新型コロナウイルス感染の第3波はなかなか去らず、医療を逼迫し始めています。それでも帰省を断念したくない人や、やむにやまれぬ事情がある人もいるかもしれません。医師の木村知先生は「どうしても……という場合は、できる限り実家の人との接触を短くすること。実家に泊まるのではなくホテルなどに宿泊を」と指摘。他にも安全な帰省を実現するためには、クリアしなくてはいけない数々のハードルがあります――。
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※写真はイメージです - 写真=iStock.com/inewsistock

医療基盤が脆弱な地方への感染拡大は何としても避けたい

この年末年始に「帰省しようか、どうしようか」迷っている人は多いでしょう。報道各社が実施した世論調査では、回答者の7、8割が「帰省は自粛すべき(読売新聞、12月4〜6日実施:回答者の75%)」「帰省や旅行の計画はない(朝日新聞、11月14、15日実施:同88%)」としています。ただ実際となるとどうでしょうか。

12月10日のJRグループ6社の発表では、年末年始(12月25日〜2021年1月5日)の新幹線、在来線の指定席の予約状況は9日時点で前の年の61%減、162万席と確かに減っていましたが、それでも限られた期間に大勢の方が大移動するという状況は避けられないようです。

みなさんがすでに体感しているように、感染症は人の移動にしたがって広がっていきます。医療者としては、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の市中感染が明らかな大阪、東京、札幌といった流行圏から、医療基盤が脆弱な地方へ感染が広がる事態はなんとしても押さえ込みたいのが本心です。

しかし一方で、「お正月くらい両親の顔をみたい」「初孫をみせたい」という気持ちもわかります。まして大学進学や就職で故郷を離れ、いきなりオンライン学習やリモートワークといった孤独な環境に放り込まれた学生さんや新入社員のみなさんは、なおさら家に帰りたい気持ちが募っているでしょう。

■安全な帰省を実現する帰省前の行動

そこで、少しでも安全に帰省をするための条件をチェックリストにしてみました。一つひとつチェックをしながら、自分自身は「安全な帰省」のハードルをクリアできるかどうか、考えてみてください。

帰省前の行動に関するチェック項目
□ 毎日の手洗い、マスク着用を徹底する。
□ 日々、3密(密閉、密集、密接)を避ける。
帰省の2週間前から参加人数にかかわらず、忘年会や飲み会には絶対参加しない。
□ 既婚者の場合は、互いの実家に一人で帰省できないかを相談する。
帰省日の朝までに一人でも体調が悪い、発熱したときは、帰省を中止する。
□ 自家用車で帰省する場合は、時間帯を選び「密」になるSAやPAを避ける。

もしかすると「帰省するなら、事前にPCR検査を受けて」と言われた方もいるかもしれませんね。しかし、PCR検査、あるいは抗原検査については、たとえ検査結果が「陰性」であったとしても、必ず取りこぼしがあり「100%安全です」とは言えません。

たとえ「検体」を採った時点でウイルスが検出されなかったとしても、検査から帰省日までの間に体内に入り込んでいたウイルスが増殖しない、または感染しないとは限らないのです。「陰性」を過信してクラスターが発生した事例も報告されているように、新型コロナウイルスの「陰性証明」もインフルエンザの「陰性証明」と同じくまったく意味はありません。

■「安心のため」の検査はかえって危険

もう一つ抗体検査というのもありますが、この検査の陽性反応は「時期は不明だが、過去に新型コロナウイルスに感染していた可能性がある」という意味で「今、実際に感染しているかどうか」はわかりません。また検査を受ける動機が「安心を得るため」であると、陰性結果をもらったときにどうしても油断してしまいがちです。のちに「陰性結果を信じたばかりに……」ということになっては悔やんでも悔やみきれません。帰省前に安易に各種の検査に頼るよりも「自分はすでに感染している。誰かに感染させる可能性がある」という前提で行動を決めていく覚悟が必要です。

【検査に関するチェック項目】
□ PCR・抗原/抗体検査の結果にかかわらず、自分は感染者だと仮定し全ての行動計画を立てる
□ 陰性結果で安心してしまう人は危険。油断するくらいなら検査しない方が得策

■寝室の共有は論外!

