くに届くんです。一方、2GHzというのは高い周波数なので直進性が高く、スピードも早いけど、そのぶん反射しにくいため、たとえば屋内に入るとつながりにくくなります。「減衰」と言って、反射したときに電波の力が衰えてしまうんですね。屋内でつながりにくいのはこうした理由からです。それと同じ野原に二つつの電波を出すと、800MHzのほうが遠くに届きますよね。
孫：そうそう。それから夏になるとソフトバンクの電波って通りにくくなるんですよ。あれは木の葉っぱが…。
夏野：葉っぱがダメなんですよね。だから軽井沢とかもダメで。
孫：だから我々はね、もう泣きたいくらい800MHz帯が欲しいわけですよ。ドコモさんもauさんも、800MHzを好きなだけエンジョイして使っておられる。我々は2GHz帯だけでやらなきゃいけないので、本当に苦しいんですよね。
夏野：auさんもドコモと同じで、800MHzと2GHz帯を両方使っていらっしゃいます。なぜこういう経緯があるかと言うと、僕は昔いた会社の技術屋さんに少し聞いたことあるのですが、減衰がここまでひどいというのを深刻に認識していなかったきらいがあって…。
孫：僕は認識していますから。800MHz帯を我々にも寄こせと、総務省相手に訴訟までしたんですよ。6年前に。それでしばらく出入り禁止になって、総務省に入れなかったんだから。
夏野：ただ、総務省をあまり責められないのは、最初のうちは海外も含めて3Gは2GHz帯って決めていたんですね。いまはヨーロッパも850MHzとか900MHz帯を中心とした、第2世代といわれるGSMの方式のところを3Gにしようとようやく認めたところです。それまで、世界的に通信業界が2GHzでいけると思ってたきらいはあるので。
孫：面積に直すと、800MHzだと約4倍電波が飛びます。でも我々800MHzをまだ割り当てられていない、イコールフッティングでないですよ。これに対しては、我々は言いたいことが山ほどあるんです（笑）。
夏野：ただ、この800MHz帯の問題に関してはちょっと複雑なところもあって、たとえばiPhoneがドコモにくるとつながりやすくなるんじゃないかと言う人もいますが、厳密にはそんなに簡単には行かないんです。周波数の違いがあるので、池田さんが仰ったように800MHz周辺を使うにしても、国際的に合わせていかないと、そのままではつながらないという現実もあります。
孫：そういう意味では、iPhoneまたはiPadの次の世代、その次の世代、LTEなどになってきたときに国際標準の周波数帯を使えないと、本当に日本だけが「電波ガラパゴス」になってしまいます。これは深刻な問題ですね。池田さんも仰ったように、周波数帯を国際標準に合う形にしていきたい。そのためにタクシー無線だとか、MCA、なんか中継無線だとか…、パーソナル無線なんて、長距離トラックの方が2万台くらいで使っているんですよ。トラック2万台のために2000万人の人が不自由するのなら、僕らはトラック2万台の運転手さんに携帯電話を無料で提供しますよ。だから2000万人のために、その周波数ちょっと退いてくれませんか、というのが国民の一番の願いだと思うんですよね。
夏野：この話だと2人は意見が合ってしまうので面白くないですね（笑）。池田さんにご質問をしますが、池田さん電波が足りないという話をしました。孫さんはその電波を解決してもなお、まったく足りないと仰っています。こちらの意見はどうでしょうか。
池田：もちろん孫さんが仰った何百倍、何千倍という可能性もあるわけだから、それに対して周波数を2倍とか3倍にしたところで足りないでしょう。だからあとは基地局を多重化していくしかないですね。それをインフラとして、光回線とかが必要だというのは孫さんの仰る通りです。僕は今日おかしいと申し上げてるのは、そこから先の、つまりNTTを構造分離して、政府が法律で決めるというところは、かなりリスクが大きい話になってしまうんじゃないかということです。
夏野：全体論として、電波の需要が爆発してくるのは間違いない、だから何らかの手を打たなくてはいけない、というのはお二人に共通しています。池田さんは「電波の割り振りを思いっきり変えなくてはいけない。そのタイミングが来年訪れる」と仰いました。来年、地デジ化でアナログが停波になるので、史上最高のタイミングであることは…。
孫：しかも来年からの割り振りは今年決まる。来月からどんどん決まっていきます。
池田：緊急の問題です。
夏野：一番僕が参加したくない議題として（笑）、NTTの経営問題というのがありましたが、なぜNTTの経営問題と、この「光の道」が絡むのでしょうか？ 孫さんのほうから。
