知って納得、ケータイ業界の″なぜ″ 第104回 携帯各社の賛否分かれる「周波数オークション」の導入を行政が進める理由
総務省は2021年10月21日より「新たな携帯電話用周波数の割当方式に関する検討会」を開催、多くの国で導入されている「周波数オークション」を日本でも導入しようという動きを加速させている。導入を巡っては携帯電話会社によって賛否が大きく分かれているようだが、なぜ行政側は周波数オークションを導入したがっているのだろうか。
○再燃した議論に大きく分かれる携帯各社の反応は
モバイル通信に欠かすことのできない電波だが、電波は国の重要な資源でもある。それゆえ携帯各社は電波を勝手に使っている訳ではなく、国から特定の周波数帯域を使うための免許を獲得し、免許を持つ周波数帯を用いてモバイル通信サービスを提供しているのだ。
そして日本の総務省が、免許割り当てをする際の審査方法として用いているのは「比較審査方式」というもの。これは各社が提出した事業計画を、財務状況や基地局整備のスケジュールなど項目ごとに審査し、より優れた計画を出した企業に要望する周波数帯の免許を割り当てるという仕組みだ。
だがここ最近、その審査方法を大きく変えようという動きが出てきており、より具体的に言えば「周波数オークション」の導入である。これは文字通り、周波数帯免許をオークション方式で割り当てる仕組みで、大雑把にいえばお金をたくさん支払った企業が希望する周波数帯を獲得できることとなる。
総務省は2021年10月21日より「新たな携帯電話用周波数の割当方式に関する検討会」を実施し、周波数オークションの導入に向けた本格的な議論を進めている。そうしたこともあってここ最近、携帯各社のトップから周波数オークションに関する発言が相次ぎ、注目を集めているようだ。
実際、2021年11月16日に実施された検討会の第2回会合では、NTTドコモの代表取締役社長である井伊基之氏が周波数オークションを「検討すべき」と発言、導入に前向きな姿勢を示している。一方で翌2021年11月17日には、楽天モバイルの代表取締役会長兼CEOである三木谷浩史氏が、Twitterで周波数オークションの導入に「大反対」とツイート。反応が大きく分かれていることが分かるだろう。
○電波の経済価値が大きく影響、携帯各社にはデメリット大
周波数オークションは、既に日本以外の多くの国や地域で導入されているスタンダードなものだが、元々は行政の手間を減らすために実施されたものでもある。とりわけ早い時期から周波数オークションが実施されている米国では、地域ごとに周波数帯の免許が割り当てられることもあって、比較審査では行政側の手間が非常に大きいことから、手間を減らしながらも公平性のある審査方法の検討がなされていたのだ。
そこで当初導入されたのが抽選方式、要はくじ引きで免許を割り当てるという手法だったのだが、獲得した免許を転売することを目的とした事業者が参加するなどの問題も相次いだという。だがその経験から電波に高い経済的価値があることを見出し、オークション方式を採用するに至ったようだ。
そして4G、5Gと進むにつれ、音声からデータ、そしてIoTへとモバイル通信の利用は年々拡大を続けており、周波数帯免許を用いて事業をする携帯電話会社が大きな収益を生み出すようになった。そうしたことから日本でも行政側から免許割り当てに経済的価値を考慮すべきとの声が高まり、2019年に施行された改正電波法では、比較審査の項目に周波数の経済的価値を盛り込む「周波数の経済的価値を踏まえた割当手続に関する規定の整備」が設けられるに至っている。
だがより経済的価値を重視した周波数オークションの導入に踏み込むべきという声が多く挙がっていたようで、2021年9月に公表された総務省若手改革提案チームからの提言でも「オークション方式の長所も取り入れ、その効果を検証すべき」という意見が出ている。そこで再びオークション方式の導入を検討するべく、先の有識者会議が立ち上がるに至ったといえるだろう。
こうして見ると、周波数オークションは手間を減らして審査の透明性も確保でき、なおかつ免許の落札額が国に納められることから新たな収益手段も確保できるなど、行政側には非常にメリットのある仕組みであることが分かる。だが裏を返すと、周波数オークションは携帯電話会社にとってデメリットの多い仕組みでもあり、中でも懸念されるのは落札価格の高騰だ。
過去にも欧州などで周波数オークションで免許の落札価格が高騰した結果、携帯電話の経営が厳しくなり新しい通信方式の導入が遅れるといった事象も起きている。また落札価格が高騰すれば、企業体力が弱い下位の事業者が免許獲得で不利になってしまうという問題も起き得るだろうし、楽天モバイルが導入に反対を表明しているのも、資金力のある大手が優位になりやすい仕組みであることがその理由の1つになっていると考えられる。
それゆえ周波数オークションの導入に当たっては、携帯電話会社の事業が大きく傾いて消費者にまで影響が及ぶ事態にならないよう、制度設計が非常に重要になってくる。諸外国の事例を見ても、一度に獲得できる周波数帯域に制限を設ける「周波数キャップ」を導入したり、小規模事業者を優遇したりするなど、さまざまな施策を導入して落札価格の高騰を防いだり、公平性を確保ようとしたりしているようだ。
