平気で「減塩食品」を買う人が知らない残念な真実
手軽な減塩食品を使えば、減塩することができる…?(写真:kai/PIXTA)
食品添加物の現状や食生活の危機を訴え、新聞、雑誌、テレビにも取り上げられるなど大きな反響を呼んだ『食品の裏側』を2005年に上梓した安部司氏。70万部を突破する大ベストセラーとなり、中国、台湾、韓国でも翻訳出版され、いまもなおロングセラーになっている。
その安部氏が、『食品の裏側』を発売後、全国の読者から受けた「何を食べればいいのか?」という質問に対する答えとして、このたび『世界一美味しい「プロの手抜き和食」安部ごはん ベスト102レシピ』を上梓した。15年の間に書きためた膨大なレシピノートの中から、たった5つの「魔法の調味料」さえ作れば、簡単に時短に作れるレシピを厳選した1冊だ。
発売後、たちまち7刷6万部を突破し、各メディアで取り上げられるなど、大きな話題を呼んでいる安部氏が「平気で『減塩食品』を買う人が知らない残念な真実」について語る。
A美さんが食品をひっくり返してチェックする理由
都内のとあるスーパー。パート帰りの主婦、A美さんは忙しく買い物に追われています。
食品を手に取っては表示を見て、元に戻したり、かごに入れたり。
拙著『食品の裏側』で私は「安全性の高い食品を買うためには、ひっくり返して表示をよく見ること。まずは『手首の練習』から!」と冗談交じりに書きましたが、A美さんはまさにそのお手本を示してくれているようです。
A美さんがなぜ、食品選びにそんなにこだわりをもっているのかというと、「減塩食品を選ぶため」なのです。
じつはA美さんの夫はまだ40代前半なのに、健診で「高血圧予備軍」と指摘され、医師に「このままでは薬ですよ」といわれてしまったのです。それで一家を挙げて減塩生活に踏み切ったというのです。
しかし、この「減塩食品」には、「思わぬ落とし穴」が潜んでいることも少なくないのです。
一生懸命に減塩食品を選んでいるA美さんのカゴには、下記のようなものが入っています。
・減塩梅干し
・減塩しょうゆ
・減塩食塩
これらを使えば、確かに減塩食にはなるかもしれません。しかし長年、食品加工・添加物に関わってきた私からすれば、これらの「減塩食品」にはA美さんだけでなく、多くの人が気づいていない「落とし穴」があるように思えてならないのです。
「減塩梅干し」はこう作られる
まず「減塩梅干し」。本来、昔ながらの梅干しは「梅、しそ、塩」だけで作られます。その際、通常は梅の重量の約20%の塩を使います。
ところが現在売られている「減塩梅干し」は塩分が10%以下のものが多くなっています。A美さんの買ったものは8%ですが、もっと低い3〜6%というものも売られています。
「減塩梅干し」はどう作るかというと、一度、20%の塩分で漬けて、漬けあがったものを水にさらすなどして「脱塩」するのです。
脱塩すると、どうしても梅のうま味が流出してしまうので、そこを「何か」で補いたくなります。「減塩梅干し」には「はちみつ梅」「カツオ梅」が多いのはそれが理由です。
以前はこれを「酸味料」や「甘味料」などの「添加物」で補っていましたが、今は「脱塩」の技術が向上したこと、「無添加・安全性の高いもの」が求められる背景があることから、添加物はあまり使われなくなってきています。
「無添加で減塩なら、それに越したことはないのではないか」と思われるかもしれません。しかしそこにこそ、じつは「落とし穴」があるのです。
【落とし穴1】しょっぱさを感じないから、食べすぎてしまう
塩分には「絶対塩度」と「舌感塩度」があります。
「絶対塩度」とは、実際にその食品に含まれる塩分のこと。100グラムに対して3グラムなら3%、5グラムなら5%です。これに対して「舌感塩度」は、「舌」で感じる「しょっぱさ・塩辛さ」です。これは実際の塩分量とは必ずしも一致しません。
つまり同じ2%の塩分でも「あ、しょっぱい!」と感じることもあれば、添加物の働きなどで、あまり塩気を感じないこともあります。
「減塩梅干し」に限らず、「減塩食品」は、食べたときに塩辛さを感じさせないように、いろいろな「工夫」がされています。はちみつやカツオ節を使うのもそうだし、「甘味料」などの添加物が使われることもあります。食べたときに「しょっぱい!」と思われるものは売れないからです。
「絶対塩度」が低いだけではなく、「舌感塩度」が低いことも求められているのです。
3%の塩水も「添加物の魔力」で飲めてしまう
「舌で感じる塩辛さ」というのは、簡単にごまかされてしまうものです。
『食品の裏側』で詳しく解説し、「日本人の舌を壊す『黄金トリオ』の超ヤバい正体」でも紹介したように、添加物やさまざまなエキスの力を借りれば、3%の塩度のカップ麺のスープであっても、しょっぱさをあまり感じなくなるどころか、コクのあるうまみ味になります。