孫：では第2部をプレゼンします。そもそもいまのNTTにおけるアクセス回線の部門は、維持費が年間1兆700億円かかっています。内訳としては、メタル回線の維持費が年間7600億円、光回線が年間3100億円です。これを、メタル回線を全部引き剥がして、光回線だけにしましょう。そうすると光の年間あたりの維持費が増え、3100億円が5200億円になります。一方で7600億円かかっていたメタル回線の維持費がゼロになります。この分も含めて、アクセス回線維持費が年間5000億円も削減できるということです。どうして5000億円も減らせるのかといえば、メタル回線の保全費だけでも年間3900億円かかっています。メタルを全部引き剥がせばこの部分は不要になるということですね。
ちなみにこれらの数字は、我々がでっち上げたものではなく、NTT東西の接続会計ということで公的に発表している数字をグラフにしただけです。我々が試算した数値も、NTTさんが現在使っている光改選の数値を公開していますから、それをもとに単純に計算できる範囲で、プロとして我々が試算したものです。
ところで、なぜメタル回線を全部引き剥がしたほうがいいかというと、そろそろ寿命が来ているから。20年以上経ったメタルは全体の60％を占めますが、じつはメタルは18年を過ぎたあたりから、ぐっと二次曲線的に故障率が上がっていきます。つまり古くなりすぎて故障率がどんどん上がっていき、いまでは非常に効率の悪い状況になってしまっているのです。
池田さんは、「田舎の方で光回線を使う人は少ないのではないか。だから光を田舎まで持っていくのは金の無駄遣いだ」という風に仰っています。実を言えば、これは勘違いでありまして、田舎ほどメタルの保全費が高く、田舎ほど赤字なのです。
アクセス回線部門に関して、NTTさんは年間2600億円くらい赤字を出しています。その最大の理由は、距離が長く、しかも古いメタル回線が田舎へ延々と張り付いていること。これが一番保全費が高いのです。距離は全体の10％程度にもかかわらず、田舎へのメタル回線は収入が800億円に対し、費用が2700億円もかかっています。1年間で1900億円の赤字です。NTTのアクセス部門全体で、メタルと光を足した2600億の赤字のうち、じつに7割は田舎に放置されているメタル回線が理由となっているわけです。こうして毎年1900億円もの赤字を垂れ流し続けているのであって、これを一日も早く止めなければいけないのです。そのためには、メタル回線を置いたままだと金がかかって仕方がない、剥がした方が金がかからなくなる、ということなんですね。
では、「メタルは本当に引き剥がしていいのか？」という話になりますが、メタルは誰のものかといえば、国民のものです。メタル回線はNTTが電電公社時代に引き、しかも当時は100%独占で、「電話が欲しければ電話加入権を買いなさい、何万円も出して買いなさい」と言っては、非常に高いお金を国民負担で、4.7兆円も払って作ったわけですね。ですからメタル回線は国民のものです。したがって、いま赤字を垂れ流し続けてるメタルを引き剥がすかどうかというのは、最終的には国民判断すべきだということですね。
アメリカも、最近になってオバマ大統領が「メタル回線の維持費が問題だ」と指摘し始めました。やっとアメリカもそれを気づき始めたということですね。「光ファイバーの方が維持費が安い」ということを公的に言い始めました。今年の3月16日のことです。
池田さんは、「物理線よりは交換機のほうが問題じゃないか？」「交換機を先に代えるほうがいいのではないか？」という説を主張しておられました。アナログ電話のためにNTTさんが使っている交換機を早く廃止しましょう、それは私も賛成です。それを廃止するためには、IPで全体が使えるように、しかもメタルじゃなくて光でできるようにするほうがベターですね。ですから、アナログ電話のための交換機をなくすというのは賛成です。
でもそれだけじゃ足りなくて、もっと大きな費用がかかるメタル回線も一日も早くなくさないといけないと思っています。全部IPにするべきで、二重設備の解消というのが必要です。光か無線かという二者択一ではなくて、光＆無線の両方しなければいけません。無線の有効活用のために、バックボーンとしても光回線にしないといけないということであります。
もうひとつ、池田さんがブログの中で、「メタル＋VDSLで十分じゃないか」ということを仰っていますが、光で近くまで持ってきて、最後のラスト100メートル、200メートルをマンションの中でVDSLを使うならいいんけど、500メートル以上になると使い物になりません。それに実際のバックボーンの長い距離をメタルでやりましょう、しかもそれをVDSLでスピードを上げましょうというのは非常に無理があると思います。二重コストになってしまい、メタル回線のコストを下げることの解消にはならない。