とりわけ日本では諸外国と異なり、携帯電話産業をけん引しているのが通信機器ベンダーや端末メーカー、半導体メーカーなどではなく、携帯電話会社であるという特異性がある。携帯各社がその特異性を生かして特徴ある技術やサービスを開発し、世界的にも存在感を示してきた経緯があるだけに、日本の携帯電話産業の国際競争力を高める視点に立つならば、周波数オークションの導入やその制度設計には相当慎重な姿勢が求められるだろう。
○再燃した議論に大きく分かれる携帯各社の反応は
そして日本の総務省が、免許割り当てをする際の審査方法として用いているのは「比較審査方式」というもの。これは各社が提出した事業計画を、財務状況や基地局整備のスケジュールなど項目ごとに審査し、より優れた計画を出した企業に要望する周波数帯の免許を割り当てるという仕組みだ。
だがここ最近、その審査方法を大きく変えようという動きが出てきており、より具体的に言えば「周波数オークション」の導入である。これは文字通り、周波数帯免許をオークション方式で割り当てる仕組みで、大雑把にいえばお金をたくさん支払った企業が希望する周波数帯を獲得できることとなる。
総務省は2021年10月21日より「新たな携帯電話用周波数の割当方式に関する検討会」を実施し、周波数オークションの導入に向けた本格的な議論を進めている。そうしたこともあってここ最近、携帯各社のトップから周波数オークションに関する発言が相次ぎ、注目を集めているようだ。
実際、2021年11月16日に実施された検討会の第2回会合では、NTTドコモの代表取締役社長である井伊基之氏が周波数オークションを「検討すべき」と発言、導入に前向きな姿勢を示している。一方で翌2021年11月17日には、楽天モバイルの代表取締役会長兼CEOである三木谷浩史氏が、Twitterで周波数オークションの導入に「大反対」とツイート。反応が大きく分かれていることが分かるだろう。
○電波の経済価値が大きく影響、携帯各社にはデメリット大
周波数オークションは、既に日本以外の多くの国や地域で導入されているスタンダードなものだが、元々は行政の手間を減らすために実施されたものでもある。とりわけ早い時期から周波数オークションが実施されている米国では、地域ごとに周波数帯の免許が割り当てられることもあって、比較審査では行政側の手間が非常に大きいことから、手間を減らしながらも公平性のある審査方法の検討がなされていたのだ。
そこで当初導入されたのが抽選方式、要はくじ引きで免許を割り当てるという手法だったのだが、獲得した免許を転売することを目的とした事業者が参加するなどの問題も相次いだという。だがその経験から電波に高い経済的価値があることを見出し、オークション方式を採用するに至ったようだ。
そして4G、5Gと進むにつれ、音声からデータ、そしてIoTへとモバイル通信の利用は年々拡大を続けており、周波数帯免許を用いて事業をする携帯電話会社が大きな収益を生み出すようになった。そうしたことから日本でも行政側から免許割り当てに経済的価値を考慮すべきとの声が高まり、2019年に施行された改正電波法では、比較審査の項目に周波数の経済的価値を盛り込む「周波数の経済的価値を踏まえた割当手続に関する規定の整備」が設けられるに至っている。
だがより経済的価値を重視した周波数オークションの導入に踏み込むべきという声が多く挙がっていたようで、2021年9月に公表された総務省若手改革提案チームからの提言でも「オークション方式の長所も取り入れ、その効果を検証すべき」という意見が出ている。そこで再びオークション方式の導入を検討するべく、先の有識者会議が立ち上がるに至ったといえるだろう。
こうして見ると、周波数オークションは手間を減らして審査の透明性も確保でき、なおかつ免許の落札額が国に納められることから新たな収益手段も確保できるなど、行政側には非常にメリットのある仕組みであることが分かる。だが裏を返すと、周波数オークションは携帯電話会社にとってデメリットの多い仕組みでもあり、中でも懸念されるのは落札価格の高騰だ。
過去にも欧州などで周波数オークションで免許の落札価格が高騰した結果、携帯電話の経営が厳しくなり新しい通信方式の導入が遅れるといった事象も起きている。また落札価格が高騰すれば、企業体力が弱い下位の事業者が免許獲得で不利になってしまうという問題も起き得るだろうし、楽天モバイルが導入に反対を表明しているのも、資金力のある大手が優位になりやすい仕組みであることがその理由の1つになっていると考えられる。
それゆえ周波数オークションの導入に当たっては、携帯電話会社の事業が大きく傾いて消費者にまで影響が及ぶ事態にならないよう、制度設計が非常に重要になってくる。諸外国の事例を見ても、一度に獲得できる周波数帯域に制限を設ける「周波数キャップ」を導入したり、小規模事業者を優遇したりするなど、さまざまな施策を導入して落札価格の高騰を防いだり、公平性を確保ようとしたりしているようだ。
とりわけ日本では諸外国と異なり、携帯電話産業をけん引しているのが通信機器ベンダーや端末メーカー、半導体メーカーなどではなく、携帯電話会社であるという特異性がある。携帯各社がその特異性を生かして特徴ある技術やサービスを開発し、世界的にも存在感を示してきた経緯があるだけに、日本の携帯電話産業の国際競争力を高める視点に立つならば、周波数オークションの導入やその制度設計には相当慎重な姿勢が求められるだろう。