ボカロ好き高校生×ボカロおじさんによる新旧ボカロ座談会──「ボカロとどうやって出会ったの?」「初音ミクってどんな存在?」世代を超えて好き放題語ってもらった
2007年に初音ミクが誕生したことをきっかけに到来したボカロブーム。
「メルト」や「千本桜」をはじめとする数々のボカロ曲が生み出され、ボカロPは一躍アーティストとして注目を集めた。その人気は、オリジナル楽曲に限らず、歌ってみたやMMD、イラストなどにも波及。数えきれないほど多くのファンの心を掴んだ。
そんなボカロブームから約10年、今、若者たちの間でボカロが盛り上がりを見せていることをご存じだろうか。
かつての熱狂を知る30、40代以上の世代でボカロがというジャンルが人気なのはわかるが、なぜ若者たちの間でボカロが流行っているのか。
いったい彼らはどのような経緯でボカロを知り、どんな風にボカロを楽しんでいるのだろうか。そんな疑問に迫るべく、ボカロ好きの現役高校生をお呼びし、実際に話を聞いてみることに。
また、かつてのボカロブームを体験し、10年以上ボカロ界隈を見てきたボカロ大好きボカロおじさんたちも招集。黎明期からこれまで、ボカロ文化がどのような歴史を辿ってきたのか、その知見を語ってもらった。
本来であれば交わることはないであろう、現役高校生とボカロおじさんによる邂逅は、どのような化学変化を引き起こすのだろう。本記事では、そんな世代を超えたボカロトークがくり広げられた座談会の模様をお届けしていこう。
座談会参加メンバー
※タップ(クリック)で画像が大きく見られます。
■現役高校生サイド(右)
リョウマくん(N高生)
ミハルさん(N高生)
シュウくん(N高生)
■ボカロおじさんサイド(左)
仁平淳宏氏(一般社団法人 日本ネットクリエイター協会(JNCA))
菱山豊史氏(クリプトン・フューチャー・メディア)
佐藤悠介氏(元・ビクターエンタテインメント)
木村義一氏(元・ヤマハ)
取材・文/竹中プレジデント
若者の間でボカロって流行ってるの?
──まずは若者世代にズバリお聞きしたいんですが、実際に今の10代の若者たちの間でボカロって流行っているんですか?
リョウマ【高校生】:
小学校のころに「ボカロすごいよ」と友だちに言っても、いまいちな反応だったんですが、最近は「神曲じゃん」や「この歌声好き」って言ってくれる人が増えている気がします。
──小学生から高校生になるこの数年でボカロ人気は高まっていると。
リョウマ【高校生】:
はい。友だちのなかには、やはり機械的な音が苦手っていう人もいるんですが、普通の楽曲として聞いている人も多いです。自分がボカロ好きって知っている人からは、ラインで「この曲最近リピートしてるんだよね」って連絡があることもありますね。
ミハル【高校生】:
私も中学校ときには、全体としてそこまで流行っている雰囲気はなかったと思います。中学校の給食のときの放送で、じんさんの「夜咄ディセイブ」が流れたことがあったんですが、そのときもボカロ好きな友だち2、3人で話すくらいでした。
でも高校くらいからは話す機会が増えたように思います。昨日もちょうど、Kanariaさんの「KING」という曲があって、その曲を誰が歌ったのがいい、という話をしたばかりなんです。
歌い手さんやVtuberの方も歌うようになって、誰がどの曲を歌ったここがいい、みたいに人によっての好みの幅が広くなったと思います。そういうのを語るのが楽しいんです。
【GUMI】KING【Kanaria】
シュウ【高校生】:
自分の場合は中学校で聞いている人はわりといた印象です。ただ、今ミハルさんが言ったように、誰が歌ったこの曲がいいという話は最近増えている気がします。
──オリジナル曲だけでなく派生作品の話題も盛んなのはボカロ文化らしさでしょうか。今のお話を聞く限り、若い世代でもボカロ人気は広がっている感じはしますね。
菱山【ボカロおじさん】:
2013年からマジカルミライというイベントを開催させていただいているのですが、そこでひとつの変化が見受けられたんです。
それまでの初音ミクのイベントでは、比較的年齢層の高い方が来場者シェアの多くを占めていたんですが、マジカルミライでは親御さんとお子さんがいっしょにいらっしゃったり、小学生たちが連れ立って来場されたりしている光景を見かけました。
そのころから年齢層の広がりというのは感じています。今参加されているN高生の方々と同じ年代の人たちでしょうか。
──ちなみに若者世代の3人はいつくらいにボカロを知ったんです?
