いいクリエイターの条件である「観察力」とは何か?編集者・佐渡島庸平が行きついた答え
『ドラゴン桜』『宇宙兄弟』など数々のヒット作を手掛ける佐渡島庸平さん。
現在は「コルクラボ」で新人クリエイターの発掘・育成で、全世界で読まれる新しい形のマンガ開発に注力しています。
佐渡島さんがクリエイターからよく聞かれる質問として、「いいクリエイターの条件とはなんですか?」というものがあるそうです。
佐渡島さんによるその答えは「観察力」。
いいアウトプットをつくるためには、インプットの質を上げないといけないということです。
そのヒントを、佐渡島さんの新著『観察力の鍛え方』より抜粋してお届けします。
記事末には、佐渡島さんからの「新R25ワイドショー」特別テーマもあるので、ぜひ回答してみてください!
「観察力」こそがドミノの一枚目
時間は有限で、習得できることは限られている。
何を習得すると、長期間、広範囲に影響を及ぼすのか。
ドミノの一枚目になるものは、何か。
一番、応用がきく能力を鍛えたい。
『ドラゴン桜』という僕が編集した受験マンガの中では、東大合格のためのドミノの一枚目は、計算力と読解力といった基礎学力だ、と主張した。
経営や創作に役立つ能力とは何かを考えたときに、僕が直感的に思ったのが「観察力」だ。
観察力を鍛えると必然的に他の能力も鍛えられる。
しかし、他の能力を鍛えることを意識していても、観察力の成長はゆっくりだろう。
観察力こそが、ドミノの一枚目だ、と。
しかし、観察力を鍛えるときに、具体的に何から始めればいいかがわからない。
思索を開始するときに僕がまず行うのは、辞書をひく、だ。
字義を調べる。
観察という言葉の意味を紐解くところから始める。
言葉に潜む言霊を知ろうとする感じだ。
「みる」という行為は、合計で18もの漢字が存在するという。
見・䀎・看・視・診・督・察・睹・監・覧・瞥・瞰・覯・瞩・観・瞿・瞻・覿
よく使うものでも「見る」「観る」「視る」「診る」「看る」「覧る」と6つくらいある。
「察」という漢字と組み合わせると「視察」「診察」という熟語になる。
「視察力」や「診察力」は鍛えても、応用可能な能力にならなさそうだ。
やはり「観察力」に注目するのは良さそうである。
言葉の中に潜む言霊のようなものを探り、抽象概念を理解しようとするアプローチから「観察」についての思索は始まった。
辞書によると、
観察:物事の状態や変化を客観的に注意深くみて、組織的に把握すること
とある。
「客観的に」「注意深く」というのが、観察を特徴づけているように思う。
そして、「組織的に把握する」というのも重要だろう。
もしも、「客観的」を「主観的」に入れ替えたら、「観察」ではなく、どんな言葉になるのか?