さて、次に帰省先で「感染を広げない、ウイルスをもらわない」ための行動条件を考えてみましょう。

帰省先での行動に関するチェック項目
帰省先でも手指消毒と「移さないため」のマスク着用を徹底する
□ 宿泊先は自宅ではなく、家族単位でホテルや旅館に宿泊し、従業員との接触を最小限に
□ 自宅に泊まる場合は、両親や同居している家族と寝室を分ける
□ 親戚など大人数での集まりは、中止する
□ 地元の友人との飲み会、会食は「今年は我慢」と予定から外す
□ 大晦日から夜更かしをして寝正月を決め込むと「濃厚接触」になるので、だらだら自宅に滞在しない
□ 外食をする際は個室を予約し、他のグループと接触せずに短時間で切り上げる
□ はめを外して急性アルコール中毒や交通事故を起こさないよう気をつける
□ 初詣は混み合う時間帯や参拝客が多い寺社は避ける

帰省先で感染拡大を防ぐには、とにかく両親や同居家族、親戚、友人との「接触時間を最小限にする」ことがポイントです。寝室の共有は論外で、特にご高齢の家族がいる場合は、大晦日に顔を合わせて食事をした後はすぐホテルに帰り、元旦に改めて短時間顔を合わせるくらいの慎重さが必要です。

また、つい飲み過ぎて急性アルコール中毒や交通事故を起こさないようくれぐれも気をつけてください。寒暖差で心筋梗塞や脳卒中につながりかねない飲酒後の入浴も避けたほうが良いでしょう。地方の救急病院は普段からギリギリの状態であるうえに、正月中は診療所や中小病院の外来が一斉に休日診療体制や休診に入るので手が足りません。

そこにCOVID-19かもしれない帰省客や旅行客が何人も搬送されてくると、一気にその地域の医療が滞る可能性がでてきます。あなたが病気やケガに気をつけることで、結果的に何十人もの人の命が助かります。特に普段から血圧の薬などを飲んでいる方は、飲み忘れないよう気をつけてください。

帰省先から戻った後の行動も慎重に

このほか、地方から流行が拡大している都市部に帰省した場合──例えば地方の大学から大阪、東京に帰省する人は、逆にウイルスをもらって戻る可能性があります。したがって、今の拠点に戻ってからの行動も大切です。

帰省から戻った後の行動に関するチェック項目
□ 戻ってから2週間は確実に「3密」を避ける
□ 同じ期間、検温、体調の記録を続ける
□ 帰宅後に発熱や倦怠感、味覚・臭覚障害などが生じた場合は、最寄りの保健所あるいはかかりつけ医に連絡をする
□ 症状が生じた場合は、直ちに実家や帰省先で接触した友人に連絡をとる

特に、症状がでた際は保健所への連絡もしくは医療機関への相談と家族、友人への連絡は徹底してください。世間のバッシングが怖くて隠したくなる気持ちはわかりますが、感染ドミノを早い時点で止めるためにはここがキーポイントになります。

こうしていろいろ考えていくと、今年のお正月の帰省は「行って帰ったら終わり」ではなく、「帰省の2週間前〜帰省中〜帰省後の2週間まで」のほぼ一カ月間の生活に影響があり、さらにお金も手順もかかりそうです。

写真=iStock.com/recep-bg
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/recep-bg

もちろん、全てのハードルをクリアしてでもどうしても帰省しなければならない理由がある方は別ですが、パンデミック真っ最中の今年、「いつも帰っているから」「お正月だから」というだけで、そこまでする覚悟と必然性はあるかを自分に問いかけてみましょう。

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木村 知(きむら・とも)
医師
医学博士、2級ファイナンシャル・プランニング技能士。1968年、カナダ生まれ。2004年まで外科医として大学病院等に勤務後、大学組織を離れ、総合診療、在宅医療に従事。診療のかたわら、医療者ならではの視点で、時事・政治問題などについて論考を発信している。ウェブマガジンfoomiiで「ツイートDr.きむらともの時事放言」を連載中。著書に『医者とラーメン屋「本当に満足できる病院」の新常識』(文芸社)、『病気は社会が引き起こす――インフルエンザ大流行のワケ』(角川新書)がある。
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(医師 木村 知 構成=井手ゆきえ)