「『私は黒電話しかいらない』という田舎の方にも光回線を無理やり押し付けるのか」という話に対しては、メタルから光ファイバーに切り替えるものの、家の中は従来使っている黒電話のままでいいんですよ。そこにアダプターをつけ、アダプターのTAプラスWi-Fiのチップを入れるのです。従来通りの黒電話を、従来通りの料金で、従来通りの使い方で。「ブロードバンドなんていらない。光サービスもいらない」という田舎のおじいちゃん家も、メタルのコストを下げるために、光回線に置き換えます。そうすることで、田舎のおじいちゃん家に孫が遊びに来たときに、電子教科書はWi-Fiで繋がる、電子カルテもWi-Fiで繋がる。その電子教科書と電子カルテは無償で、国家として提供できるんじゃないか。
メタルが光に変わっても契約の変更は不要です。水道管が鉄パイプからビニールのパイプに入れ替わっても、水道代が同じままなら、鉄の水道管であろうが、ビニールの水道管に変わろうが、お客さんは気にしないですよね。単に効率化のために、衛生のために、元栓のパイプを変えるというのと同じで、メタル回線が光回線になっても契約を変える必要はないわけです。お客さんにとって、黒電話がいままで通り使えて、料金も同じで、工事代もいらなくて、追加負担もいらなくて、なにもいらないから契約を変える必要はありませんよと。コストダウンのためにやりましょう、ということです。
そんなことを言うと、一部の方が、「いままでのメタル回線は停電の時も使えたけど、光回線になると停電の時に使えないんじゃないか？」という説を唱えます。そこで停電も調べてみました。その結果、年間で平均10分しか停電になっていません。しかも年間の停電回数は0.15回です。これは実際のデータです。昔はしょっちゅう停電していたけど、最近はあんまり停電しないんですね。しかも実際に停電しても短い。停電時間もですね。
そこで、さきほどのアダプタの中に充電式の電池を入れて置く。さきほど10分間停電といいましたけど、1回あたり50分間利用できる。しかも10年間くらい利用できる電池をこのTAのアダプタの中に入れて置く、ということでいけば、停電対策も可能ですね。
それとNTTさんは、「メタルをなくして光だけにすると、いままで使っていたホームセキュリティとかガス検診とか、信号、水道の監視、緊急通報といったメタルをベースに使っている機器が使えなくなるよ」とおっしゃてますが、これは先ほどの黒電話の理屈と一緒で、アダプタを無料で配布すれば十分済む話。技術的には単純な、簡単な話ですから、年間何千億も赤字を垂れ流している状況よりははるかに安く済むのです。
しかも最近は、交通管制システムも含め、セキュリティ関係はメタル回線よりもむしろ光回線をベースにしたものにレベルアップしてきています。
ご質問の一番メインである「NTTの経営形態まで話を踏み込む必要はないんじゃないか？」ということですが、経営形態にまで踏み込まないと、メタル回線を廃止して光回線に置き換えることはできないということで、経営形態について申し上げます。
先ほど話したように、物理線では月1400円でメタル回線を提供していますが、光回線も同じ1400円、しかも税金を1円も使うことなく光100％に置き換えられる、というのが「光の道」構想の神髄であります。これは、いままでアクセス部門は年間2600億円の赤字でしたが、保全費や維持費というのをなくし、メタルの費用をなくせば黒字経営ができるのです。
そこでどのくらい黒字になるか計算してみました。現在のNTTのアクセス部門というのは、収入1.2兆円、費用1.5兆円、年間2600億円の赤字ですが、メタルをなくすことで費用が大幅に減りますので、3500億円の黒字になります。赤字だった部門が、税金を1円も使わずに、光回線を100％引いて、3500億円の黒字になる、その差は6000億円ですね。
池田さんの根源的な指摘ポイントは、「離島や山の中、村の中まで光を引くのは無駄遣いでは？」というところですが、この全国のメタルをゼロにして光に置き換えようという費用の中には、人が住んでいる、日本国民が住んでいる離島も100％含んでいますし、山の中の、ド田舎の炭焼き小屋まで含めて全部光回線に置き換えても、たったの2.5兆円で何もかも100％終わるという計算です。この計算もまた、NTTさんの公開資料の数字をベースに我々が試算したもので、この数字が正しいかどうかは、いまから2～3か月、あるいは半年かけて専門家の方々で検証していただいて結構です。我々が当てずっぽうで、でっち上げで出した数字ではないということです。
