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静岡県で一家4人が殺害された1966年の「袴田事件」で死刑が確定した袴田巌さん(84)について、最高裁第三小法廷(林道晴裁判長)は、裁判のやり直しを認めなかった東京高裁決定を取り消し、高裁に審理を差し戻した。12月22日付。

事件が起きたのはビートルズ来日の真っ只中。以来、袴田さんはおよそ半世紀にわたって自由を奪われ、2014年3月、静岡地裁で再審開始決定とともにようやく釈放された。

しかし、2018年6月、東京高裁は地裁決定を取り消し、再審を認めない決定を出していた。なお、釈放自体は継続している。

●裁判官2人は“破棄自判”すべき

今回の最高裁決定は、高裁決定を取り消すという点では全員一致。さらに林景一裁判官と宇賀克也裁判官は、そこにとどまらず、最高裁自ら再審開始を認める決定を出すべきとの反対意見を述べている。

その理由は「時間」にあると考えられる。今回の差し戻しの決定により、再審の可否は改めて東京高裁で審理される。だが、そこで再審を認める決定が出たとしても、検察側が不服を申し立てれば(特別抗告)、改めて最高裁で判断されることになる。

そうなれば、仮に再審が始まるとしても、それまでに年単位の時間を覚悟しなくてはならない。

●検察官の抗告を禁止にすべき

おなじく裁判のやり直しを求めている大崎事件では、地裁・高裁が再審開始を認めたのに、最高裁が2019年、決定を取り消し、再審請求を棄却したことがあった。同事件では、このほかにもう1回、再審開始を認めた決定が、検察の不服申し立てによって覆っている。

再審請求人の原口アヤ子さんは現在93歳。同事件の弁護団事務局長の鴨志田祐美弁護士は、再審開始決定に対する、検察側の不服申し立てを禁止すべきだと主張している。

「再審請求審は、『再審を開くかどうかを決めるだけの前裁きの場』なのです。検察官が有罪を主張したいのであれば、公開の法廷で、被告人への権利保障も手厚い再審公判で堂々とやればよいのです。

本来前審的な軽めの手続きが想定されていたからこそ非公開で手続き規定も少ない再審請求の決定に対して、検察官がいたずらに抗告を繰り返すのは、無辜の救済を目的とした再審制度における検察官の在り方としても問題です」

ドイツでは半世紀以上前の1964年に、再審開始決定に対する検察官抗告を立法で禁止しているという。

【取材協力弁護士】
鴨志田 祐美(かもしだ・ゆみ)弁護士
神奈川県横浜市出身。会社員、主婦、母親、予備校講師を経て、2002年、40歳で司法試験合格。2004年弁護士登録(鹿児島県弁護士会)。
大崎事件再審弁護団事務局長、日本弁護士連合会「再審における証拠開示に関する特別部会」部会長
事務所名:弁護士法人えがりて法律事務所
事務所URL:http://egalite-lo.jp/