神がかり的にウマい! ラーメン官僚が北府中の大型新店『中華蕎麦 ひら井』の「中華蕎麦」を絶賛する理由
食楽web
首都圏の外環状路線として、多くの人々の通勤・通学の足として重要な役割を担うJR武蔵野線。そんな武蔵野線沿線の駅の1つである北府中駅は、1日当たり平均乗車人員が1万2000人強の、同線の中では比較的こぢんまりとした駅。
ラーメン好きの間では、北府中駅と言えば、ガッツリ系ラーメンの実力店『ラーメン英二』の最寄り駅としてよく知られています。そんな北府中エリアに、2021年5月10日、一軒のラーメン店が誕生しました。それが、今回ご紹介する『中華蕎麦ひら井』です。
私もつい先日、足を運びましたが、太陽が照り付ける酷暑の中の約1.2kmの行程は中々ハードなものがありました。が、この後、詳しく紹介させていただきますが、この『ひら井』。そんな行程の労苦も一瞬で吹き飛んでしまうほど、素晴らしい1杯を提供してくれます。
黒地に金文字で屋号が刻まれた、シックでありながらも優良店のオーラがにじみ出す外観。北府中駅から徒歩15分程度。公共交通機関で店にアクセスする人にとっては、季節によってはやや酷な行程になるかもしれません
同店の屋号は、店主の顔が歌手の平井堅さんに似ていることから名付けたもの。店主のお名前は上野竜一氏。決して、平井姓ではありません(笑)。
上野氏は、大学生だった頃、ラーメン好きであれば100%その存在を知るガッツリ系ラーメンの超実力店(グループ)等で勤務し、その後、製麺機メーカーの名門『大和製作所』へと入社。同社に勤めていた頃から地道に麺の研究を重ね、その後再び、学生時代に働いていた店へと戻り、作り手として長年腕を奮い続けてきた逸材。修業先において、同氏の人柄と紡ぎ出す1杯に心惹かれ、店へと通い続けた常連客も大勢います。
落ち着きのあるデザインの店内。雨が降ろうが風が吹こうが、営業時間中は常に行列が絶えない人気ぶり
そうしたバックボーンの持ち主が今般、満を持して新店を開業したのですから、ラーメン好きが黙っていられるわけがありません。私が訪問したときにはタイミングに恵まれ、行列客の数は4~5名でしたが、入店後、ふと店の外へと視線を移せば、瞬く間に長蛇の列が発生していました。
オープンから3ヶ月程度の若い店であることや、やや不便なロケーションなどを考慮すれば、獲得している支持は、2021年開業組の中でもずば抜けていると言えるでしょう。
どれを食べてもハズレなし!絶品すぎる「つけ蕎麦」と「中華蕎麦」とは?
店舗の入口付近に券売機が鎮座。ひときわ目立つのは「チャーシューつけ蕎麦」「つけ蕎麦」「チャーシュー中華蕎麦」「中華蕎麦」の名が銘打たれた4個の大きなボタン。中でも「つけ蕎麦」は、麺で魅せる1杯の創作を追究し続けてきた店主がその麺を主役に据えた看板メニュー。職人人生の集大成です。
券売機の下部には、「味噌つけ蕎麦」「辛つけ蕎麦」「汁なし蕎麦」等のメニューのボタンが設置されています。「辛つけ蕎麦」は、夏季限定メニューとして7月12日より提供を開始。その他、限定メニューとして「濃厚中華蕎麦」等の提供も随時実施。創作意欲の高さが垣間見えます。
「『つけ蕎麦』と『中華蕎麦』の両方を味わいたい」との欲望に抗し切れず、券売機で食券を購入する段階から「つけ」と「中華」のボタンを連打。
まずは、「中華蕎麦」から実食させていただきました!