リョウマ【高校生】:
自分は7年くらい前、小学校4、5年生くらいのときです。
シュウ【高校生】:
自分も同じくらいですね。
ミハル【高校生】:
私は2009年くらいです。小学校に入ったくらいでしょうか。
──えっ、小学校のときからというがまず驚きなんですが、5、6年前の小学生ってネットをしているのが普通なんですか?
シュウ【高校生】:
自分の周りではニンテンドー3DSでネットに繋げている人はいましたね。
菱山【ボカロおじさん】:
それで言うと、ニコニコ動画に投稿された動画をニンテンドー3DSで見られる機能の影響もあったんじゃないでしょうか。
──ああ、なるほど。
ボカロの流行りってどこでチェックしているのか
木村【ボカロおじさん】:
昔って、日刊ぼからんや週刊ぼからんなど、ボカロのキュレーションメディアがたくさんあったんですよ。
それとニコ動のランキングだったりで、どのボカロPがきているか、どの動画がきているかなど、今、何が流行っているかを知ることができた。今の若い子たちってどこで流行りを見ているんだろうってのは気になりました。
リョウマ【高校生】:
最近だと、YouTubeの関連動画でしたり、YouTube Musicに関しては自動でつぎの曲を選曲してくれるので、そこでボカロの新曲を知ることが多いです。
ミハル【高校生】:
私も、YouTubeはよく見ます。あとはTwitterも多いです。トレンドもチェックするようにしていて、話題を集めているものがあればとくに調べるようにしています。
──やはりTwitterとYouTubeが多い感じですね。
シュウ【高校生】:
自分もそのふたつで情報を得ることが多いです。ほかには、TikTokでしたり、Spotifyを聞いているときにおすすめで出てくることもあります。
──ボカロ好き同士での交流だったり情報交換はやっぱりSNSが中心なんですか?
ミハル【高校生】:
LINEのグループやTwitterでの会話が多いです。
シュウ【高校生】:
あとはインスタ(Instagram)とかも。自分は好きなボカロ曲を載せたりしてボカロ好きということをアピールしています。
リョウマ【高校生】:
僕は基本的にボカロをひとりで楽しむ勢なところがあるんですが、よく使うのはYouTubeやニコ動のコメント欄、あとやはりTwitterでしょうか。
──なるほどなるほど。ボカロ黎明期のころってどうだったんでしょう。
木村【ボカロおじさん】:
それはもうさまざまなコミュニティがいろんなところにありました。今はサービス終了してしまっているんですが、「ボーカロイドにゃっぽん」というボカロファン専用のSNSがあったんですよ。
──けっこう活発だったんですか?
