良いことも悪いことも、人生、迷うことばかり。そんな他愛もない日常をゆるゆると綴ったアルム詔子の「日日是迷走」。

今回は、誰もが一度は戦ったことがあるのでは…な相手、カラスについての話である。

じつは、私もゴミ出しの際に、何度かバトルとなったことがある。その経験で分かったのは、同じカラスでも地域によって戦い方が違うこというコトだ。

人間とカラスのあくなき戦い。そして、その戦いを制したのは…?

じつは、意外な人たちだったのである。

都会のカラスは、卑怯な集団戦法?

名古屋に移住して驚いたことがある。

それは、生ゴミが散乱している光景をよく見かけるコトだ。

最初は、私の住む地域だけかと思ったのだが、そうでもないようだ。車で市内の他の地区を通ったときにも、同じような光景を度々目撃した。そして、そのあまりの惨状に驚いたというワケである。

一体、誰が…って。決まっている。ヤツしかいない、というかヤツらか。

あの無法者のカラスたちである。

私たちの住む家は、大通りから少し内側に入った場所にある。その大通り沿いに大きなマンションがあるのだが、そこのゴミ集積場は、なぜか決まって、いつもカラスに荒らされている。公道にゴミが散乱し、通行しづらく、とても不衛生なのである。

ただ、住人のゴミの捨て方に問題があるワケではない。それに、マンションの管理人は、出されたゴミの上に黒い網を覆いかぶせ、万全のカラス対策まで施している。にもかかわらず、いつの間にやら網は外され、カラスに荒らされる。

どうやら、カラスの方がより一枚上手のようだ。というのも、一度、カラスが荒らしている現場に遭遇したのだが、そこで初めて、名古屋のカラスの恐ろしさを知った。1羽が先に偵察し、問題ないと分かれば、多くのカラスたちがあとから集結してくる。

集まったカラスは、よってたかってゴミをつつきまくり、通行人の方が遠慮するという構図。カラスたちは、人間がそばを通ってもガン無視だ。なんせ彼らは強く、神経も図太い。私もつい、その道を避けてしまったほどである。

ただ、ゴミの散乱問題は、それだけでは終わらない。というのも、ゴミは究極の個人情報だ。捨てるものだからとそこまで気を遣わない人も多いが、じつにプライバシー情報が満載。そう考えれば、自分の捨てたゴミが散乱しているなんて、プライバシーの観点からすれば、本来あってはならないコトなのである。

難しいのは、相手が人間ではないというコトだ。交渉できるワケもなく、決まって荒らされるのはいつも同じ場所だから、被害が特定の人たちに集中する。

特に、うちの近くの大通り沿いは、かなりの確率で荒らされている。じつは、件のマンションから数軒先の唐揚げ店や少し手前のマンションなど、皆同様に被害に遭っていた。しかし、内側に入った他の通りは被害ゼロだ。

「きっと、あの大通りがカラスのテリトリーなんだよな」とバートナーの彼。

「すごい破壊力やんな。ホントうちの前の通りじゃなくて良かった」と私。

場所は近いながらも被害がなかったことに、申し訳ないが、少し安堵した。

マヌケにも、この時の私たちは思いっきり油断していたのである。

名古屋のカラスは集団戦法が得意?

不穏な鳴き声に違和感を感じた日

ある日の朝。

彼が朝食を食べながら、怪訝な顔をした。

「なんかさ、カラス、しゃべってない?」と彼。

「はあ?」

「ほら…」と彼が窓を開ける。

すると、すぐそばの電線に1羽のカラスが止まっていた。

朝っぱらから、あらぬ方向を向いて鳴いている。

ただ、「カアカア」ではない。なんと表現すればいいのか。単純に同じ鳴き声を繰り返しているワケではないのだ。なるほど、確かに彼の言った通り「しゃべっている」というのが的を得ている。

「珍しいよな」

「まあ、そりゃカラスくらい、どこにでもいるって」

お弁当を作っている最中だったこともあり、私は一切気にも留めなかった。

「いや、そうじゃなくてさ、この変な鳴き声がさ」

「そう?」

「なんか、不穏じゃね?」

「なんで? 地震とか天変地異の前触れって、そういう意味?」

「そんなんじゃなくて、なんか他のカラスを呼んでるみたいでさ」

「考えすぎじゃない?」

お弁当作りのあとは、自分のリモートワークの準備だ。なにしろ、私の朝は忙しく、カラスの鳴き声に構う余裕などなかったのである。

その日は、ちょうど「燃えるゴミ」の回収日だった。ちなみに、ゴミ出しは彼の担当だ。台所やリビング、洗面所の3つのゴミ箱からゴミ袋を回収して、名古屋市指定のゴミ袋に1つに詰める。ここまでは協同作業だが、その後、彼が指定場所まで持っていくという段取りである。

もちろん、ゴミ袋をそのまま置くワケではない。うちの集積場にも黒い網が備え付けられており、その中に入れて出すという仕組みだ。この日は朝が早く、7時にゴミを出した時点で他の世帯のゴミは置かれていなかった。

それから20分後。

彼が出勤するのに伴って、見送りにと一緒に家を出た私。

なんと、そこには目を覆いたくなる光景が…。

うちのゴミが通りの真ん中に散乱していたのである。それは悪夢のような惨状だった。

そのとき、低めの「カア」という鳴き声が頭上で響いた。

上を見ると、先まで1羽だったカラスが、6羽にまで増えていた。揃いも揃って、じとっとした目で私たちを見下ろしていたのである。

これまでノーマークだったうちの前の通りが、残念ながらターゲットになった瞬間であった。

【後編につづく】