【ロイヤルエンフィールド INT650 インプレ】近代のバイクにはない優しいディテールの数々を見てみよう(このバイクに注目)
ロイヤルエンフィールドのツインは、クラシックテイストが印象的。真っ直ぐの道も退屈せずに走れるのは、常にエンジンが心地よいリズムを刻むからだ
エンジンの優しい鼓動感に包まれる日帰り600kmこの日は浜松のクシタニで取材だった。東京の編集部からクシタニまでは片道250kmほど。そういえばロイヤルエンフィールドの新しいツインで長距離を走ったことがないなぁと思い、INT650で行くことにした。
このパラレルツインエンジンはいまどき珍しい空冷で、爆発間隔は流行りの270°。低中速域の鼓動感とレスポンスの良さが両立されたまさに名機と呼べるエンジンで、排ガス規制の兼ね合いもあり今後はこんなエンジンを作るのは難しいだろうなぁと思う。
排気量648ccは、現代のスペックで見ると少し物足りないかもしれない。ベテランほどそんな先入観を持つと思うが、それは試乗すれば一蹴されるに違いなく、空冷だから、並列ツインだからノスタルジーなだけで物足りない……なんてフィーリングは皆無。
むしろ、こんなに走るのか、と思うシチュエーションの方が多いと思う。
実は僕もそんな先入観を抱いていた1人であり、試乗して面食らったインパクトはここ数年で乗ったバイクの中でもかなり大きかった。だからこそ長距離を走ってみたいと思ったのだ。
シリンダー&シリンダーヘッドのフィン。水冷エンジンをクラシックに見せるためのフィンはあるけれど、意味のあるフィンを持つエンジンは本当に少なくなってきた
緩やかな曲線を描くクランクケースカバー。アルミの地肌のままで処理はしていないが、磨く楽しみがある。ケースに写る湖面がなんともいえない。長谷川カメラマンが湖の中に入り撮影していた……INT650は撮影したくなるバイクなのだ
100km巡行がたまらなく心地よい市街地で常用する低中速を繋ぐ走りではエンジンのトラクションの良さが際立つ。水冷にはない独特の優しいフィーリングで気持ちいい。あまり回転を上げて走るというよりは3,000rpmくらいですぐにシフトアップ。どんどん高いギヤに入れていく、市街地でも5速、6速が使える豊かなトルク感を披露してくれる。
しかし、こういったエンジンには高速道路の巡行が苦手なケースも多い。僕がよく乗っているヤマハのSRも市街地やワインディングは抜群に楽しいが、高速道路は100km巡行さえもが気持ちよくなく、80km/hで巡行していることが多い。若い頃はSRで長距離も走っていたが、ビッグバイクの巡行性能を知ってしまったいまは、SRで長距離ツーリングに行くことはない。
でも結果から言ってしまうと、ロイヤルエンフィールドのINT650は長距離も得意だった。100km/h巡行区間はもちろん120km/h区間もクルマの流れに乗って走ることができる。回転が上がってくると当然振動が出てくるけれど、100km/hなら心地よいレベル。120km/hでずっと走るのは僕はあまり好きなタイプの振動ではなかったけれど、100km/hで巡行しながら追い越し時に120km/hまで加速するのはとても気持ちが良い。この加速中も車体はとても安定している。
マフラーはスチールメッキ仕上げ。エキパイのフランジ部分にもフィンが装着される。スチールならではの柔らかい素材が心地よいエキゾーストノートを奏でる
タンクはティアドロップタイプ。安心感のあるカタチが良い。タンクキャップは往年の英国車を思わせるエノットタイプ。思わず触りたくなるカタチだ
夕陽の中のINT650はたまらなく美しかった正直、もっと長距離が苦手なバイクだと思っていたけれど、それは杞憂だった。
想像よりも疲れていないし、まだまだ走れそうなので、クシタニで取材を終えたカメラマンの長谷川さんを道連れに浜名湖まで足を伸ばすことにした。
この日は天気もよく、良い夕陽に出会えそうだ。