木村【ボカロおじさん】:
ボカロPさんたちはけっこう使っていました。
佐藤【ボカロおじさん】:
あのころは、ランキングにあがってる曲以外にも、再生数じたいは少なくてもおもしろいものを探して、「これすごい」「おもしろい」って紹介するのがひとつの動きとしてあった記憶があります。
仁平【ボカロおじさん】:
ランキングだけだとどうしても新しい方は埋もれてしまって発見しにくいんですよね。そういう背景もあって、情報交換や交流ができるコミュニティというのは大事な存在だったと思います。
音源やイラストから派生していくn次創作の流れがあるボカロ文化
仁平【ボカロおじさん】:
多分、今のボカロ楽曲というと、映像やイラストなどの動画と曲がいっしょになっているイメージがあると思うんです。でも昔はじつはそうじゃなかったんですよ。
──確かにボカロ曲と聞くと、動画と曲がセットでひとつの作品みたいな印象があります。どのような歴史を経て変化していったのでしょう。
仁平【ボカロおじさん】:
最初に「すごい動画をつけて楽曲をアップ」された方はとくPさんだったですね。そして、楽曲のクオリティー、特にミキシングやマスタリングのクオリティーも、やはりとくPさん、そして小林オニキスさんや古川本舗さんたちの登場によって格段に上がってきたと思います。彼らは元々プロとして活躍されていた方々でしたからねぇ。
つぎに大きな変化があったと思うのが、黒うさPさんの「千本桜」。一斗まるさんが絵を描き、三重の人が動画を作ったわけですが、「千本桜」における楽曲および映像の衝撃はすごかったですよね。
そして、wowakaさん。人間が歌おうと思うとなかなか難しいんですが、それが余計に“歌い手さんたちのチャレンジ精神”に火をつけたんでしょうね。自分だってwowakaさんの曲が歌えるぞと。
『初音ミク』千本桜『オリジナル曲PV』
佐藤【ボカロおじさん】:
絵を描いている人が、楽曲にあわせた絵を描いてSNSにあげていたのを、いっしょに動画をやろうよとボカロPと組む。そこに動画絵師さんが加わって、いつの間にかチームになっている。
それぞれが反応しあってどんどんおもしろいものを作りあっていく。組み合わせがどんどん発展していく文化があったのかなと思います。
菱山【ボカロおじさん】:
今、仁平さんがお話されたことに加えて、Supercellのryoさんについては触れないといけないかなと僕は思うんです。
仁平【ボカロおじさん】:
確かにそうですね。
菱山【ボカロおじさん】:
さきほどのお話で、音源が先にあったというお話がありましたが、それとは発生源が異なる「ブラック★ロックシューター」という曲があります。
これはイラストレーターのhukeさんが描かれたブラック★ロックシューターというオリジナルのキャラクターがあって、それにryoさんが曲をつけて、そこからさらに発展していって、アニメーションにもなったという経緯があります。
初音ミクがオリジナルを歌ってくれたよ「ブラック★ロックシューター」
仁平【ボカロおじさん】:
イラストから派生した二次創作ですよね。
菱山【ボカロおじさん】:
そう。1枚のイラストからどんどん世界が広がっていった。最初はオリジナルのキャラクターがいた。そこに曲がはいって、大きな流れになっていった。
木村【ボカロおじさん】:
n次創作って言っていましたよね。二次が三次、四次になっていくよっていう。歌ってみただけでなく、踊ってみたや演奏してみたなど、曲を中心に多面的になる。どこから入るのかは人それぞれだし、どこで刺さるかもわからない、どこから入ってもおもしろい。
ただ今って、その入り口が歌ってみたくらいなのかなとも感じています。入口が狭いのかなって。
佐藤【ボカロおじさん】:
それはあると思います。あと、今ってYouTubeを中心に、数多くの動画が投稿されていて、触れる機会じたいは増えている。一方でボカロ曲かどうか知らないで聞いている場合も少なくないのではないかと。
仁平【ボカロおじさん】:
確かに。曲としては知っているけれど、それがボカロ曲かどうかは薄れているという。それはそれでn次創作の動きとして、おもしろいところかもしれないですね。
初音ミクってどんな存在?
──おじさん世代にとって、ボカロの歴史を切り開いていった初音ミクの存在は言わずもがな大きいと思うのですが、今の若い世代にとって初音ミクってどんな存在なんでしょう。
リョウマ【高校生】:
うまく言葉にできない部分はあるんですが、ただひとつ言えるのは新しい時代を作ったアーティストだと思います。
──今って数多くのボカロがいるじゃないですか。そのなかで初音ミクってどんなポジションなイメージなんですか?
リョウマ【高校生】:
ボカロのなかの王者って感じがします。
──なるほど。ミハルさんはどうです?
ミハル【高校生】:
いちばん自分の熱中させてくれる存在です。初音ミクに出会うまで、趣味らしい趣味がなかったんですが、そんなときにミクさんと出会って、自分がハマっている、推せると自信を持って言えるものが見つかったんです。
──シュウくんは?
