「新R25ワイドショー」がリリースされました。

新R25ワイドショーでは、編集部が毎日1〜2個更新するこだわりの「テーマ」に対して、アプリから会員登録したユーザーが自由に自分の知見を回答することができます。

今回は、編集者で、クリエイターエージェンシー「コルク」代表の佐渡島庸平さんに、こんなテーマで深掘り取材してみました。

今回は、おもに企画、制作などの仕事をされている方にはぜひぜひ読んでほしい内容となっております!!! ともに学びましょう。

〈聞き手=天野俊吉(新R25副編集長)〉

天野:
ヒットコンテンツを生み出す編集者ということで、アイデアにまつわるお話をききたいんですが…佐渡島さんは、現在は「アイデア」にどういうふうに携わってるんですか?

佐渡島さん:
マンガ作品のストーリー自体にアイデアを出すというよりは、「どういうふうにすると、複数人でひとつの物語をつくるときにコミュニケーションがうまくいくのか?」とか、「どうしたら締め切りを守れるのか?」とか…

創作にまつわる仕組みづくり”をしていますね。


締め切りを守る方法も気になりますが…

佐渡島さん:
分業してる人たちが、情報をうまく伝えあいながら、工程を経てモノができていく。

言うなればトヨタの「カンバン方式」の創作版をつくりたいと思ってます。

「世の中のすべてはフラクタル構造」自分の苦悩に似ているものを見つけろ!!

天野:
いきなりハイレベルな予感…

そんななかで、よいアイデアが出ないときはどうするんでしょう?

佐渡島さん:
僕は、世の中のほとんどすべてのことがフラクタル構造だと思っているんですね。


※「無限入れ子構造」とも。自身のなかに、自身と相似な図形を内包している図形。樹木や雲など、自然界に多く見られる。「マトリョーシカ」もフラクタル構造だと説明されることが多い


皆さん、ついてこれてますか?

佐渡島さん:
つまり、視点を俯瞰にしたり、寄りにしたりすることで、似てる部分を見つけだせる。

アイデアに詰まったら、「抽象度を変えると、この悩みは何と似ていると言えるだろうか?」と考えるんです。

天野:
なるほど、なんとなくわかります。

佐渡島さん:
僕、人といるとき「その人に似てる人を探す」のがクセなんです。こうして天野さんと話していても、「この人、誰かに似てるな」って考えてる。

それは顔が似てるのか? 髪型が似てるのか? 仕事が似てるのか? 表面的に似ているだけじゃなくて、さらに本質的なところで似てるのはなんだろう…と考えたりして。

似てるところを見つけるというのは、さまざまな切り口から解像度を上げて分解するってことなんです。

天野:
わかります。


本当に頭がいい人と話すと、「わかる」が精いっぱいになりますよね

佐渡島さん:
アイデアや“悩みの解決”も、同じ。人がゼロから何かを考え出すっていうことは、もはやない。すべて“似ているものを発見して転用すること”だと思っています。

天野:
ということは、アイデアに行き詰まったときは…

佐渡島さん:
僕の悩みは誰と“似てる”んだろう」ということを考えますね。

その「似てる」がもっとも遠いところで見つけられると、イノベーティブなアイデアになるんです。

天野:
ほおおおお! なるほど!



天野:
自分の悩みと遠い地点から、じつは似ているものを見つけて転用するのがいいアイデア…

佐渡島さん:
会社の組織づくりに悩んでたときに「僕の悩みは、アクアリウムの水槽をつくるときと似てるな」と思ったんです。

水槽をつくるときって下段、中段、上段と前景、中景、後景に分けて、それぞれの場所にどういう水草や石を配置するか、どういう魚を入れるかを考えるんです。同じテリトリーに別の魚がいる状態はよくない。

天野:
魚のストレスになっちゃうんですね。

佐渡島さん:
アクアリウムを見ていて、「生態系がすごく重要」「組織もある程度のサイズ感がないと、似た役割の人間が重なってストレスになってしまうのか…!」ってわかったんですよね。


なるほどねえ…

佐渡島さん:
仕事してると、悩みと課題しかないですよね。ただ、それを解くのが楽しいわけで、「何に似てるかな〜?」と常に考える。

ふだんから“自分と似てるかも”という目線で物事を見て、ピンときたものがあれば、そこへ行ってみたり、くわしい人に話を聞いてみたり。こういう考え方をしていれば、「アイデアに行き詰まったとき」にも抜け出しやすいと思います。

「ヒットしてるコンテンツをあまり見ないが、これだけはチェックする」

天野:
“転用”がキモなんですね…

一方で佐渡島さん、以前インタビューで「ヒットコンテンツにはあまり触れない」とお話ししてましたよね? これはなぜですか?