2008年、NTT東西はたったの445億円しか営業利益を出てません。しかし、それを実態で見ると、アクセス部門が2600億円の赤字で、その上の通信サービスのところは3000億円の黒字なんですね。この黒字が、池田さんも指摘しておられるように、通信をベースにした交換機をなくすだけで通信部門の利益はさらに増えます。3000億円の利益が4000～5000億になりえます。ですからNTTさんの通信部門のために、それはそれでやるべきだろうと私は思います。
ただ、それを実行するためにも、アクセス回線部門のところを、メタルを全部撤去してアナログ電話を終わらせ、IPに移行しなければいけません。それをやるとアクセス部門は3400億円の黒字になります。仮に交換機を残したままで、通信会社が費用を払い続けたとしても3000億円の利益ですから。実際は3000億円どころかもっと利益が出るということですね。
それと、これまた池田さんから「バランスシートはどうなんだ」とのご指摘がありましたので、バランスシートもちゃんと計算してみました。アクセス部門を分社化したとき、資産がどれくらいで、負債がどれくらいで、純資産がどれくらいか…というのを、ちゃんと全部計算してみました。だいたい約半分の資産が、アクセス部門のところにあり、残り半分は通信部門のところにあるといった感じです。
では、「2.5兆円のお金は誰が金を出すの？」と。池田さんも「これまた税金を使うのか」とご質問をしておられます。先ほど、「アクセス部門が分社化すると3500億円の黒字だ」と申し上げましたが、じつはフリーキャッシュフローはもっと黒字なんですね。なぜかというと、減価償却というのは現金支出を伴わない費用ですから、この部分はフリーキャッシュフローとしてはプラスになるのです。こうしてフリーキャッシュフローは年間4500億円の黒字になるというわけです。これだけ黒字なら、資金調達の2.5兆円くらい、民間の銀行、機関投資家から一瞬で集まります。
ちなみに「本当に集まるのか？」という点について、ソフトバンクがボーダフォンジャパンを買収するのに2兆円のお金をかけました。しかしソフトバンクには4500億円のフリーキャッシュフローはありませんでした。当時は1500～2000億円くらいしかフリーキャッシュフローのない会社でしたが、それでも2兆円の資金調達ができました。だから2.5兆円くらいの資金調達は、4500億円もフリーキャッシュフローがあれば十分やれるということです。光回線のための設備投資の2.5兆円は民間から資金調達するだけで、税金を1円も使わずにやれるんです。
池田さんからのご質問で、「アクセス回線会社というのは公社にするのか？」、「いまどき公社を新たに作るのか？」、「公的資金を使うのか？」というものがありましたが、これに対する答えは「100％民間の会社でございますよ」となります。公金を使って新たに公社を作るのではありません。その会社を作ると工事費も安くなります。すなわち、いままでは光ファイバーだと、個別のお客さんごとに個別に申し込んできていましたが、これが一律的にやれるのでコストダウンが可能です。
「4200万回線あるのを、どのくらいの工事人数がいれば本当にやれるのか？」ということも質問にありましたので、これもお答えを用意しました。1斑2人＋警備員1人、よって1班3人ですね。これを13000班用意すれば、1日3件工事ができます。そうすると1200日、大体4～5年で工事が終わります。100％光化することは十分にできますよ、ということです。人員の計算も、工事能力の計算もちゃんと申し上げました。電気通信工事事業者は日本に14万人いるわけですから、しかも中には仕事があまりないという方も最近おられて、肩たたきまでされているわけです。NTTさんはグループ会社にいかに人員を追い出すか、というような感じでやっておられますが、こうすることで雇用にも役立つわけです。
しかもNTTさんの人員は、50代以上がかなり余っているでしょう。この方々を有効活用できます。アクセス部門はいま赤字だから、あまりいいボーナスももらえない、でもある日突然、2500億円の赤字が何千億を超える黒字になるんです。敷設部門であれば、メタルや光といった物理線をひいている何万人という社員の方々も、嫌々使われるのではなくて、望まれて使われるようになります。そうすれば生きがいも出ます。黒字になれば、もしかしたらボーナスも増えますよね、ということでございます。
