赤字決算に見る『楽天モバイル』の現在地。ローミング縮小で他社から狙い撃ちに(石川温)

楽天グループの赤字が止まらない。

2021年1〜9月期の連結最終損益が922億円の赤字となったのだ。前年同期は714億円だった。

通販や金融が堅調に成長する中、赤字の最大の要因はモバイルだ。携帯電話関連の営業損失は1052億円だった。

楽天モバイルは現在、全国での基地局建設を急いでいる。そうした設備投資に加えて、自社エリア化できていない場所はKDDIのネットワークにローミングをしている。このローミング費用は1GBあたり約550円と言われており、ユーザーがローミングエリアでデータ通信を使い、さらにユーザーが増えれば赤字は膨らむ。

前回の決算会見で三木谷浩史会長は「KDDIへのローミング費用が高すぎる」とぼやいていた。一方のKDDIは、値下げの影響により自社のモバイル通信収入は赤字であったが、ローミング収入が多かったことで、通信料収入全体では黒字を達成したのだった。KDDIとしては「楽天、様々」だったであろう。

KDDIの高橋誠社長は「楽天のローミングについて粛々と対応している状況。

楽天モバイルも『非常に早いスピードで広げます』と言っていたり、あるいは今度は『半導体不足で遅くなります』と言ってみたり、あるいは今度は『ローミング費用が高すぎる』と言ってみたり、いろんなことをおっしゃるので、ちょっとどうなのかなと思うところはありますが粛々と対応している。

基本的なルールは70%を達成されたエリアから順次解除を行っている。この間、楽天さんがどこのエリアでローミングを終了すると発表されているが、あのようなイメージになります。ただ、思っている以上に『70%を達成したエリアでも引き続き貸してほしい』という基地局数が結構多く、我々が今年度、想定していたよりもローミング収入が増えるという風に思っている。

今年度でピークアウトしていくが、来年度から徐々に減っていくが結構、大変だろう」とコメントしていた。

楽天モバイルは早期に全国でネットワークを整備してKDDIへの支出を抑える必要があるし、KDDIもその収入が今年以降、減っていくと冷静に見ているわけだ。

povo 2.0でユーザー流出を食い止めたKDDI

KDDIはpovo2.0で基本料金ゼロ円を提供している。この施策は楽天モバイルが今年4月から基本料金ゼロ円から始まる新料金プランを投入したのが大きい。KDDIでは当初、auブランドの勢いが落ちていたが、サブブランドであるUQモバイルを強化し、ユーザーの流出を防ごうとした。しかし、それでも楽天モバイルに移行するユーザーがいたため、povo2.0で基本料金をゼロ円を投入したのだった。

実際のところ、KDDIは22年3月期第1四半期での解約率が0.83%だったのに対して、第2四半期は0.74に改善するなど、ユーザーの流出を食い止めた格好だ。

では、対する楽天モバイルはどうだったのか。

山田善久社長は「povo2.0の発表で、多少数字に影響は出ていると感じるが、大きく見ると、すごく大きな影響が出ている感じはしない」とコメント。それに続く形で三木谷会長も「前年同時期で比較すると倍くらいの契約数増。povo2.0については影響はないと考えている。MNP転入による新規ユーザーも多い」とした。

楽天モバイルでは「2022年4〜6月期から損益の改善を見込んでいる」(山田社長)という。現在、半導体不足により基地局の開設が遅れているが、すでに全国に1万局以上の基地局が設置され、半導体が手に入り次第、電波を吹けるようになるという。当初、今年の夏頃に達成するはずだった全国の人口カバー率96%は、半導体が手に入った後、2022年の春頃、達成する見込みだ。

全国の人口カバー率が96%となり、KDDIへのローミングに依存しなくなることで、KDDIへのローミング費用という出費が減り、損益構造が改善していくというわけだ。

楽天モバイルとKDDIとの契約では、先述のように都道府県単位で楽天モバイルの人口カバー率が70%を超えるとローミング契約を打ち切る検討をするとある。70%を達成し、ローミング契約を打ち切られると、これまでKDDIのネットワークで提供されていた99.9%の人口カバー率が70%まで一気に落ちることになる。楽天モバイルが96%を達成していても、99.9%との差は結構、大きいことは間違いない。

96%を達成したとしても、KDDIローミングがなくなることで「圏外」の場所が増えれば、不満を感じるユーザーは増えることだろう。

ここ最近、街中のキャリアショップを見てみると、楽天モバイルユーザーをターゲットにした「楽天モバイル取り扱い機種下取り開始!2万2000円相当還元」というポスターを掲示している店が増えてきた。

楽天モバイルのオリジナルスマートフォンを狙い撃ちにして、楽天ユーザーを自社に戻そうとしているのだ。

なかには「お使いのスマホ、通信品質満足度はいかがですか」と楽天モバイルユーザーをあおるキャッチコピーを掲げているところもある。

楽天モバイルはユーザーに対して、通信品質で満足度を維持し続けなくてはならない。

楽天モバイルユーザーは現在、MNOが411万、MVNOが99万の合計510万だ。

楽天モバイルは、96%なんて甘っちょろいことはいわず、早期に3キャリアと肩を並べる人口カバー率99.9%を達成し、今後もユーザーの満足度を維持し、さらに他社から顧客を奪い続ける必要がありそうだ。