電車内でスマホ、迷惑なときも…

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 電車の席に座っていると、隣の乗客がスマホを操作することはよくあることです。そうしたとき、その乗客の肘が突っ張って自分の体に当たり続け、不快になった経験のある人は多いのではないでしょうか。特に冬は、服が厚手なため余計に気になります。ほとんどの場合は、我慢するか自ら席を移動するしかないのですが、中には、自分の肘で押し返そうとする人もいるようです。こうした行為は法的に問題があるのでしょうか。佐藤みのり法律事務所の佐藤みのり弁護士に聞きました。

理論上は「暴行罪」だけど…

Q.両隣に人が座っているのに、肘を突っ張ってスマホを操作する行為は、法的に問題ないのでしょうか。横の座っている人を窮屈にさせており、「座席占有権を侵害している」とはいえないのでしょうか。

佐藤さん「法的に問題があるとはいえません。電車の座席に座っている人に、法律で保護される権利まで認めるのは行き過ぎのように思います。むしろ、マナーの問題だと思います。

確かに、民法には『占有権』という権利が定められていますが、占有権は『自己のためにする意思をもって物を所持すること』により取得されます(民法180条)。『所持』とは、物に対する事実上の支配のことをいい、事実上の支配があるかどうかは、社会通念、いわゆる常識によって決まります。

電車の座席は、譲り合うことも多いものですから、『座っている人が事実上支配している』とまでは評価できないでしょう」

Q.スマホを操作する乗客の肘が突っ張って自分の体に当たり続け、不快になったとき、肘を押し返すと暴行罪になるのでしょうか。

佐藤さん「故意に人の身体に対して不法に有形力を行使すれば、暴行罪は理論上、成立します。肘を押し返す行為は、故意に相手にぶつかっているため、暴行罪に当たり得る行為ではあります。

ただし、故意にぶつかったのか、肘が当たってしまっただけなのかは、はっきりしないことが多いですし、肘を押し返すのは比較的軽微な行為であるため、悪質性が高くなく、実際に暴行罪に問われる可能性はほとんどないでしょう。

ただし、押し返すことで隣の乗客とトラブルになる危険性があります。たとえ、相手が先に、肘を突っ張るというマナー違反をしていたのだとしても、押し返すことは避けましょう」

Q.例えば、座る位置を変えるふりをして、さりげなく肘を押し返した場合でも法的な問題はあるのでしょうか。

佐藤さん「座る位置を変えるふりをして、さりげなく肘を押し返した場合、故意なのか過失なのか、さらに区別がつきにくくなります。逮捕されたり、起訴されたりする可能性が下がるのではないかと思います。

ただし、相手に分かるようにぐいぐい押し返す場合であっても、さりげなく押し返す場合であっても、それがきっかけでトラブルになる危険があるのは同じです。場合によっては、お互い頭に血が上ってしまい、殴り合いになったり、電車を降りた後も追いかけられたりすることもあり得ます。

そうなれば、罪に問われたり、賠償責任を負ったり、また、雇用されている会社からも責任を問われるなど、さまざまな問題が生じることがあります。繰り返しになりますが、たとえ相手にマナー違反があったのだとしても、自分から反撃することは避けましょう」

Q.口頭で「肘を引っ込めてほしい」と言うと、相手が逆上する可能性もあり不安です。口頭で注意するのはやめた方がよいのでしょうか。

佐藤さん「口頭でお願いすることは、一つの解決策ではあると思います。ただ、相手がどんな人なのか分からないため、その声掛けがきっかけで、相手が逆上する可能性も否定できません。声を掛けるのであれば、マナー違反をとがめるような言い方は避け、お願いする姿勢が大切なのではないかと思います」

Q.スマホを操作する乗客の肘が突っ張って自分の体に当たり続けたとき、どのように対処すれば、法的にも問題にならないのでしょうか。

佐藤さん「隣の乗客の肘が当たって、どうしても気になるような場合には、席を立つのも一つの方法かと思います。公共交通機関は、いろいろな人が利用するもので、自分だけの居心地のいいスペースを主張することは難しく、譲り合いや思いやりの精神が大切な場所です。マナーを守りながら、ある程度の我慢もしつつ、多くの人が気持ちよく利用できるよう努めることが大事なのではないでしょうか」