夏野：わかりやすいプレゼンだったので皆さんおわかりだと思いますが、１番大きなポイントは光に全面的に替えることで、アクセス会社の維持費用が激減するということ。いまは二つのネットワークを持っていて、それが一番コストがかかるっていう状態にいまある、ということです。とくに田舎の問題は、光に替えるよりも維持コストのほうがかかるじゃないかということで、極論すれば今日から全部光に替えられたら、試算は完璧に合うんですね？
孫：5年で100％切り替えるということで全部試算しています。年次の数値も、全部あります。
夏野：5年間の移行期間で、この赤字は…。
孫：5年間の赤字は徐々に減っていきます。その間に光回線を引いていくためのキャッシュフローも、年次で全部計算してます。
夏野：ただ厳密に言うと、その5年間の負債があると、資金調達はけっこう難しいですよ。
孫：いや、それも全部計算しています。5年間に入ってくる収入もありますから、じつは2.5兆円よりも少ないお金で…。
夏野：とはいえ、「赤字が減る」しかないのだから、新たな収入は基本的に期待できないですよね。この試算では。
孫：入ってくる収入と、減っていく赤字と、全部含めてですよ。資金調達も1年目で2.5兆円全部が必要なわけではないんですね。年次ごとの資金の出入りを計算し、年次のバランスシートとキャッシュフローと、年次の損益計算書もすべて計算します。今日は時間がもったいないから出していませんでしたが、資料は全部計算してます。
夏野：ちなみに計算の前提で、いま1400円と仰っているのは、基本的な電話機能の置換えの部分が1400円で、インターネットへアクセスする分には、いまのADSL分くらいの料金を試算されていますよね？
孫：そうです。
夏野：いまの普及率が33％で、試算ではこれがどこまで上がると考えていますか？
孫：いま光に使われているのと、ADSLやその他で使われていて、全回線のうちの6割くらいはブロードバンドに使われています。その6割がすべて光のブロードバンドに置き換わると。残りは徐々に、4割が3割になり、2割になり…。それでも残った方は、もう電話のままで使ってていいじゃないですかと。ただし光回線を使った電話ですよと。
夏野：たとえば5年後、普及率はどれぐらいと見ていらっしゃいますか。
孫：まあ7～8割ぐらいになるだろうと。
夏野：わかりました。黒字に移行する期間でブロードバンドの普及率も高まると、いわゆる「ARPU（average revenue per user）」と呼ばれる一家庭あたりの通信会社への支払い料金も増えることも前提にして、計算されているっていうことですね。
孫：そうです。すべてちゃんと積算に基づいています。
夏野：あと重要なポイントとして、この光の話と、それから無線というのは両方やらなければいけないという話。それから細かいことですけど移行の周知をどうするかということと、技術的な問題はほとんど解決出来ますよ、というお話。それから最後に、いちばん重要な問題として、これで会社は儲かりますよと。
孫：儲かるから、公金は1円もいらないわけです。
夏野：政府から新たにお金をもらうということはいりませんということですが…。
孫：ある意味儲かりすぎるので、いずれは1400円からさらに値下げできるだけの余力が出てくるはずだと思います。
夏野：そういうメリットもある可能性がありますということですね。
池田：いまの孫さんのお話、数字が全部正しいとすると、これは大変素晴らしい夢のようなプロジェクトです。もしこのプロジェクト評価が完全に正しいとすれば、僕にとって一番わかりやすいのはソフトバンクがNTTを買収することです。いま政府が3分の1の株式を持っていますが、3分の1が国営という中途半端な経営形態はよくありませんから、政府が株式を売るべきだと、僕だけではなく多くの人が言っているわけです。政府がNTT株を放出してもう少し買い足せば、ソフトバンクがNTTを買収することだって不可能ではないですよね。
いまの孫さんの話は、ソフトバンクが政府の株式を買収してNTTを買収するというプロジェクトの、投資家に対する説明だとすると、パーフェクトだと思うんですよ。どういう経営の結果になっても、孫さんが100％責任を持たれるわけだから、これは極めて明快ですね。
ところが問題は、提案される孫さんと、実際にそれを経営する主体が違う場合です。いまの計算は孫さんのプロジェクトでの計算ですが、実際にそれを経営するのは誰なのか。例としては、NTTの連結子会社だとすると、NTTの取締役会が意思決定することになりますよね。その場合には、NTTが孫さんの計算を採用しない可能性もあります。
もう一つの可能性としては、さっき政府が決める公社というのは否定しましたが、実を言えば、政府が決める場合がいちばん辻褄が合うんですね。政府が法律で「全国に光回線を引きましょう」と決
