羽田空港近くの海際にたたずむ、途切れた橋――かつて首都高で使われ、運用停止後もそのままとされていた「羽田可動橋」が再び注目されそうです。ただし、この橋がそのまま使われるとも限りません。

謎の構造物? 羽田のブツ切り橋とは

 羽田空港の近くにある、使われていない首都高の途切れた「橋」、これが再び注目されるかもしれません。
 
 この橋は「羽田可動橋」。東京都大田区の森ヶ崎地区と、羽田空港島の間を流れる海老取川の河口部にあります。川の前後に高架道路があるものの、この橋は2つの橋桁が川の流れの方向に並列しており、途切れています。


途切れた状態の羽田可動橋(画像:首都高速道路)。

 可動橋というように、この2つの橋桁をクルリと回転させて、1本の橋としてつなげることができます。日本では可動橋自体が珍しいですが、なかでもこの「旋回橋」は、京都の天橋立など数か所しかありません。とはいえ、長らく途切れた状態。前後の高架道路とも、いまは使われていないのです。

 橋はかつて、1号羽田線の入口ランプとして使われていたものです。1990(平成2)年、川の南側に位置する空港西入口から上り本線へ合流するランプの一部として開通しました。

 この橋に並行して、首都高1号羽田線の水底トンネル「羽田トンネル」が通っています。橋が設けられたのは、湾岸線が未開通だった当時、羽田トンネル付近でしばしば渋滞が発生していたため。空港入口(現・空港西入口)から入ったクルマが、トンネルを経由せず本線に合流できる迂回路として、このルートがつくられました。

 しかし1994(平成6)年の湾岸線開通後(当時、本牧ふ頭以南は未開通)、羽田トンネル付近の渋滞はほぼ解消され、1998(平成10)年に可動橋は運用を停止。それから23年間、ほぼ使われていません。

 ただ、首都高速道路はある理由から、この橋をずっと残し続けていました。そしてついに、この橋の活用を議論するときが来そうです。

橋は今後使われる? それとも取り壊し?

 首都高は最初の開通から約60年を経て、複数の区間で老朽化が進行しています。2021年12月23日(木)には、今後の「大規模更新」「大規模修繕」の在り方を話し合う委員会が立ち上げられ、第1回会合が行われました。

 委員会は今後、新たに大規模更新・大規模修繕の対象とする区間の選定などを行いますが、会合後の記者会見で委員長の前川宏一さん(横浜国立大学大学院教授)が唯一「ここだけは絶対にやる」と話したのが、羽田トンネルでした。

 羽田トンネルは1964(昭和39)年に開通した首都高初の水底トンネルで、経年劣化に伴って浸入した海水により、コンクリート内部の「鉄筋が消失するほどの激しい腐食」が発生しているといいます。今後、造り替えに近いような大規模な工事が行われると考えられます。

 こうした工事を行うさいに首都高で課題となるのが、迂回路の確保。羽田可動橋を含むランプウェーのルートは、この迂回路になる可能性もあって残されてきたのです。


羽田可動橋は近くで見られる(乗りものニュース編集部撮影)。

 ただ、「可動橋が設けられた当時と状況は変わっています」。こう話すのは、首都高速道路 計画・環境部長 淡中泰雄さんです。ここが可動橋という特殊な構造になったのも、上流の工場とのあいだで船舶の通行があったためですが、その工場はすでになくなっているそう。

 仮にこの橋を迂回路にするとしても、元来が一方向のランプウェーであり、本線の交通量を引き受けるには疑問が残ります。したがって、可動橋そのものを別のものにする可能性もあります。

 そもそも、本線が水底トンネルとなったのも、羽田空港に近いことによる航空法の高さ制限の関係からだそうですが、約60年を経て、羽田空港も大きく変貌しています。淡中さんは今後、羽田トンネルの大規模工事について、航空法も考慮しながら、その構造の在り方や迂回路を検討していくと話しました。


※一部修正しました(12月28日14時28分)。