※この記事は2010年04月22日にBLOGOSで公開されたものです

　平成18年12月に成立した改正貸金業法に含まれる、借金の総量規制が６月18日から施行される。(*1)
　これは、個人は年収の1/3を超えては、お金を借りられないという規制であり、多重債務者を減らす効果が期待されている。

　収入の低い非正規労働者が金を借りるのは、必ずといっていいほど、真っ先に「消費者金融」である。
　なぜなら、収入の低い非正規労働者はクレジットカードが作れないので、細かい買い物であればショッピング枠の範疇で利用して、少し大きい買い物は分割払いで。という金利のコントロールができず、最初から金利18%で借りる以外の選択肢はない。
　余談だが、とある大手労働派遣会社では、IDカードに子会社が経営する消費者金融のカード機能をつけて、登録者に配布していた。その派遣会社ではそれを「福利厚生」と称していたが、金利が一般の消費者金融と比べて優遇されているようなこともなく、要は派遣労働者の足元を見た囲い込みである。多額のピンハネを行い、労働者をこき使っておきながら、さらに借金までを負わせようというその商魂は、たくましいというよりも、あさましい。
　話を戻す。消費者金融からの借金というと、その大半はパチンコやお酒などの遊興費というイメージがある。もし、借金の誘引が遊興費であれば、お金を貸さないことによって我慢をさせ、多重債務者を減らすことも可能だろう。しかし、NTTデータ経営研究所の調べによれば、半数以上は消費者金融の利用目的を「日常の生活費」であると答えている。(*2)
　また、当然のことながら、収入の低い非正規労働者は、収入を上げる手段をほとんど持たない。そしてそもそも、こうした非正規労働者の得られる収入は、一人暮らしすら保てないレベルの収入である。生活のためにと一度借りた借金には返すあてもなく、容易に多重責務に陥る。
　そのような状況で総量規制をしてお金を貸さないことにしたとしても、生活のためにはお金を借り続けなければならず、行き着く先は、法の手が及ばないヤミ金である。

　そのような現状があるということで、識者の中には「借金しなければ生活できない人がいるのだから、総量規制はすべきではない or 施行を延期するべきだ」と主張する人がいる。
　確かにそう言うこともできるかもしれないが、では、返済できないことが明白でも、生活のために金を貸し続ければいいのだろうか？
　返済できないほどに借金が増加すれば当人が苦しむばかりではなく、社会全体の不利益につながる。アメリカのサブプライムローン問題なども、金融屋の利益のために低所得者の苦しさにつけ込み、借金まみれに追い込んだ結果として、世界中を巻き込む混乱を生み出してしまった。
　やはり基本としては、現状で回収の目処がつかない金の貸借はするべきではなく、それに歯止めをかける総量規制は、絶対に行うべきである。

　そもそも「借金しなければ生活できない人がいる」のであれば、その人に与えられるべきは「新たな借金の権利」ではなく、「適切な社会保障」である。
　法的な相談や、国である程度の融資を行うような緊急的な対応はもちろんとして、そもそも、お金が無くとも衣食住が保証されるような行政や、企業に対して労働基準法を順守させるような厳しい対応を行うといった、ごく当たり前に国民の権利を守ることが、一番まっとうな対策である。そうした社会体制の上に総量規制を行うのであれば、規制は十分な効果を産み出すだろう。
　総量規制が新たな弱者を生み出すのではなく、総量規制に引っかかるような借金をしている人は、現状においても弱者なのである。そこを勘違いしてはならない。

*1：貸し付け制限導入、改正貸金業法６月１８日から（読売新聞）http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20100420-00001124-yom-bus_all
*2：消費者ローン利用者・利用経験者の借入に関する意識調査（NTTデータ経営研究所）http://www.keieiken.co.jp/aboutus/newsrelease/071106/index.html

プロフィール
赤木智弘（あかぎ・ともひろ）…1975年生まれ。自身のウェブサイト「深夜のシマネコ」や週刊誌等で、フリーター・ニート政策を始めとする社会問題に関して積極的な発言を行っている。著書に「「当たり前」をひっぱたく」など。