100%動物系素材で造られたパワフルな「中華蕎麦」
「中華蕎麦(並)」800円
美しい褐色に染め抜かれたスープには、ほのかな透明感あり。スープの表面を浮遊する液状油が描き出す複雑な模様も、この1杯が一介の動物系豚骨醤油ラーメンでないことを雄弁に物語ります。丼から立ち上がる香りも、この上なく風雅。規格外の視覚的・嗅覚的訴求力を誇ります。
経験を重ねた食べ手であれば、箸とレンゲを持つ前から、この1杯に対する期待値を大幅に上方修正させることでしょう。このスープに合わせる低加水ストレート麺の佇まいも、ただ者ではないオーラを発散。整然と折り畳まれた麺の1本1本が、主役級の存在感を放っています。
動物系の味を凝縮したとろみのあるコク深いスープ
スープは、豚(豚ゲンコツ・豚頭)、鶏(鶏ガラ・モミジ)、牛(牛骨)の3種の動物系素材を100%使用。素材ごとに熟成のかけ方や、炊き上げる時間に細やかな変化を加えながら、重層感のあるうま味を表現することに成功しています。
動物系の定番素材である豚・鶏のみならず、牛も素材として採り入れ、堅固なうま味のトライアングルを構築。「勤めていた『大和製麺所』が開催するラーメン職人志望者のための研修に参加する機会があり、その時に作った牛骨スープの芳醇な風味が印象に残っていて。『ひら井』の1杯にも採用させてもらいました」と上野店主。
スープを啜り上げた瞬間、カエシの豊潤な香りが鼻腔を心地良くくすぐり、豚・鶏・牛が一体化することで生まれる重厚なうま味とコクが舌上でビッグバンのように炸裂します。
コシの強さが特徴的な食べ応えのある低加水麺
このスープと合わせる低加水麺も、食べ終わりまで伸びない強靱さが頼もしい意欲作。スープと麺に味蕾が馴染むにつれて、味覚中枢が捕捉できるうま味の構造が徐々に明確となり、終盤にクライマックスが到来するように構成されている点も、驚嘆に値します。味を設計する段階から既に、他店の同系のラーメンとは次元を異にする、並び立つものなき名杯。
超一流の「つけ蕎麦」も必食の一杯!
「つけ蕎麦(並)」1000円
引き続き、看板メニューである「つけ蕎麦」を実食。ビジュアルからして既に「中華蕎麦」に増してタダモノではない風格です。
上野店主いわく「モッチリとし過ぎず硬くもない、ムッチリとした太麺を作ろうと心掛けています」という麺は、麺だけで甘美な味を演出すべく、大量の生卵を配合。
麺先に小皿に美しく盛られた純白の塩を付けて啜り上げれば、咲き誇る花々からほとばしる香りのように、麺から大量の芳香が放散。気を緩めると、麺と塩だけで丼を空けてしまいそうになるほど、圧倒的なクオリティを誇ります。
合わせるスープも、中華蕎麦で用いる豚・鶏・牛のブレンドスープを、より濃厚なベクトルへとチューンアップさせたもの。その味わいは、まさに濃厚つけ麺の最適解。付け入る隙は皆無です。
提供直前に表面を炙り仕上げるチャーシュー
チャーシューが神がかり的に高水準であることも、特筆に値します。2時間かけて炭火でこんがりと焼いた後に、100分かけて醤油ダレでじっくりと煮込むという高度なギミックを駆使することで、香ばしさと柔らかさの双方を見事に演出。
「つけ蕎麦」のつけ汁は「中華蕎麦」のスープを軸にその日に合わせて微調整してつくられる
肉料理のひとつとして考えても、超一流の出来映えだと断言できる超ド級の逸品。同店への訪問を済ませたラーメン好きの間で、特筆すべき話題としてとり上げられるほどです。
「これからも、多くのお客様に驚きと感動を与えられるよう、日々、研鑽に励んでいきたい」と語る上野店主の志の高さから、提供する1杯の味に至るまで、濃厚ラーメンの歴史的名店へと成長を遂げる可能性が随所に見える『ひら井』。
2021年最大級の大型新店と断じて、間違いはなさそうです。
店主(上野竜一氏)のプロフィール
・大学時代にアルバイトとして、ガッツリ系ラーメンの超名店でラーメンづくりの世界に触れる。
・その後、小型製麺機のトップメーカーである『大和製作所』に入社。その頃から、麺の研究に取り掛かり、やがて、研鑽を重ねて創り上げた麺の魅力が映える「つけ麺」を看板メニューに据えた店を出したいとの思いを抱くに至った。
・今般開業した『ひら井』は、そんな上野氏の思いが結実した1軒。
・店の場所を現在地とした理由も、具体的かつ明確。多摩エリアは、濃厚つけ麺を主力とする店舗が少ないのではないかと考えたこと、店の主力となる「つけ蕎麦」の麺は茹で時間が長くなるため、人通りが穏やかな場所の方が良いと考えたこと等によるもの。
●SHOP INFO
店名:中華蕎麦ひら井 (ちゅうかそばひらい)
住:東京都府中市栄町2-11-7
TEL:非公開
営:11:00~15:00
休:第1・3・5月曜、日曜
●著者プロフィール
田中一明
「フリークを超越した「超・ラーメンフリーク」として、自他ともに認める存在。ラーメンの探求をライフワークとし、新店の開拓、知られざる良店の発掘から、地元に根付いた実力店の紹介に至るまで、ラーメンの魅力を、多面的な角度から紹介。「アウトプットは、着実なインプットの土台があってこそ説得力を持つ」という信条から、年間700杯を超えるラーメンを、エリアを問わず実食。47都道府県のラーメン店を制覇し、現在は各市町村に根付く優良店を精力的に発掘中。