週刊東洋経済「未来の成長企業」を特集 週刊ダイヤモンドは「強い株」、週刊エコノミストは「東証再編」
「週刊東洋経済」「週刊ダイヤモンド」「週刊エコノミスト」、毎週月曜日発売のビジネス誌3誌の特集には、ビジネスパースンがフォローしたい記事が詰まっている。そのエッセンスをまとめた「ビジネス誌読み比べ」をお届けする。
今週は3誌ともに、株関連の特集になった。「週刊東洋経済」(2021年12月4日号)の特集は、「発掘!未来の成長企業」。GAFAMやメルカリの次に頭角を現す、新しい主役たちを探している。
成長企業の発掘方法「給与」の変化に注目!?
東洋経済では、時価総額1兆円未満の成長期待企業500社を「東洋経済500」として選定している。対象企業で過去3期の平均売上高成長率がトップになったのは、プレミアアンチエイジングだ。「DUO」ブランドの基礎化粧品を柱とする新興企業で、平均売上高成長率は約88%に及ぶ。このほか、個人投資家用のロボットアドバイザーで首位に立つウェルスナビにも言及、預かり資産は6000億円を突破したという。
成長企業を発掘する方法として、この3年間の給与の変化にも注目している。社員の平均年収を増やした企業ランキングを掲載している。1位はメルカリの83.3%、2位はAbalanceの55.0%、3位はエスプールの50.1%。社員に利益を還元しつつ、成長の布石を打っている企業だ。
パート2では、積極的なM&Aで業容を拡大した飛躍企業を紹介している。今週の「週刊ダイヤモンド」の特集にも登場する、ナレッジプラットフォームのビザスクは、小が大を呑む異例の買収だったという。
ネットや文献ではわからない専門領域での情報をもつアドバイザーと、事業に役立つ情報を得たい顧客企業をつなぐ「スポットコンサル」と呼ばれる仕組みを仲介している。売上高は上場直前の2020年2月期で9.8億円だったが、22年2月期はその3倍以上の34億円を見込む。
米国の同業、コールマン・リサーチ・グループを112億円で買収。コールマンはビザスクの2倍近い売り上げを稼いでおり、「小が大を呑む」買収となった。ビザスクの株価は4000円前後から6000円台に急騰した。同様にM&Aを駆使した企業として、ソフトウェアの品質保証を手掛けるSHIFTやオンライン診療のシステムを扱うメドレーなどを取り上げている。
米国に眠る「スター企業」として、増収率トップの100社をランキングしている。1位はバイオ製薬のビオンテックだ。今期はファイザーと共同開発した新型コロナワクチンが貢献し、売上高は前期比で約36倍に急拡大する見通しだ。2位のモデルナも新型コロナワクチンの開発で莫大な売り上げを見込む。これらのバイオ薬品企業は米国が強い分野だ。
時価総額の上昇率ランキングでは、EVベンチャーのニオが2位、EVのパイオニアであるテスラが4位、5位のクラウドフレア、6位のビル・ドットコム・ホールディングスはクラウド関連サービスを手掛ける。
もう一つは「個性派eコマース」の企業群だ。13位のエッツイはオンラインでハンドメイド品やビンテージの売買プラットフォームを運営。17位のファーフェッチは高級アパレルに特化した通販を展開している。これらの中に次世代のGAFAM候補がいるのだろうか。
7つのキーワードで優良株を紹介
「週刊ダイヤモンド」(2021年12月4日号)の特集は、「逆境に克つ!強い株」。中間決算を総まくりし、いま注目すべき7つのキーワードに紐づけして、コロナ後を勝ち抜ける銘柄の条件を明らかにしている。
東証1部上場の決算発表企業(2月期、3月期決算)の上期決算は、11月12日時点で、営業利益が前年同月比67.1%増。純利益はほぼ2倍となった。しかし、日本株には供給制約や資源高という新たな試練が訪れており、総論的に網をかける指数への積み立て投資より、効果的に個別に投資する方が賢い場合も少なくないと同誌は見ている。そこで、7つのキーワードとともに各銘柄や中長期で高成長を続けている優良株を紹介している。
