チームを持ったり、教える立場になったりと、少しずつ後輩や部下が増えてきたR25世代のみなさん、進捗いかがですか? かっこいい先輩、上司になれていますか? 筆者は全然ダメです。

気づけば自分のやり方や考え方を押しつけたり、先輩マウント漂う面倒臭い絡みをしてしまったり…

そこで今回は、2020年に大河ドラマ『麒麟がくる』に出演するなど芸歴31年にして最前線で活躍しつづける俳優・高橋克典さんに、「どうやったら“かっこいい大人”になれますか?」と聞いてきました。

〈聞き手=サノトモキ〉


【高橋克典(たかはし・かつのり)】俳優。1993年「抱きしめたい」で歌手デビュー。その後俳優としての活動も始め、TBSドラマ『サラリーマン金太郎』シリーズ、テレビ朝日『特命係長 只野仁』シリーズ、日本テレビ『課長島耕作』シリーズなど、主演ヒット作品多数。BSテレ東『ワタシが日本に住む理由』など、バラエティ番組の司会でも活躍する。舞台の出演は『24番地の桜の園』(2017年)、『十三人の刺客』(2012年)など

歳を重ねるにつれ、「失敗しない」のが当たり前になっていく

サノ:
ずばりお聞きしたいのですが…高橋さんにとって「かっこいい大人」とはどんな人でしょうか?

高橋さん:
空気を読まず失敗できる大人」ですね。

これ、すごく難しいことなんですけど。



高橋さん:
歳を重ねると、「すみません」で済んでたことが許されなくなってくるじゃないですか。

サノ:
めちゃくちゃわかります。

高橋さん:
先輩になっていくにつれて、どんどん失敗しないのが当たり前になっていく。

チームで最年長ともなれば、もうなんでもできて当たり前みたいな空気になるんですよ。

だからいつも…内心ドキドキしてて(笑)


高橋さんの「ドキドキ」、ちょっとキュンとしました

高橋さん:
でも、「先輩は失敗しないのが当たり前」というロジックを作ってしまうのは、けっこう危険だと思うんですよ。

たしかにプレッシャーはあるけど、あんまり真面目になりすぎないほうがいいと思う。

サノ:
どうしてですか?

高橋さん:
セリフの奥にあるものを考えて表現していくのが、僕らの仕事の本質です。

NGを出さない=できる俳優」なら、役者の仕事はセリフを覚えるだけになっちゃうじゃないですか。

少なくとも僕は、昔先輩に言われた「NG出さない役者なんかダメだ」という言葉を信じたいなと。

サノ:
たしかに歳を重ねるにつれて失敗が怖くなって、守りに入りがちだったかもしれません。

高橋さん:
年次が上がっても、失敗しないことより「質の高さ」を追求しつづけられる大人こそがプロ。

これが僕の信条です。


言葉の重みがすごい…!

ある意味、「置きにいける大人」であることも大事

サノ:
ほかにも高橋さんの思う「かっこいい大人」ってありますか?

高橋さん:
ある意味で、「置きにいける大人」かな。

僕ね、仕事ってときに「置きにいくことも必要」だと思うんですよ。


え?

高橋さん:
もちろん、自分がやりたいことや熱量を全部ぶつけるような仕事は中心にあります。

でも、それが全てじゃない。仕事はチームでやることだから。

自分の「欲」を満たすことが一番になると、おかしなことになる。

サノ:
自分の欲。

高橋さん:
自分がこの仕事の主役になりたいとか、一番目立ちたいとかね。

仕事って、プロジェクトごとに自分のポジションってものがあるでしょう

役者の世界は「主役」「脇役」「悪役」と名前がついてるからわかりやすいけど、きっとビジネスの世界も同じじゃない? なんならもっとあるでしょう、複雑に。


ありますね…

高橋さん:
僕は主役しかやらないっていう俳優じゃない。脇役も悪役もやる。主役を引き立てることに徹する仕事も、たくさんあります。

まず、チームのなかで求められた役割をきちんとこなす

「自分なりの熱量やアイデアを出したい」という欲は、その次であるべきなんですよね。

サノ:
…おっしゃる通りだ。

高橋さん:
もちろん「自分が! 自分が!」という欲も大切なんですけどね。

でも熱量やアイデアは、戦いどころを見極めてガっと出す。それまで大事に取っておく。いい意味で「置きにいく」というカードを切れる大人であることは、すごく重要だと思いますね。

…こんな感じで大丈夫? ちゃんと答えられてるかな?(笑)


リアリティのある回答に圧倒されています

「こんな先輩は嫌だ。どんな先輩?」に対して、高橋さんの回答は…

サノ:
最後に…若手時代、「こんな先輩は嫌だ」と思うタイプの人はいましたか?