「感想」だろうか。
もしも、「注意深く」を「全体的に」に入れ替えたら、「視察」になるだろうか。
であれば、観察力とは、「客観的になり、注意深く観る技術」と、そして得たことを、「組織的に把握する技術」の組み合わせと言えるかもしれない。
分けることによって、理解が進む。
「客観的になり、注意深く観る技術」「組織的に把握する技術」のそれぞれであれば、鍛え方が見つかりそうだ。
本書は、「客観的になり、注意深く観る技術」のほうに重点を置いている。
「組織的に把握する技術」はもっと分けて思考する必要を感じていて、この本を書きながら明らかにしたいと思ったが、まだそこに到達できていない。
「半径5メートル以内の出来事を毎日1ページマンガにする」
もう一つ、僕が観察について考えるためにしていたことがある。
マンガ家、羽賀翔一の観察だ。
「観察」を理解するために、羽賀翔一の成長を「観察」していた。
一般的に、マンガ家と編集者は、多くて週に一、二回、月に数回コミュニケーションをとる関係だ。
ネームと呼ばれる下書きや原稿を間に挟み、それを共通の話題として打ち合わせをする。
コルクを創業するときに、新人マンガ家の羽賀翔一と一緒にやっていくことを決めていた。
彼の成長をサポートする。
生活できるように固定給にして、コルクに毎日、出勤してもらうことにした。
だから、彼の変化を毎日のように観察し、クリエイターに必要なことは何か、という仮説をたくさん立てることができた。
僕は、羽賀翔一の観察力を伸ばしたのは、1日1ページマンガを描くというお題の力だと直感的に思っている。
出典 観察力の鍛え方 一流のクリエイターは世界をどう見ているのか
このマンガは『インチキ君』という作品だ。
羽賀翔一のデビューのきっかけになった。
まじめな少年につけられたあだ名がきっかけで、少年をとりまく空気は180度、変わった。
インチキなんてしていないのに、インチキ呼ばわりされるインチキ君。
このようなマンガを描いているところから、羽賀翔一と僕の挑戦は始まった。
お世辞にも彼の当時の絵は上手いとは言えないだろう。
しかし、表情の描き方を見て、マンガ家に必要な観察力はずば抜けていて、鍛えれば変わると思った。
観察力を上げつつ、観察する対象を変える必要があると思った。
そして彼の観察力を上げたくて、僕は1日1ページ、コルクの社員を観察してマンガを描くように、というお題だけを彼に渡した。
それは『今日のコルク』という電子書籍にまとまっている。
画力を見比べてみて欲しい。
出典 観察力の鍛え方 一流のクリエイターは世界をどう見ているのか
その後、紆余曲折があり、羽賀翔一は『漫画 君たちはどう生きるか』というメガヒットを生み出す。
今の彼の課題は、その観察力で把握したものを、どうやって世間が興奮するペースでアウトプットし続けるかに変わった。
観察力の鍛えられた作家に、良いお題を渡すと自走し始める。
「半径5メートル以内の出来事を毎日1ページマンガにする」
そんな簡単なお題が、日本を代表する作品を生み出すのに必要な観察力を鍛えられるのだとしたら、それはなぜか。
羽賀翔一の観察力の成長を解明することが、観察力の鍛え方に再現性をもたせるきっかけになる。
僕はこの本の執筆も兼ねて、2年近く、観察とは何かを考え続けていた。
そして、今、観察に対する僕なりの仮説が見つかった。
まず先に、僕がたどり着いている暫定解を共有する。
いい観察は、ある主体が、物事に対して仮説をもちながら、客観的に物事を観て、仮説とその物事の状態のズレに気づき、仮説の更新を促す。
一方、悪い観察は、仮説と物事の状態に差がないと感じ、わかった状態になり、仮説の更新が止まる。
観察は、問いと仮説の無限ループを生み出すもので、その無限ループ自体が楽しいものであるため、マンガをはじめとする様々な創作の源になりえる。
「観測」は、観測自体が目的になるが、「観察」は自分で見つけてしまったがゆえに解きたくなる「問い」とセットでモチベーションになりえるのだ。
先日、羽賀翔一をはじめとするコルクスタジオ所属のマンガ家たちと合宿をして、そのときの振り返りを羽賀翔一がマンガにした。
偶然、この本で伝えたいことと一致していて、僕と羽賀翔一の思考が呼応していたので、ここにマンガを掲載する。
登場人物の柿内はコルクの元社員で羽賀さんの担当だった。
出典 観察力の鍛え方 一流のクリエイターは世界をどう見ているのか
