人生100年時代。お金のために、やりがいのためにも、元気なうちは働きたいと考える人も増えてきました。若い頃のようにフルタイムでは働けないけれど、60代でも、70代でも、80代でも、90代でも、無理なく仕事を続けたいですね。でも、本当にそんなことができるのでしょうか? 仕事の内容は? 働く時間は? 毎日の暮らしは? 人間関係は? そんな疑問に答えるヒントが、97歳の現役看護師・池田きぬさんの著書「死ぬまで、働く。」(すばる舎刊)の中にありました。

97歳、現役看護師・池田きぬさんが語る、働くということ

池田きぬさんは、1924年(大正13年)生まれの97歳。現在、三重県津市一志町にある、サービス付き高齢者向け住宅「いちしの里」で看護師として働いています。看護師の仕事を始めてから80年。結婚、出産、子育て、介護、ご自身の病気など、いろいろなことを経験しながらも、ずっと仕事を続けてきました。ご主人は20年ほど前に亡くなり、息子さん2人は別の場所で暮らしているので、今はひとり暮らしです。

職場の施設内の移動には配膳用ワゴンを活用<写真>

池田さんは言います。

「『そのお年まで働き続けるなんて、すごいですね』と言われることがありますが、すごいことなんてありません。ただ、目の前に仕事があるから、それをしてきただけです」

現在は、週1〜2回、ほとんどが自分よりも年下だという入居者さんの看護を、担当しています。

そんな池田さんの仕事のやり方、そして、年を重ねても働き続けるコツをのぞいてみました。

 

●一看護師として、謙虚に、そして気楽に仕事をする

現在の職場の看護師募集の面接を受けたのは、88歳のとき。30代後半から、師長(当時は婦長)などの責任のある仕事をしてきましたが、最後は一看護師として、仕事を全うしたいと思いました。「だれも知っている人がいない職場で、そおっと勤めよう」と考えたそうです。

池田さんを採用した、「いちしの里」の社長・淺野信二さんによると、「池田さんが面接にきたとき、88歳と聞いてびっくりしました。でも、池田さんの謙虚の人柄がいいなと思って、採用しました。あちこちで責任者を歴任してきたキャリアのある人なのに、『何でもやります。私は一生看護師をしていたい』と言ってくれました」。

現役時代にキャリアがある人は、それを引きずって偉そうに振る舞うこともあります。でも、職場が変わればやり方も変わります。自分の積み上げてきた能力は活かしつつ、謙虚な姿勢が大切ですね。

「池田さんは60代のとき、国から叙勲(宝冠章・勲六等)を受けていたそう。これも随分後で知りました。面接の時も、現在の職場でも、自慢したり偉ぶったところがまったくありません。若い人たちのお手本になる、頼りになる存在です」と淺野さん。

一方で、池田さんは「今は一看護師として、与えられて仕事をこなすのに一生懸命です。でも、管理の仕事をしていたときより、気はラクですね。入居者さんにゆっくり向き合えます」とも言います。今の自分を受け入れて、肩の力を抜いて働くこと。これも年を重ねてからの働き方のコツです。

●週1〜2回の勤務。働く時間、働き方は今できることで

新しい職場で働き始めた池田さんは、最初は月12日くらいの勤務。仕事に慣れてきた2年目からは、月21日とほぼ常勤に。その後、90代前半は週3〜4日に減らし、今は週1〜2回の勤務になりました。

「最近は、勤務日の前日に職場に行って、その日は職場に泊まらせてもらっています。家から職場までバスで通っていますが、バスの本数が少ないので泊まり込みは助かります。夜に手が足りないときは、入居者さんの夕食の介助や夜中に起きてくる入居者さんのお世話をすることもあります。そして、翌日の勤務日は5時に起きて、5時半から仕事を始め、12時に終了。持ってきたお弁当を食べて、家に帰ります」と池田さん。

主な仕事は、入居者さんのバイタル(脈拍、呼吸、体温、血圧)測定や食事がとれない人のための胃ろうなど。長年担ってきた看護の仕事の中でも、ごく基本的なことが中心です。「仕事は慣れたことが多いですが、日々、緊張感は持っています。でも、緊急性が高い病院に勤めていたときとは違い、雰囲気は穏やかです」と池田さんは言います。

自分の年齢に合わせて、働く時間、働き方を調整するのは長く働くコツです。若い頃と同じようにではなく、今、できることをするのが大切ですね。

池田さんのこんな言葉が印象的です。

「勤務が終わると、体はえらい(=しんどい)です。でも、家に帰ってくると、『今日も働けた』という感覚が爽やかなんです」

 

●仕事をキチンとこなすために心がけていること

若い人と同じように、キビキビと働けないのは仕方がないことです。ミスしないように、池田さんはどんなことをしているのでしょうか。

「『年取っているからあかんな』と思われても、しゃくやさかい(笑)。『しっかり働かないと』という気持ちは、いつも持っています。若い人のようなスピードは出せないから、自分のペースでさせてもらっています」と池田さん。いつも気をつけている、2つのことを教えてもらいました。

 

・キチンとメモをすること

ずっとしている慣れた仕事ですが、忘れないようにすぐにメモをします。入居者さんの体温、血圧などの数値はもちろん、体調の変化など気になったことも必ず。後で、看護記録をまとめるときも、メモを参考に記入漏れがないように気をつけます。

 

・何事も丁寧にすること

入居さんに胃ろうをするとき、チューブが外れないように丁寧に。ほかの作業でも、少し時間がかかってもひとつずつ確実に。やり直しになると、余計な時間がかかるからです。

さらに、たくさん歩くと膝が痛くなってくるので、最近は、できるだけ歩かなくていいように省力化に努めているとか。

「動き出す前に段取りを考えて、同じ場所の仕事はまとめるように。仕事は減らせないので、歩くのを減らしてラクしようとしています」