尾身会長の東京五輪「普通はない」発言が物議に……

写真拡大

政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長の発言が物議を醸しています。

東京五輪・パラリンピックについて、今の状況での開催は「普通はない」とした発言を国内外のメディアが取り上げているのですが、あまりにもバラバラな解釈にビックリ!「尾身会長が五輪開催に懸念!」との見出しもあれば、「尾身会長、小規模開催を主張」と報じるメディアもあり、「いったい何が本当なの?」と、叫びたくなります。

尾身会長の「お家芸」とも言える「慎重な物言い」を海外メディアはどう伝えるのかなと思っていたら、案の定、「伝言ゲーム」のように「誤訳」?が広がっていました。

ロイター通信「穏やかな尾身氏の普通じゃない発言」

物議を醸している「尾身会長発言」ですが、まずは発言内容を日本語で確認してみましょう。NHKは、尾身会長は東京オリンピック・パラリンピックをめぐり、衆議院厚生労働委員会で次のように発言したと報じています。

「今のパンデミックの状況で開催するのは、普通はない」「こういう状況の中でやるというのであれば、開催の規模をできるだけ小さくして管理の体制をできるだけ強化するのが主催する人の義務だ」

一連の尾身会長の発言の中で、海外メディアが特に注目したのが「普通はない」発言です。各国のメディアが速報で、次のように報じています。

Hosting Olympic Games during pandemic 'not normal', Japan's top medical adviser says(日本の医療アドバイザーのトップが、パンデミック禍でオリンピックを開催することは「普通ではない」と発言した:米ABCニュースAdviser frets about Japan Olympics(アドバイザーが日本での五輪開催を懸念:ロイター通信)fret about〜:〜を懸念するHosting Games in pandemic abnormal(パンデミック禍で五輪開催は異常だ:オーストラリアのメディア)

尾身会長の「普通はない」発言。海外ではすっかり「not normal」(普通ではない)、「abnormal」(異常だ)と訳されていますが、オリジナルの「普通はない」とはちょっと意味合いが違っています。発言のニュアンスを正確に伝えているのは、日本のジャパン・タイムズ紙の見出しでしょう。

It's not normal to hold the Olympic Games in a situation like this(こういった状況でオリンピックを開催することは普通ではない)

とはいえ、ロイター通信は記事の中で、尾身会長の発言を「The soft-spoken Omi's unusually stark comments」(穏やかな尾身会長のめずらしく厳しい発言)と紹介。さらに、「安心安全な大会運営を」と繰り返す菅首相とは「contrasted」(対照的だ)、と分析していて、尾身会長の発言そのものが「unusually」(普通じゃない、めずらしい)ことが伝わってきます。

尾身会長の「普通はない」発言。意訳でも誤訳でも何でもいいですから、どんどん世界に広がって欲しいものです。

英紙「東京はIOCの人質」「IOCは空気を読め!」

東京五輪・パラリンピックの開催日が刻々と近づくなか、残念なことに「中止」や「延期を主張する声は、さほど大きく広がってはいません。日本でも、朝日新聞が社説で「五輪中止を」と呼びかけましたが、読売新聞や日本経済新聞など他の新聞社が後に続く気配はありません。

そんななか、一貫して「東京五輪」について懐疑的なスタンスだった英紙ガーディアンが、「東京はIOCの人質になっている」ので、東京五輪には「参加しないことに意義がある」と訴えるスポーツ専門家の記事を掲載しました。

IOC holds Tokyo as Olympic hostage to fortune with grim Games ahead(IOCは残酷なオリンピック開催を前に、東京を人質に取っている:英紙ガーディアン)grim:ぞっとずる、残酷な、厳しい

筆者は、東京五輪は過去の五輪と異なり「国民の意思に反して強行される」ことに強い違和感を示しています。さらに、「礼儀正しくて海外客を歓迎することで知られている日本人が、五輪開催に反対している」にもかかわらず、IOC(国際オリンピック委員会)が、「steadfastly refuses to read the room and leave」(断固として空気を読まず、立ち去らない)と比喩しています。

また、相次ぐIOCの強気発言や強行路線とは対照的に、東京の人々は五輪後の感染拡大に「terrified」(恐怖を感じている)が、IOCとの契約上「Tokyo is powerless to stop them」(東京は彼らを止めることはでいない)と、日本の置かれた複雑な立場を伝えています。

筆者は「オリンピックは勝つことではなく、参加することに意義がある」という近代オリンピックの父であるピエール・ド・クーベルタンの格言を引き合いに出して、次のことばで締めくくっています。

on this occasion, not taking part would unquestionably be the most important thing of all(今回の五輪は、「参加しないこと」に、最も重要な意義があるだろう)

それでは、今週のニュースな英語は「normal」(普通)を使った表現を取り上げます。

That is normal(それは普通です)That is not normal(それは普通じゃないですね)back to normal(通常に戻る)Everything should be back to normal(すべて元どおりになる)

何が何でも五輪開催に突き進もうとする政府や関係者の姿勢は、決して「normal」とは言えません。人々が心の底から願っているのは、五輪よりもコロナ対策を優先して、一日も早く「back to normal」(日常に戻る)ことだと強く思います。(井津川倫子)