林さんの水田で始まった田植え(福島県新地町で=JAふくしま未来提供)

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 3月に起きた福島県沖を震源とする最大震度6強の地震によって農業用のため池や水路の7割が損傷した福島県新地町。水不足から町内にある大半の水田で田植えが大幅に遅れる恐れがあったが、水路が4月29日に仮復旧した。苗の破棄や生育不順を覚悟していた農家から、田植えができることに喜びの声が上がった。

 「水が来るのが6月以降になれば、収穫までの積算温度は1000度を割り、田植えができても生育不良になると覚悟していた。普通に田植えができて、本当によかった」

 10日、栽培面積の半分に当たる20ヘクタールの田植えを終えた林功さん(76)が喜びを隠さなかった。被害確認に奔走した町の職員も「今年も米を作れる、そんな当たり前のことがうれしい」と言った。

 林さんの農地がある町北部の水田約400ヘクタールには、相馬市と宮城県丸森町にまたがる松ケ房ダムから引かれたパイプラインで農業用水が供給されている。しかし地震で本線の接合部が破損。交換部品の製造に1カ月以上かかるとされた。町はJAふくしま未来などに田植え時期を遅らせる異例の要請をした。

 町の農業用施設の被害額が約8億円と県全体の過半数を占めたことから、政府は町を農業関連に絞った局地激甚災害に指定した。復旧費の補助率を上げた一方、同型の交換部品がないか全国に手配し埼玉県内で確保した。

 町によると交換部品が届き、4月24日の工事後に通水した。接合部の漏水が止まり、農家に朗報が駆け巡った。それもつかの間、その先の配管で新たな漏水が確認され、歓声は悲鳴に変わった。

 ただ、損傷部は枝分かれした配管で細く、町は周囲をコンクリートで厚く固めて29日に再通水。田に水が行き渡り、例年通り連休の田植えにこぎ着けた。

 これらは農繁期を乗り切るための応急処置で、堤体などが損傷した29カ所のため池を含む配管の交換や補修は、秋の収穫後に本格化する。

 今回の地震は、昨年2月に起きた同規模の地震から完全復旧する前に起き、被害の激甚化につながった。町は、局激指定による国の補助を活用して、年内の工事完了を目指す。