出典 観察力の鍛え方 一流のクリエイターは世界をどう見ているのか
出典 観察力の鍛え方 一流のクリエイターは世界をどう見ているのか
出典 観察力の鍛え方 一流のクリエイターは世界をどう見ているのか
出典 観察力の鍛え方 一流のクリエイターは世界をどう見ているのか
出典 観察力の鍛え方 一流のクリエイターは世界をどう見ているのか
「問い→仮説→観察」のサイクルを回す
観察とは、仮説と対象のズレを見る行為だ。
古代ギリシアの哲学者ゼノンが提示したパラドックス、「アキレスと亀」の中で、俊足の英雄・アキレスはどんなに頑張っても一生、亀に追いつけない。
アキレスがその地点に着いたときに、亀はそこからほんの少し進んでいるからだ。
このように仮説と対象はぴたりと一致することがない。
限りなく近づくけれど、仮説と対象はどこまでもズレている。
いい観察が行われると、問いが生まれ、その問いから仮説が生まれる。
そして、次の新しい観察が始まる。
その繰り返しによって、対象への解像度は上がっていく。
ニュートンが、リンゴの落下から万有引力を導き出したというエピソードを、なぜ僕は伝説などではなく、真実だと思えるのかの理由もここにある。
はじめは、「なぜリンゴは地面に落ちるのだろう?」という子どもでも思いつきそうなとてもシンプルな問いが生まれる。
そこから「地面がリンゴをひっぱっているのでは?」というラフな仮説になり、観察が始まる。
さらに観察は新たな問いを生み出し、仮説がどんどん更新される。
そして最終的には「万有引力の法則」という世紀の発見へとつながったのだと僕は想像する。
人類の偉大な発見の「はじめの一歩」は、本当にシンプルな問いだったのだと思う。
いきなり偉大な問いを見つけて、人生をかけて取り組むのだと思うと、多くの人は自分の手元には、そんな問いがないと絶望することになる。
そうではなく、誰にでも思いつくようなありふれた問いを、仮説と観察によって、研ぎ澄ましていくのだ。
僕は自著『ぼくらの仮説が世界をつくる』で、仮説から思考を始めることを主張した。
最近では、安斎勇樹さん・塩瀬隆之さんの『問いのデザイン』がベストセラーになった。
タイトルの通り、どのようにすれば良い問いをデザインできるのかについて書かれた良書だ。
「問い・仮説・観察」の3つがグルグル回っている。
出典 観察力の鍛え方 一流のクリエイターは世界をどう見ているのか
どこを起点にすると思考が動き続けるか。
そう考えたときに、安斎さんらは、「問い」だと思ったのだろう。
本書では、「仮説」を起点とすると、サイクルが回り続けると仮定し、話を進める。
正直、起点はどこであってもいい。
このサイクルが回らなかったり、止まってしまったりしたときに、どうやって揺さぶりをかけ、動かすのか。
その手段はたくさんあったほうがいい。
僕が、仮説からサイクルを始めるほうがいいと考えるようになったきっかけは、「行動サイクル」にヒントを得たからだ。
具体的に行動を起こすときには行動サイクルというものがある。
行動サイクルとは、全ての行動は「計画」→「実行」→「振り返り」のプロセスを踏むことになるというものだ。
出典 観察力の鍛え方 一流のクリエイターは世界をどう見ているのか
通常このサイクルでは、「計画」を起点にすることが多いのだが、どうも計画倒れになりやすい。
計画から始めると、行動の熱量が上がらないことが多い。
どうすれば行動の熱量が高まるのだろうと試していたときに、「振り返り」を起点にすると行動の熱量が高まり、自分ごととして「計画」を立てやすくなると感じた。
この行動サイクルの「振り返り」に当たるものが、観察(思考)サイクルでは「仮説」だ。
とにかく雑にでもいいから、仮説を立てる。
そうすると、仮説を検証したいという欲望が生まれ、熱量のある観察が始まる。
新R25ワイドショーで、佐渡島さんからのお題に投稿しよう!
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今回は特別編として、佐渡島さんが「テーマ」出題者となります。
羽賀翔一さんのマンガにもあったように、観察力を磨くには、「問い」から「仮説」を生み出すことが第一歩になるとのこと。
ぜひ、みなさんの観察力を活かした“発見”を投稿してみてください!
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