シュウ【高校生】:
初音ミクの誕生によってボカロというジャンルができていると思うので、ボカロというジャンルを確立させた存在なのかなって印象ですね。
──みなさん初音ミクをソフトというツールではなく、ひとりのキャラクター的に捉えているのはちょっとおもしろいですね。
ミハル【高校生】:
自分のなかでは、前はツールという印象が強かったですが、Vtuberの方が出てきたことで、より親近感を持つようになってきました。自分のパーソナルに近い部分で発信できる、ツールというよりも代弁者に近い立ち位置になっている感じがします。
リョウマ【高校生】:
僕は相棒というイメージが強いです。作者がいて、ボカロがいて、僕が作曲するから歌ってほしい。そんな仲のいい相棒。
木村【ボカロおじさん】:
ボカロPさんと初音ミクとの関係でおもしろいと思ったのが、その関係性なんですよね。黎明期においては、初音ミクが上位にいて、曲を提供する、歌っていただく、みたいな雰囲気があったんです。
仁平【ボカロおじさん】:
最初は僕もツールだと思っていたんですが、ボカロPさんとお話をしていくと、みんな「ミクさん」と呼んでいて、ミクさんという人が本当にいるように感じるようになっていきました。
でも、実際にボカロを扱うときにはツールとして扱っているわけで、どう表現しようか自分でもわからなかったんですが、相棒という言葉を聞いてすごくしっくりきました。相棒、いい言葉ですね。
クリプトンという立場から見た初音ミク
──初音ミクに関してお話がありましたが、実際に初音ミクを販売、展開しているクリプトンの菱山さんの目からだとどのように彼女の存在が見えているんでしょうか。
菱山【ボカロおじさん】:
ツールでもあり、相棒的存在でもあったからこそ、これまで多くの方に使っていただけて、今を迎えられているのはあると思います。
あと、ひとつ思うこととしては、声にしてもイラストにしても、ちょっとシンプルにしたおかけで、みなさんに手を加えていただける余白があったことで、創作のシンボルとして受け入れられていった気もします。
仁平【ボカロおじさん】:
余白を残して、その余白に手を加えていいんだよっておっしゃってくれているわけじゃないですか。その余白であなたが初音ミクを飾っていいんだと。
菱山【ボカロおじさん】:
初音ミクが登場した当初、イラストをお借りして、もしくは無断で使用するかたちで動画が作られていました。さらに最初期になりますと、公式が提供していた数枚の画像しか世に出ていなくて、動画でもその画像を背景として使う、そういう流れがあったんです。
仁平【ボカロおじさん】:
そこで作られたのが、「投稿した作品は他の方が使っていいですよ」と意思表示をしたうえでイラストや楽曲を投稿する“piapro(ピアプロ)”というサイトでしたよね。N高生のみなさん、“piapro(ピアプロ)”って知っていますか?
N高生一同:
(うなずきながら)知ってます。
菱山【ボカロおじさん】:
ありがとうございます。うれしいです。初音ミクが発売されたのが2007年8月31日、“piapro(ピアプロ)”のリリースが2007年11月と、じつは我々としてもかなり急いで展開したサイトだったんです。
──その間わずか3ヵ月。ここまで急いで展開したのには何か理由があったんですか?
