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日立製作所は、日立が独自に開発した量子コンピュータを疑似的に再現した計算技術「CMOSアニーリング」の研究と開発を進めています。このシステムは、大規模で複雑な「組合せ最適化」問題を高速に解くのに最適と言われています。CMOSアニーリングの技術的な特徴や量子コンピュータとの関係、想定されるデバイス構成等の詳細は前回「日立「CMOSアニーリング」の実用化が進む(1) 量子コンピュータを疑似的に再現 アニーリングと組合せ最適化とは【入門編】」で解説しました。

今回は、実用化が進む「CMOSアニーリング」のユースケースとして、日立の中央研究所、三井住友フィナンシャルグループ、損害保険ジャパンとSOMPOリスクマネジメントの事例を紹介しましょう。

●「勤務シフト最適化ソリューション」を昨秋にリリース

日常の業務で「組合せ最適化」問題として真っ先に思いつくのが「勤務シフトの作成」でしょう。時間ごとに必要な人数やタスク内容(職務)、スキル、休暇希望、勤務頻度、通勤時間などの複雑な条件を加味した勤務シフトの作成は複雑で時間がかかります。また、サービスセンターやコールセンター、生産工場など、大規模な勤務シフト作成業務では、画一的なローテーションによるシフト組みではなく、細かな制約を複合的に考慮した最適な要員配置が求められますが、人数が増えれば増えるほど、各個人の属性や希望をシフトに反映することは困難になります。

実は日立は、数100人規模の勤務シフトを短時間で作成できる「勤務シフト最適化ソリューション」の提供を、2020年10月からはじめました。これはクラウドサービス(SaaS)として提供されるため、導入する上で特別なマシンを購入したり専用回線の設置等は不要です。



出社時間は4シフト制で、所属チームや研究内容、実験の進捗、実験設備の使用状況、希望出社頻度、通勤時間など条件を細かく設定したうえで、数100人規模の「3密回避」シフトをCMOSアニーリングによって効率的に作成しました。その結果、同研究センタ300人分の週間シフトの作成は約1時間ほど。通常のコンピュータで行った場合の作業時間と比較して、100倍近い速さで、新型コロナウイルスへの感染リスクを最小限に抑えながら、円滑に研究活動を継続するためのシフトが作成できている、としています。



今後も、ニューノーマルな社会では「在宅勤務と出社勤務」双方の良さを生かしたフレキシブルな働き方にシフトしていくことが予想されるため、多くの企業で効率的で最適なシフト作成業務が、より一層求められそうです。

●損害保険ポートフォリオ最適化

もうひとつ興味深い実証実験の結果を紹介します。

損害保険ジャパンとSOMPOリスクマネジメント、日立製作所の3社が合同で行った実証で、損害保険会社のポートフォリオの最適化にCMOSアニーリングを活用した事例です。

地震や台風、洪水、津波、高潮など大規模な自然災害では、多額の保険金の支払いが発生します。損害保険会社はこのリスクを回避、分散するため、別の保険会社に再保険契約する施策をとっています。



自然災害による巨額の支払いリスクを予測しつつ、再保険契約のコストを抑えて収益を最大化するために、最適なリスクコントロール(ポートフォリオ最適化)が必要となりますが、これを自動化するには膨大な量の「組合せ最適化」の計算が要求されます。

例えば、自然災害リスク評価モデルにおいては、台風、洪水、津波等の自然災害が発生する確率と規模、その損害額など多くのパターンを想定したり、想定を上回る損失への最適な対応方法の提案が重要となります。



●2.5〜3年もかかる計算を1週間で(推定)

大規模な自然災害と複雑なリスク回避用件を考慮したポートフォリオ最適化は、従来型のコンピュータでは1回の計算に「約3年」が必要と試算され、現実的なものではありませんでしたが、CMOSアニーリングの活用によって許容計算時間内で解くことが可能か等を検証したのです。

その結果、実証実験を行ったポートフォリオの規模において、CMOSアニーリングが従来のコンピュータと比べて、100倍以上の計算速度で最適化が完了することが確認できました。従来は約3年程度かかる損害保険ポートフォリオ最適化問題も「1週間以内に解く」ことができると推定されたのです(実際にはもう少し小さい単位で実証し結果を推計)。回答の精度も従来想定されているもののレベルに達しました。



こうしたことから、「現時点での性能、精度ともに問題はないものの、実用で必要となるハードウェア、ソフトウェアの準備期間も必要であり、両社のロードマップを照らし合わせ、今後は実導入に向けた準備を進める」とコメントしています。更には「今後は更に計算時間を短縮する研究を進めたい」と続けています。



日立は、このCMOSアニーリングの研究・開発をさらに強化し、金融商品のポートフォリオ作成や、物流倉庫におけるピッキング作業の高度化など、さまざま分野での活用をめざして、各種ソリューションの拡充に取り組みたい、として、協業パートナーを募集していく考えです。



(神崎 洋治)