アメリカ空軍が開発する「ラピッドドラゴン」は、既存の輸送機を、大きな改修もなしに大容量ミサイルキャリアへと一変させる新兵器です。いたってシンプルな装置ゆえに、自衛隊への導入も容易なものと見られます。

最終発射試験成功 アメリカ空軍が開発中の「ラピッドドラゴン」

 2021年12月13日(月)、アメリカのフロリダ州にあるエグリン空軍基地の洋上試験場にて、アメリカ空軍の特殊作戦機MC-130Jの機内から長射程巡航空対地ミサイルJASSM-ERの試験弾(FTV)を搭載したパレットが投下されました。


アメリカ空軍とロッキード・マーチンが開発中の「ラピッドドラゴン」。MC-130Jへの搭載作業(画像:アメリカ空軍)。

 その後、パレットから下向きに垂直に切り離されたFTVは、翼を展張してエンジンを点火し飛行を開始、目標に命中しました。このパレットとJASSM-ER、そして目標の位置情報などを受信する装置などを組み合わせたシステムこそ、現在アメリカ空軍が開発を進めている新兵器、「ラピッドドラゴン」です。

輸送機が爆撃機に早変わり その内容とは

「ラピッドドラゴン」は、現在アメリカ空軍で運用されている各種輸送機の貨物スペースにパレット式のミサイル発射装置を搭載して、大量のJASSM-ERを一度に発射することができることを目指したシステムです。パレットは、機体の大きさやペイロードの重さに合わせて、搭載するJASSM-ERの数を変更できるようになっていて、たとえばC-130輸送機であれば6発、C-17輸送機であれば9発のJASSM-ERをそれぞれひとつのパレットに搭載することができます。


C-17A輸送機からの空中投下試験に臨む「ラピッドドラゴン」(画像:ロッキード・マーチン)。

 また、開発に携わっているアメリカの防衛関連企業大手、ロッキード・マーチンが公開している「ラピッドドラゴン」について解説した動画によると、C-130であればふたつ、C-17であれば4つのパレットを搭載可能と見られ、そうであるとすれば、C-130は12発、C-17は36発ものJASSM-ERを運用可能ということになります。

 これがいかにすごいことかというと、現在アメリカ空軍で運用されている爆撃機であるB-1Bが搭載可能なJASSM-ERの数が24発ですので、なんと爆撃機が搭載可能な数以上のJASSM-ERを積み込むことができるのです。

「ラピッドドラゴン」がもたらす大きなメリット

「ラピッドドラゴン」の最大の特徴は、輸送機側に特段の改修を施す必要がないという点です。そのため、一度パレットを投下してしまえば、その後は輸送機としての任務にすぐさま復帰できるということになります。言い換えれば、「ラピッドドラゴン」は輸送機の活用の幅をさらに広げたものと評価することができるでしょう。


「ラピッドドラゴン」の運用概要図。輸送機から投下されるまでは、通常の貨物の空中投下手順と変わらない(画像:空軍研究所/AFResearchLab)。

 さらに、「ラピッドドラゴン」はアメリカ空軍に大きなメリットをもたらすことが期待されます。まず、輸送機に爆撃機の能力を肩代わりさせることで、B-1BやB-2といった爆撃機、さらにF-15EやF-16、F-35といった戦闘機をより脅威度の高い目標の攻撃に集中させることができます。さらに、複数の輸送機を用いれば、大量のJASSM-ERを一挙に敵に向けて発射することができるため、敵の防空システムを飽和させることも可能になるでしょう。

 一方で、敵にしてみれば、輸送機に外観上の変化もないため、どの輸送機に「ラピッドドラゴン」が搭載されているのか判別することはほぼ不可能です。そのため、あらゆる機体からの攻撃の可能性を考慮しなければならず、攻撃よりも防御にリソースを割かなければならなくなります。これは、たとえば中国のように現在アメリカ軍に対して対艦ミサイルや弾道ミサイルといった攻撃的な性質の兵器で対抗しようとしている国に対しては、特に有効と考えられます。

実は日本も無関係ではない?

 この「ラピッドドラゴン」、実は日本も無関係ではないかもしれません。というのも、先ほど説明した通り、「ラピッドドラゴン」は輸送機に特段の改修を施すことなく巡航ミサイルの運用能力を付与することができるからです。したがって、航空自衛隊が運用しているC-130輸送機や、場合によっては国産のC-2輸送機でも、将来的には「ラピッドドラゴン」を運用することができるようになるかもしれないのです。


F-16戦闘機から投下される長射程空対地ミサイル「JASSM-ER(統合空対地スタンドオフミサイル・射程延長型)」(画像:アメリカ軍)。

 実際に、アメリカ空軍研究所が発表した資料では、「ラピッドドラゴン」について「外国の友好国や同盟国に対して戦略爆撃能力を与えることができる」と説明がなされています。折しも昨今、敵基地攻撃能力の議論が盛り上がっている日本にとって、今回の試験成功は重要なニュースになるかもしれません。

 この「ラピッドドラゴン」、実はその名前はかつて中国で使用されていた、一度に大量の矢を発射できる兵器に由来するようですが、それが対中国を意識した兵器の名前に冠されるというのは、何とも皮肉な話かもしれません。