菱山【ボカロおじさん】:
安心してイラストを使える。安心して楽曲を使える環境を用意するのが、初音ミクを生み出したものとしての責任だということで、急いで立ち上げました。
初音ミクというキャラクターだけでなく、二次創作であるイラストや楽曲も、仲よく、正しく、許可を取って使ってもらえるシステムを整えたかったんです。このシステムが、初音ミクが発展していくうえで、とても大切なことだったと、今でも私は思っています。
仁平【ボカロおじさん】:
初音ミク NTも出て、本当にこれ1台買えば誰でも簡単に曲を作れるようになりますよね。
菱山【ボカロおじさん】:
そうですね。このソフトも、初音ミクの生みの親である佐々木渉が、どういう機能を搭載すれば初音ミクの歌声制作をより豊かなものにできるか、ということを考えて作っていったものです。
怒り声やガラガラ声、デスボイスを表現可能にしつつ、初音ミクらしさを失わせない、初音ミクらしい表現力の拡張というコンセプトがあります。
楽器メーカーという立場から見たときのボカロ
──ボカロ黎明期からヤマハでボカロ開発に携わられていた木村さんとしては、当時のムーブメントはどのように捉えていたのでしょうか。
木村【ボカロおじさん】:
僕がボカロに関わり出したときは、ちょうど初音ミクが出始めのときで、鏡音リン・レンがちょうど発売されるタイミングでした。
ニコ動を中心に盛り上がりを見せていて、じゃあヤマハとしてそこをどう盛り上げていこう、ボカロ文化をどう育てていこう、というのはすごく考えていました。
仁平【ボカロおじさん】:
初音ミクに限らず、多くのボカロはヤマハさんの技術、というかボーカロイドという言葉じたいがヤマハさんのものですから。
木村【ボカロおじさん】:
楽器を作る立場としては、やはりいろいろな曲を作ってほしい想いはありましたね。
ボカロ文化は、キャラがあってこその盛り上がりがあるのは大前提として、一方で、ぶっちゃけ絵はなんでもいい、キャラはいらないしむしろ邪魔をしていると考えている方もいたんです。
例えば、wowakaさん。彼はイラストをペイントで作っていたんです。そういう人がいるなら、そういう人たちに向けたボカロを作ろうとなり、VY1が発売されたわけです。
──さきほどあった歌っていただくとは違う、楽器としてボカロと付き合っている。
木村【ボカロおじさん】:
はい。当時のボカロPさんは、ボーカロイドというものをありがたがる傾向が強かったんですが、例えばギターだと、ライブ中に壊したり燃やしたりするパフォーマンスもあるわけで、それは極端だとしても、個人的には、もっと自由にいろんなことをガンガンやってほしいという想いはありました。
楽器メーカーという立場だったので、ボカロはあくまで「楽器」というスタンスでした。とくにボカロPさんとは、楽器を作る側とそれを使って演奏する側という関係があったので、性能や使いやすさなど濃厚なやりとりをさせていただきました。
例えば、声質について「いまロックがきている」という話から、じゃあグロウルを搭載して唸り声をあげようか、みたいな。とくに、wowakaさんはドストレートに考えをぶつけてくれるので、ものすごい印象に残っています。
今後のボカロとの関わりかた
──ここにいるおじさんたちはいわゆるボカロを仕事にしている人たちなんですが、みなさんは今ボカロが好きでいろんな動画や楽曲を楽しんでいるわけじゃないですか。あくまで趣味として嗜んでいくのか、仕事として関わっていきたいとか、どのように考えているのか教えてください。
リョウマ【高校生】:
みなさんがボカロ好きだってことがすごく伝わってきて、その好きなことで仕事をされている。自分は今、モーショングラフィックスを使ってMVを作らせてもらっているんですが、自分も自分の好きなことを仕事にしたいと思いました。
──今好きなことを将来的に仕事にしたいと考えているわけですね。
リョウマ【高校生】:
はい。小学校のときからずっとやってきているので。僕の性格上、そうじゃないと続かないと思いますし、なにより絶対楽しいじゃないですか。
佐藤【ボカロおじさん】:
楽しいけど辛いこともあるよ?(笑)
──(笑)。辛い気持ちになるのってどんなときなんですか?
佐藤【ボカロおじさん】:
例えば、仕事になると、やりたいことだけではなく、当然ですがやらないといけないことがでてきて、好きなことに追われてしまう。好きなことなんだけど、やらないといけない。結果、好きなことなはずなのに、大変だなって思ってしまうこともあるんです。
──そんな辛いこともありつつ続けられる原動力ってどのあたりになるんでしょう。
佐藤【ボカロおじさん】:
やっぱり、楽曲や動画を作って、いろんな人に見てもらって反応をもらえる。それが目の前で広がっていく様子を見られるというのはめちゃくちゃハッピーだと思うんです。
リョウマ【高校生】:
今のお話を聞いてなおさらやってみたい想いが強くなりました。
佐藤【ボカロおじさん】:
今日ここにいるおじさんたちは、どちらかというとクリエイターというより裏方側なんだけど、リョウマくんはクリエイターと裏方だと、どっちに興味があるのかな? 聞いてる感じ、クリエイター側なのかなとは思いつつ。
リョウマ【高校生】:
欲張りかもしれませんが、どっちも経験してみたい気持ちがあります。実際にやってみないとわからないこともあると思うので、チャンスがあるならどっちにも挑戦したいです。
菱山【ボカロおじさん】:
クリプトンのスタッフも、元々はクリエイターやパフォーマーをしていた人がたくさんいるんですよ。ですので、どちらもやってみるのはいい経験だと思います。
──ミハルさんはどう思いますか?