浜名湖に到着し、周辺の道路を少し流す。湖面の光に癒される。しばらくすると日が傾いてきた。INT650は、いまどき珍しいスチールメッキのヘッドライトケース、フェンダー、アルミの地肌のクランクケースなどを採用している。当然、ラジエターもないからエンジンもシンプル。パソコンの中でデザインされ、樹脂率の上がった近代のバイクにはないディテールが良い。
太陽に照らされてギラギラと輝いていたメッキパーツがどんどんしっとりと落ちついたディテール に変わっていく。クランクケースの曲面の中で湖面が揺れる。この感覚は樹脂パーツの多いバイクでは得られないものだ。長谷川カメラマンと時間を忘れて撮影を進めていく。「ここも、あそこも」INT650には愛でるディテールがたくさんある。
各部を触り、磨く作業も楽しい。柔らかい曲線の集合体であるINT650は、なんだかとても触り心地が良いバイクなのだ。
気がつけばすっかり日が落ちていた。
ここから270km走って帰らないといけない。暗闇の中をINT650は淡々と走る。不思議なことに疲労感は少ない。スクリーンもないし、電子制御もない。でも高速道路の巡行中も操っている醍醐味があり、とても楽しい。帰りは80~100km/hで巡行。今日1日のこと、日常のこと、仕事のこと、いろいろなことを考えながら走る。僕は高速道路の左車線を車線変更をせずに80~100km/hで走りながら色々なことを考えられるこの時間がとても好きだ。この時間だけを求めてバイクに乗ることもよくある。
オーソドックスな2眼メーター。薄型なところが旧車っぽいディテールを生み出す。シンプルでとても視認性が高い。情報を探しにいかないと見つけられない近代のメーターと比較すると、なんともいえない安心感がある
気がつけば日没に。INT650のディテールがとても美しい時間帯だった。こんな一瞬に出会うために出かけたくなる
とても優秀だったINT650のシート。僕は600kmほど走ってもどこも痛くならなかった。クラシカルなデザインなのに走ることをきちんと考えている
パラレルツインと車名のロゴ。ちなみにINT650はシリンダーを直立させてエンジンを搭載していないためバーチカルツインではない
お尻が痛くならないから、疲労感が少ない往路から少し気がついていたけれど、INT650のシートはとてもよくできている。お尻が痛くならないのだ。こればかりは相性もあるのだが、ある一部の車種を覗き、僕は40分ほどでお尻が痛くなり始めるバイクが多い。相性が悪いと20分ほどで違和感が出てくる。しかし、INT650は約600kmを走ってもどこも痛くならなかった。これが疲労感が少ない理由かもしれない。
バイクは終日快調だった。途中、小雨が降ったが、ウエット路面でもトラクションの良いエンジンの安心感は心強かった。クラシックなフィーリングだけど、ツーリングも得意なのがINT650だ。
もっと色々な日本の風景になじむINT650を見て見たいなぁと思った。
ロイヤルエンフィールドの試乗はこちら!
リヤはオーソドックスな2本サス。オーナーになったらサスペンションは○○製にして、フロントフォークの油面は……などと妄想が広がる
浜名湖周辺をツーリング。市街地も郊外もどんなシーンにもINT650は一瞬で溶け込んでいく。走っていてパワーやトルクのスペックを気にするシーンは1回もなかった。常に自然体で楽しめるのが良い
ただただ、時間が経過するのを待つ贅沢な時間。夕陽と日没の一瞬しかないこの陰影を楽しむ
SPECSpecificationsRoyal Enfield INT650エンジン空冷4ストロークSOHC4バルブ並列2気筒総排気量648ccボア×ストローク78×67.8mm圧縮比9.5対1最高出力47bhp/7,150rpm最大トルク52Nm/5,250rpm変速機6速車両重量202kgサスペンションF=テレスコピックφ41mm正立R=スイングアーム+2本ショックブレーキF=φ320mmダブル R=φ240mmタイヤサイズF=100/90-18 R=130/70-18全長/全幅/全高2,122/789/1,165mm軸間距離1,398mmシート高804mm燃料タンク容量13.7L価格77万6,000円~