佐渡島さん:
ヒット作は、ヒットしてる時点でもはや過去のものだからです。おおまかには知っておくけど…それ自体をインプットしても新しいものは生まれない

それよりも僕らは、未来がどうなるかを考えなきゃいけない。


一流はこういう視点なのか…カッコイイ…

佐渡島さん:
世の中って、常に何かがヒットしてるから、それをずっと見てたら社会のトレンドに自分が消費されてしまうんです。

天野:
では、トレンドは知らなくてもいいと?

佐渡島さん:
知っておくべき部分は当然あって…、映画だったら予告編は見ます。予告編を見て「自分だったらどうタイトルをつけるか」「企画書を書くならどう書くか」っていう思考実験をする。

そして、「世間の人の感想」はすごくチェックします。世間の空気は“今”ですよね。今、人々はこういうものを面白いと思うんだとか、そこから未来が予想できる。

天野:
なるほどお…じゃあ佐渡島さんはいくら流行ってるマンガやアニメでも、見てないんですか?

佐渡島さん:
「流行ったから見る」はないです。「僕の悩みや興味の対象」だったら見る。

天野:
そんなふうに考えたことなかったです…

佐渡島さん:
あてはまるものはじっくり何度も見るけど、そうじゃないものを見ても消費されてしまう。

そのためにも、「自分の悩み」が何なのか、ちゃんとわかっておくことが大事です。



どうなったら「アイデアが出た」と言えるのか? 自己採点の基準を明確に

天野:
自分のなかのテーマが明確じゃないから、なんとなく流行ってるコンテンツを見ちゃうのかな…

佐渡島さん:
僕は「“わかる”には“分ける”ことが必要」だと思ってて。悩みがあるなら、それを分解して、解像度を上げておかなければならない。

正直、「いいアイデアが思いつかない」って言ってる人は、その一個か二個手前の、「何に悩んでるかわかってない」状態の人が多いと思います。

何か魔法がほしい”みたいなテンションで言ってますよね。


たしかに。「アイデアさえ降りてくれば」みたいな

佐渡島さん:
そうじゃなくて自分は何を解決したいのか、目指すべき姿はどこなのか。アイデアが出るって「これだ! ヘウレーカ!」(※)という状態じゃないですか。

どうなるとそう思うのか。自分で採点するはずなのに、その採点基準がわかってない人が多いと思います。


※「わかった!」の意味。古代ギリシャの科学者、アルキメデスが「アルキメデスの定理」を発見した際の言葉とされる

佐渡島さん:
「アイデアを思いつきたい」から、「どうしたら自分がハッピーになれるんだろう?」と、問いのかたちを変えていくといいですよね。

天野:
たしかに。そこを明確にすれば、世の中の見え方も変わってくるのか…


それがアイデア体質…ですよね師匠?

佐渡島さんが世間に問いたいテーマとは?

天野:
最後に、皆さんにきいてるんですが…新R25ワイドショーで、佐渡島さんが世間に問いたい「テーマ」はありますか?

佐渡島さん:
人や世間との距離感を、どれぐらい取ってるか?をききたいです。

人に与える影響力は、どれぐらいが適切なのか?」と言い換えてもいいかもしれません。


佐渡島さんの脳内に、すぐについていけないのが悔しいです…

天野:
えーっと…普通は他者に与える影響力は大きいほうがいいと思いがちですが…

佐渡島さん:
「そうじゃないかもしれない」と考えているってことです。

たとえば上司から部下とか…“小さい影響力”のほうが相手にとっていい可能性もある。

最近では影響力という言葉が広く認知されていますが、世間の皆さんが、“もっともこれぐらいがいい”と思う自分の影響力はどれぐらいなのか? これをきいてみたいですね。

天野:
すぐに理解できず失礼いたしました(汗)。

「影響力」についても、テーマを考えてみたいと思います。今日はありがとうございました…!


ちなみに、佐渡島さんは移住先の福岡からzoom出演してくださいました。アイデアを実際に行動に移されている姿、尊敬します…

自分が行き詰まっている「悩み」を的確にとらえ、それに“似ている”ものをさまざまな分野から探してみる…。

一流の編集者らしい、本質的な「アイデア論」を聞けた気がします。

そして、9月6日には、そんな佐渡島さんの新しい著書『観察力の鍛え方』が発売。

目次を見ると、「『観察力』こそがドミノの一枚目」「観察は、いかに歪むか」「みんなの意見に流されていないか」…など、行き詰まったときに実践的に使えそうな、気になる項目が並びます。

僕も、絶対読もうと思います…!!

〈取材・文=天野俊吉(@amanop)〉

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