1つ目のキーワードが「供給制約」。産業界が今、直面している大逆風が「半導体不足」だ。逆に言えば、半導体業界には追い風が吹いている。製造装置を手掛ける東京エレクトロン、レーザーテックのように、決算での最高益や株価の最高値を続ける企業も多く勢いがある。全般に好調だが、分野によっては不足感が緩和しており、受注動向の分析が必要だ、としている。
2つ目が「DX(デジタルトランスフォーメーション)」だ。ITベンダー業界には二極化の予兆が表れているという。NTTデータ、伊藤忠テクノソリューションズ、野村総合研究所などは大幅に営業利益を伸ばしている一方、富士ソフト、大塚商会の2社は微増にとどまった。
3つ目が「コロナ敗者の逆襲」。鉄道、不動産、外食の復活株に注目しながら、リオープニング(経済再開)の恩恵には濃淡があると見ている。業績の回復度、株価の位置、コロナ前の業績トレンドに注目したい。
4つ目が「新・円安時代」。円が「50年ぶりの安値圏」に沈む理由を解説している。投資ポートフォリオ上で、円やドルの比重が大きすぎる場合、通貨も多様化しておいた方がリスク分散を図れるとアドバイスしている。
5つ目が「テンバガー(10倍株)候補生」だ。売上高が急拡大中で粗利率が高い銘柄に注目している。ビザスク、チェンジ、ギフティなど情報・通信企業をランキング上位に入っている。
6つ目が「生産性」。海外投資家好みは「労働生産性」が安定的に改善している企業だ。「労働生産性・安定成長スコア」ランキングでは、日本オラクル、オービック、KDDI、小野薬品工業、日産化学などが上位に。中長期的な目線で見ることが肝要だ。
7つ目が「資源高」。国際商品指数(CRB指数)は、約7年ぶりの高値圏にある。同指数が変化した際の株価の感応度が高い企業として、コスモエネルギーHD、INPEX、住友金属鉱山などを挙げている。
この他に、三菱商事、日本郵船、村田製作所など注目30社の最新決算を分析している。全体では上方修正が目立つ好決算となった。
東証再編「スタンダード」市場という実質を選んだ企業も
「週刊エコノミスト」(2021年12月7日号)の特集は、「東証再編サバイバル」。来年4月から東京証券取引所の大改革がスタートする。単なる市場区分の変更ではなく、上場企業が収益性向上の努力や株主との対話などを怠れば脱落するという「荒業」だという。
現在の5市場(東証1部、2部、マザーズ、ジャスダックスタンダード、ジャスダックグロース)を、「プライム」「スタンダード」「グロース」の3市場に再編する。
東証上場の約3700社は12月30日までに、どの市場に移行するかを東証に申請・開示することを求められている。
各市場の上場維持基準を満たさない企業をふるい落とすことで、日本株市場全体の成長性や収益性の底上げを目指している。
日本証券経済研究所の明田雅昭・特任リサーチ・フェローが調べたところ、東証がプライム市場不適合を通知したのが664社だったのに対し、141社がプライム市場選択を表明、103社がスタンダード市場を選んだ(残る400社強は未表明)。「プライム」という体面より「スタンダード」という実質を選んだ企業が予想以上に多かったと見ている。
スタンダード市場を選択すると発表した企業には、北九州市の老舗百貨店、井筒屋や第二地銀の高知銀行などがある。
一方、東証2部やマザーズ、ジャスダック市場の中にはプライム市場選択を表明したメルカリがあるが、歯科医療用器具のナカニシなどスタンダード市場を選択する企業も少なくない。
今後の上場企業には、上場維持基準だけでなく、株価指数を通じた企業価値向上への圧力もかかる。東証再編と並行してTOPIXの見直しも進められる。
東京証券取引所の山道裕己社長はインタビューで、「3年後には『経過措置』の方向性を出す。プライム基準の引き上げもありうる」と話している。
「プライム市場合格」を支援するM&A仲介会社、証券会社、信託銀行、監査法人などは「空前の特需」に沸いているという。上場基準を満たすため、ギリギリまで駆け引きが続きそうだ。
(渡辺淳悦)