ミハル【高校生】:
私は革新的なアイデアだったり発想みたいなのを作り出すのは得意ではないので、サポートするほうが自分にはあっているのかなと思っています。
クラスの友だちなんですが、私の周りにはBlenderというソフトで3Dオブジェクトを作ったり、「アイアンマン」の仮装をしたり、クリエイター側の人が多いんですが、言語化をどうすればいいかわからなくて悩むことが多い印象なんです。そのあたりをうまくサポートできたらなと思いつつ、あとビジネス的な視点にも興味があって経済や経営の勉強もしています。
佐藤【ボカロおじさん】:
言語化というのは大事で、実際に言葉の説明がうまい裏方側の人は多いです。
ただ、それとは別に、今求められていることとしては、難しい言葉でアナリティクスっていうんだけど、再生数の流れや視聴者層などの数値を分析して、それをもとにどうしたほうがいいか提案してくれるサポート。
日本では、ひとりのアーティストに対して多くのスタッフがつく体制が多いですが、アメリカではアーティストひとりに対してサポートする人がひとり、ふたりつく少数のチームが普通になっている。アーティストに近い立場で、数値を分析して提案する、そういう戦略的なことができるのは音楽業界では少ないですし、クリエイティブな考えたかたに対する自信がなくてもできることだと思います。
菱山【ボカロおじさん】:
私からもひとつよろしいでしょうか。私の仕事は法務、法律関係なんですが、一般的にこういう仕事は会社のなかでブレーキをかけるのが仕事なんです。
──法律的にこれはやっていけませんよ、みたいな。
菱山【ボカロおじさん】:
そうですね。ただ、クリプトンという会社は、キャラクターライセンスを作って非営利のファン活動であれば自由に使っていいですよと言ったわけです。
これを言ってしまうとじつはひとつ苦労が発生しまして、普通の著作権者の場合は著作権でダメと言っていると「ダメ」ということに気兼ねしないんです。ダメなものはダメ、黙認するものは黙って見逃す。原則でダメだからどちらも理由がいらない。
──確かに基本ダメというのが一般的な対応な気がします。
菱山【ボカロおじさん】:
ですが、当社のように自由に使っていいですよ、と打ち出している場合は、逆にダメというときになぜダメなのか根拠がないといけない。納得していただける理由を作る必要がある。
一方で、今のままではダメだけどこことここを整えればオッケーだよね、というときもあって、そのときはブレーキを踏むのではなくアクセルを踏む仕事になるわけです。
ですので、法務のような堅い、融通が利かないと思われている職種でも、意外とクリエイティブが発生する場所も多いというのを、クリプトンにきて学んだ気がするので、ビジネスサイドにいくとしても、そういう発想もあるというのはひとつお伝えできればなと思いました。
佐藤【ボカロおじさん】:
とあるボカロPさんから言われてすごく印象に残っている言葉なんですが、クリエイターがうまくやるための交渉や調整も、環境づくりというクリエイターだと思うと。
だから、裏方だからと言って事務的にならないで、感じたことがあれば伝えてほしいし、そういう架け橋になってほしいと。なので、裏方だとしてもクリエイティブな気持ちは大事にしてほしいです。
ミハル【高校生】:
ありがとうございます。裏方側の印象が変わって、クリエイティブな要素があると聞けたのは大きな収穫でした。
──シュウくんはどうですか?
シュウ【高校生】:
自分は昔からクリエイターに興味がありました。今も実際に歌ってみたをやってみたり、ミックスを勉強していたり、映像を作ったりしているんですが、それに対して反応をいただけるのがめちゃくちゃうれしくて、それを糧にやっていければ楽しいなと思っています。
──「米津玄師さんみたいになりたい」みたいな憧れの存在というか目標みたいなものってあるんですか?
