※この記事は2010年06月09日にBLOGOSで公開されたものです

菅新政権が発足した。
私自身は鳩山が辞任する理由も解らなければ、ましてや小沢が辞任する理由も解らないので、青天の霹靂という他ないのだが、選挙対策としては、なぜか支持率の落ちた政権を維持するよりは、新しい体制を発足させ、国民にアピールする事が必要だったのだろう。その辺は理屈ではなく感情である。
こうした、鳩山政権の支持率低下や、新政権の発足に対して、自民党の谷垣総裁は「国民の信を問うべきだ」として、衆議院の解散総選挙を行うようにと発言している。
少なくとも、小泉が産み出した圧倒的多数の議席を、小泉路線を引き継いだ安倍までならともかく、まったく異なる路線の福田や麻生まで含めて、衆議院で４年間みっちり使い回した自民党の総裁が言えた義理ではないだろうとは思う。

今の自民党に対する愚痴はおいておくとして、この「国民の信を問うために、解散総選挙を行うべきだ」というロジックそのものに、私は疑問がある。
確かに、間接民主制を採る我が国にとって、民意と政治の離反というのは、民主主義が機能不全に陥っている状態といえよう。
しかし、そうして変化した民意にオンタイムで政権を合わせていくような政治は、本当に民主主義的なのだろうか。予算編成や数々の審議など、国会の機能を考えても、そのようにすぐさま政権が変化するようでは、議会の機能を果たす事はとてもできない。
また、末期の麻生政権が「カップラーメンの値段」や「漢字の読み間違い」といった、些細なことで批難されたように、マスメディアが重点的に騒げば、いくらでも好きな政党を持ち上げ、それで政治が変わってしまうという事がありえる。それこそ「子供を狙った犯罪が急増している」などという、事実とまったく異なる状況を喧伝して、それが事実であるかのように騙す事ができているマスメディアにとって、政党を扱き落とすことなど、さほど難しくは無いだろう。
長期の民意と政治の離反が機能不全なのと同様に、情動的に政局がいつでも変わりうる状況というのも機能不全であるといえよう。

では、どのくらいのスパンで、政局が変わる事が望ましいのか。
昨年の政権交代は、劇的であったために、さも一時期のマスメディアによる麻生バッシングによって起きたようなイメージがあるが、政権交代は決して一時期のブームではなかった。
日本は衆議院と参議院の二院制であり、参議院は３年に１回半数ずつが改選され、衆議院は４年に１度、選挙が行われる。民主党は衆議院で4年間、参議院で６年間。単純に合わせて10年という事にはならないのだけど、少なくともこの両方の期間、民主党は支持を受け続けた事によって、最終的に政権交代を果たしたのである。
こうして、徐々に民主党の議席が増えていった時間にこそ、民主主義的手続きの「重さ」がある。
政権を変えるという大事に対して、これだけの期間を必要なのである。民主主義とは一時の酔狂によって朝令暮改、政治を変える事ではない。一時的に風向きが変わった事を利用し、「民意を問え」と易々と解散総選挙を叫ぶ事は、むしろ民意の否定であるように、私は思う。

プロフィール
赤木智弘（あかぎ・ともひろ）…1975年生まれ。自身のウェブサイト「深夜のシマネコ」や週刊誌等で、フリーター・ニート政策を始めとする社会問題に関して積極的な発言を行っている。著書に「「当たり前」をひっぱたく」など。