福島県郡山市の街中に、謎に包まれたオブジェが存在している──。

ツイッター上で、そんな噂が囁かれているのをご存じだろうか。

複数のユーザーがその写真をアップし、「何故か惹きつけられる」「何?、誰?!」「郡山の街で、一番謎だった」などと呟いている。

一体、どんなオブジェなのか。気になる実物の写真が、こちらだ。

場所は郡山駅入口交差点にかかる歩道橋の近く。岩の塊に細い2本の足が生えた、腕の無い人のような像が3体立っている。

「顔」にあたる部分には、金色に光る球体が3つずつ――小さな球が2つと、大きな球が1つ埋め込まれている。大きな球がくちばしのようにも見えるので、鳥っぽさを感じる。

現場の様子を見る限りでは、特に観光名所だとかフォトスポットという雰囲気はないが......これは一体何なのか。なぜこんな場所に立っているのか。

2021年11月、Jタウンネット記者がこのオブジェの正体に迫った。

作品名は「歩き出す街」

11月16日、まず話を聞いたのは、郡山市さくら通り商店街振興組合の前理事長・佐藤慎一さん。問題のオブジェは、さくら通り商店街の入り口付近にあるのだ。

「設置されたのは1995年の8月末で、作品の名前は『歩き出す街』です」

と佐藤さんは教えてくれた。当時、郡山駅入口交差点の周辺では電線を地下に埋める工事を行っており、その際この場所に新たに街灯を設けることになったという。

「その時に、せっかくだし何かシンボルのような物も設置しようということになり、全国からアイデアを募集しました」(佐藤さん)

そうして応募された中で採用されたのが、福島県田村市船引町の造園会社「庭泉」の代表取締役社長・小泉隆一さんが制作した「歩き出す街」だったそうだ。

Jタウンネット記者は19日、製作者の小泉さんにも話を聞いた。

「歩き出す街」を制作するにあたり、表現したかったことは何なのか。記者が質問したところ、オブジェを設置時の作品紹介を提供してくれた。

それには、こう書かれていた。

暮れなずむ夕陽を浴びて佇む街。木枯らしの吹きすさぶ季節にじっと堪える街。若芽の息吹をあたり一面に感ずる街。
街は、私達に様々な表情を見せてくれる。
街は、私達人間の構築物であるにもかかわらず、まるで人間のように私達に接してくれる。街は、すでに確たる意志を有した一個の生命体なのかもしれない。
巨大化した現代の都市は様々な問題を内包しながら、さらに進化していく。
私達は、都市に飲み込まれることなく都市(街)と共存しなければならない。
それは等身大の街として、いつまでも私達の手の届く範疇にある街として。

小泉さんが添えた作者コメントによると、この作品は「ひとつの意志を有した街(生命体)が、自らの意志で、あるべき理想の街を目指して歩を進める様を三つの石塊で表現」したもの。人間と等身大の作品にすることによって、「都市の日常生活の中に溶け込めるもの」にしているという。

また、コメントはこんな言葉で結ばれていた。

「ここが、行き交う人達のひとつのやすらぎのスペースとなれば幸いです」

郡山を訪れた際は、「歩き出す街」の傍でしばし佇み、街の空気を感じてみるのもいいかもしれない。