3%といったらほぼ海水の塩分濃度です。海水なんてそのままではしょっぱくてとても飲めませんよね。でも、添加物とエキス類を駆使し、あの手この手で上手に味付けされていれば、おいしく飲み干すことができてしまうのです。
つまり、「舌感塩度」の低いものは、それと気づかず食べすぎてしまい、結果的に「塩分の摂り過ぎ」になってしまう危険性があるのです。
加工技術が向上したとはいえ、やっぱり減塩・低塩食品はどうしても「物足りなさ」があります。そうなると、結果的に「量」が増えてしまうのです。
【落とし穴2】物足りないから、倍量を使ってしまう
「減塩梅干し」も、塩分だけでなくうま味が抜けてしまっているから、1個では足りず、2個、3個と、つい食べたくなります。
「減塩しょうゆ」も、もちろん昔よりははるかに改良されてきてはいるけれど、やはり普通のしょうゆに比べるとおいしさが足りないのは否めません。物足りないからたくさん使ったり、かけたりしてしまいがちなのです。
そうでなくても減塩食品は「少しぐらい食べすぎても大丈夫」と油断しがちです。
50%カットの減塩しょうゆを「物足りないから」と2倍使ったら、「2分の1×2=1」で塩分摂取量は結局、同じになってしまいます。いくら減塩でも、たくさん食べたら意味がないのです。「食塩の摂取量=塩の濃さ×食べる量」と、ぜひ覚えておいてください。
【落とし穴3】「減塩食塩」はおいしくない
A美さんは「減塩食塩」も購入しています。「これを使えば、料理全体の塩分が減らせるから便利」だというのです。
食塩は「NaCl(塩化ナトリウム)」ですが、このナトリウムの代わりに、「塩化カリウム(KCl)」を一定量使ったものが「減塩食塩」です。半分を塩化カリウムに置き換えれば50%、食塩をカットできます。
塩化カリウムもしょっぱさはあるのですが、ちょっと苦みがあって、ちょうど昆布に吹いた白い粉みたいな味です。正直言っておいしいとは私には思えません。我慢して使っている人もいますが、私はあまりおすすめしませんし、「減塩食塩」は腎臓病などで、カリウムを控える必要のある人は、もちろん使えません。
日本人は塩の摂り過ぎであり、減塩を心がける必要がある――。これはまったくその通りですが、安易に「減塩食品」に頼ることで、かえって塩分の摂り過ぎになってしまうという、まさにそのことを私は訴えたいのです。
しっかり漬かった梅干しは少量で十分。2個も3個も食べられません。塩鮭だって、しっかり塩が入ったものは、何切れも食べられません。
あくまで私見ですが、「減塩梅干し」より、いい塩でしっかり漬かったものを、少量味わうという食べ方のほうがいいと思うのです。
しょうゆだって、減塩しょうゆをバシャバシャかけるよりも、昔ながらの製法で作った「良いしょうゆ」を少なめに使うほうがよっぽどおいしいし、減塩につながると私は考えます。
和食でも「工夫次第」で減塩は十分可能
そしてなにより大事なのは「薄味に慣れる」「素材そのものの味を味わう」という味覚づくり、舌づくりです。
うちの家族も私も、市販のスナック菓子やカップ麺を食べ切れません。味が濃すぎるからです。また仕事で市販のお弁当をいただくこともありますが、ほとんどのものが味が濃くて、あとからのどが渇きます。
家でいつも食べているのは和食ですが、外のご飯は、家の食事としょっぱさが全然違うので、舌がビックリしてしまいます。
味は「慣れ」です。最初は「味が薄い」「物足りない」と思っていても、続けていけば舌が慣れてきます。つまり、日ごろから素材の味を生かした「薄味の調理」を心がけていれば、自然と減塩も達成できるのです。
ちなみに、私が開発した「安部ごはん」は「和食だから塩分が多いのでは?」と思われるかもしれませんが、そうではありません。市販の「◯◯の素」を使わず、「魔法の調味料」をベースに手作りするため、かなり塩分は控えめです。和食であっても手作りすれば、心配するような塩分過多にはならないのです。
たとえば、私が開発した「超ヘルシー豆乳太平燕(タイピーエン)」は、市販のチャンポンの素を使うより塩分が半分近くなるようにしつつも、海鮮の旨味がスープに溶け込んでクセになる味わいになるよう、熊本名物「太平燕」を家庭で手軽に作れるようにアレンジしました。また、「さっぱりトマト酸辣湯(サンラータン)ラーメン」では、塩を控えめにし、トマトの酸味を生かすことで、スープのおいしさを引き立てるレシピにしています。
安部氏が開発した「かえし」さえあれば10分で簡単に作れる「超ヘルシー豆乳太平燕」(撮影:佳川奈央)
安部氏が開発した「かえし」さえあれば15分で簡単に作れる「さっぱりトマト酸辣湯ラーメン」(撮影:佳川奈央)
安易に「減塩食品」に頼らなくても、工夫次第では、塩分の量を減らすことは、誰にだって十分可能なのです。
みなさんもぜひ和食で塩分控えめの「健康的な食生活」を送っていただきたいと思います。
(安部 司 : 『食品の裏側』著者、一般社団法人 加工食品診断士協会 代表理事)