※この記事は2010年06月17日にBLOGOSで公開されたものです

　国内上場企業で、１億円以上の報酬をもらっている役員の使命と報酬の開示が義務になったことに対して、企業が反発をしているのだという。(*1)

　この件に関しては、完全に亀井の言う通り「たくさんもらっている人は、良い仕事をしていると胸を張ればいい」のである。
　彼らは「好奇の目で見られかねない」と心配しているらしいが、そもそもマジョリティーから外れた人というのは、いつだって好奇の対象である。
　例えば「ワーキングプア」の問題などを考えても、本来は非正規労働を使い捨てにする社会側の問題であるはずが、さも本人の意欲や能力の問題であるかのように語られ、ネットカフェで寝たり、一晩中歩いたり、タバコを吸ったりする姿を撮影されていた。ああしたものは、撮影している本人はジャーナリズムのつもりで作っているのかも知れないが、多くの人たちにとっては、好奇の目で見る対象でしかない。
　今回、反発している企業が、常日ごろからそうしたことを「非人道的だ」として批判しているなら、今回の件に反発する権利もあるかもしれない。しかし、そうではない以上、収入が高いからといって、好奇の目で見られないように配慮しろという意見は通らない。

　そもそも、嫉まれるのが嫌なのならば、嫉まれないように、自身が高額の利益を得ている必然性をアピールすればいいのである。それこそ、慈善団体等に多額の募金をしたり、業者か何かに自身のイメージアップを依頼してもいいだろう。自分がそれだけの高給を得る事が道理にかなっているいうことを、しっかりプレゼンすればいい。多額の収入があるのだから、好奇の目に対してはさまざまな自助努力でカバーするべきである、自分を十分に守れるだけの収入を得て、資産を持っている人間が、プライバシーを国に護ってもらおうなど、甘えもいいところだ。

　そもそも、経営者という存在は、決して自社の経営だけに責任を持つのではない。
　会社を経営するという事は、経済的に重要なのはもちろんではあるが、労働者に働く場を提供し、日本社会の一員として日本の利益に関与する。そのように私たちの社会そのものに大きな影響を与える存在である。いわば、私たちの生活は、経営者の質によって大きく変わるのである。
　例え会社が栄えても、その会社が労働基準法や派遣労働法といった各種法律を無視し、日本社会に大きな禍根を産んでいるとすればそうした企業の経営者は当然批判されなければならない。そうした流れの中に、今回の役員報酬の開示もある。

　役員報酬というのは、決して経営手法のみに対する報酬ではない。
　その人が経営者という立場であることによって、社会に大きな利益を与えているか、むしろ不利益を与えているかによって、高額な役員報酬が、社会全体によって承認されるか否かが決まる。
　だから、自分の仕事と報酬のバランスが、社会に承認されると思うのであれば、正々堂々「胸を張ればいい」のである。そして、我々はしっかり経営者を批判すればいい。
　経営者が正しく好奇の目で見られ、正しく批判される事が、社会全体の利益に繋がるのである。

*1：１億円以上の役員報酬開示　企業反発（読売新聞）http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/mnews/20100610-OYT8T00377.htm

プロフィール
赤木智弘（あかぎ・ともひろ）…1975年生まれ。自身のウェブサイト「深夜のシマネコ」や週刊誌等で、フリーター・ニート政策を始めとする社会問題に関して積極的な発言を行っている。著書に「「当たり前」をひっぱたく」など。