最近、「こういう大人にはなりたくないな」と思ってた大人像に近づいている気がしてまして…

高橋さん:
こんな先輩は嫌だ…ですか


しばしの間。めちゃくちゃ緊張する

高橋さん:
…まぁもちろん、いましたよ。

でも、先輩は自分の専属コーチじゃありませんから。親みたいに、無償の愛で「よしよし」なんて優しく育ててはくれないんですよね。

もちろん嫌な先輩もいるだろうけど、「その人を受け止められるような自分」になる努力もできたらベストだと思うんです。

サノ:
それは…たしかに。

高橋さん:
みんな人生必死ですからね

年齢重ねたって、常に人生1周目。僕にしても今「人生初めての56歳」ですけど、常に新しい悩みは絶えない。

そういうなかで、みんなが「自分の思う理想の上司」になってくれるというのは、まあありえないわけで。



高橋さん:
「求めること」から入っちゃうと、結局しんどくなるのは自分だと思うんですよ。

「至れり尽くせり」の上司像や環境を一方的に期待してしまうと、裏切られて当たり前。

そもそも自分が成長する前に「自分を上手く成長させてくれる上司」に相手が変わってくれと期待するのも、少しおかしな話で。

サノ:
僕も、理想の上司像に当てはまらない人を「嫌な先輩」と言ってたかもしれません。

高橋さん:
僕ね、今の世の中は「綺麗事」がちょっと大事にされすぎてると思うんです。

今日の質問だってある種、綺麗事でしかないわけですよ。

「“かっこいい大人”って何!?」って正直思う(笑)。


「ごめんね?(笑)」

高橋さん:
まあ、清廉潔白で非の打ち所がないような人もなかにはいますよ。でも、そんな絵に描いたような「綺麗な大人」にはなかなかなれない。

それで身動き取れなくなっちゃうくらいなら、「理想」で自分を縛らないほうがいいと僕は思います

自分はそれより、清濁あわせ飲める大きな心でいたいと思ってる。そのうえで自分が正しいと思うことを貫くと。そんな心構えで、いいんじゃないですかね。

サノ:
なるほど…新しい、大切な気づきに出会えた気がします。

今日はありがとうございました!



「かっこいい大人」「なりたくない大人」。どちらにも囚われすぎることなく、自分らしい生々しい大人像を目指していけばいいのだと思えるあたたかくも心強い取材でした。

筆者も焦らず、理想に囚われすぎず、生々しく歳を重ねていければと思います。

〈取材・文=サノトモキ(@mlby_sns)/撮影=長谷英史(@hasehidephoto)

高橋克典さん出演の舞台『酔いどれ天使』が9月5日(日)より公演開始!

舞台『醉いどれ天使』公式サイト
https://www.yoidoretenshi.jp/

日本をはじめ世界中に大きな影響を与えた名匠・黒澤明と、その多くの作品で主演を務めた三船敏郎。後に次々と傑作を生み出すことになる二人が初めてタッグを組んだ映画『醉いどれ天使』。

この秋、日本映画史上最強コンビの原点ともいえる作品が舞台として現代に蘇ります。

高橋克典さんが演じるのは、戦後の混乱のなか闇市に住む人々を診る飲んだくれの闇医者・真田。銃槍の手当てにやってきた闇市の顔役・松永(桐谷健太さん)との出会いから物語は始まります。

東京公演は9月5日(日)〜9月20日(月)、大阪公演は10月1日(金)〜10月11日(月)。

気になった方はぜひチェックしてみてください!

舞台『醉いどれ天使』公式サイト
https://www.yoidoretenshi.jp/

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