シュウ【高校生】:
自分が今メインでがんばっているのが映像系なので、ボカロとはちょっと離れちゃうんですが、Vlogというジャンルで動画を発信しているクリエイターさんたちがいて、その人たちの動画を参考にして自分の動画を作ってみています。
仁平【ボカロおじさん】:
お話を聞いていると、みんなすごい具体的なビジョンを持っていてビックリしているんですが、N高ではそういう専門的なことを教わるクラブみたいなものがあるんですか?
シュウ【高校生】:
N高には、チャットツール「Slack」の中に部室にあたるチャンネルを作り日々活動している同好会があり、その中に音楽研究会的なものがあります。また、課外授業の中にボカロプロデューサーの40mPさんの特別授業もあり、受講することができます。
──「ネットの高校」のN高なだけに、クリエイター活動に興味がある人は多いんですね。
ミハル【高校生】:
そうですね。私が通う高校をN高に決めたのも、40mPさんのお話で「N高にはミックスの機材がおいてあって、ボカロの編集をしている方もいる」って聞いたことがひとつの理由なので、そういう活動に興味がある人にとっての設備は充実していると思います。
──高校選びの基準に!? それはすごい……。さて、宴もたけなわということで、座談会はこちらでお開きとさせていただければと思います。貴重なお話の数々、ありがとうございました!
座談会後のボカロおじさんアフタートーク
──今日の座談会では、10代の若者たちとボカロトークをしてきたわけですが、いろいろと話してみてどうでしたか?
菱山【ボカロおじさん】:
クリプトンという場所にいて、実際に現地でイベントを見てきた身として、7年くらい前から子どもの数が増えてきたとは感じていて、まさにそこの子どもたちが成長した姿であるN高生の方とお話できたことが感慨深いものがありました。
そしてそんな彼らがボカロ文化をどう見ているのかを直に聞けたことは、自分として感動が大きかったです。
佐藤【ボカロおじさん】:
ボカロというジャンルができてから10年以上が経って、それがちゃんと文化になって若い子たちの人生に影響を与えている。一大カルチャーとなっていることは、そのカルチャーの端っこにいた者としてうれしい想いがありました。
そして同時に、ボカロに関わる仕事をしたいと語ってくれた彼らが関わっていくことで、この文化がどう広がっていくのか楽しみです。今日のお話を聞いた限り、日本の未来は明るいなと思いました。
──みんなの熱量すごかったですよね。若者たちの間でもボカロは盛り上がっているぽいですし。
仁平【ボカロおじさん】:
やはりシーン全体として盛り上がっているんでしょうね。
佐藤【ボカロおじさん】:
DECO*27さんとNeruさんのインタビューで、2015年くらいが(盛り上がりの)底だという話はされているんですよね。
そこから再び盛り上がってきていると言われているわけですが、その要因として、かつてのボカロ世代が年齢的に会社の第一線にいる状態という背景もあるのかなと思っています。
木村【ボカロおじさん】:
若い世代でボカロが盛り上がっているのは、すごくうれしいです。とくにハチさん、米津玄師さんのように、ヒット曲を出してドラマの主題歌にもなり、紅白歌合戦に出るという存在は、非常にインパクトがあると思います。
佐藤【ボカロおじさん】:
最近ですと、yamaさんの「春を告げる」が大ヒットしましたが、ボカロP派生のものがJ-POPシーンでも語られ、トップになっちゃうこともある。そうなってくると、線引きがどうなってくるのかというのは気になりました。
菱山【ボカロおじさん】:
去年Twitterで話題になっていたんですが、King GnuやOfficial髭男dismの音楽についての話のなかで、ボカロ音楽の文脈がじつはあるのでは? というので盛り上がったこともあって、もしかするとだんだんと近づいてきている気もしますね。
──いろいろと世代間のお話などお聞きできて楽しかったです。
木村【ボカロおじさん】:
最後におじさんらしいことを言うと、昔のボカロシーンってもっとカオスだったんですよね。インターネットがなかったら生きていけないんじゃないかって思ってしまうような、わけがわからないボカロPさんやクリエイターがいた。逆にインターネットがそうしてしまったのかもしれないんですが(笑)。
ただ、今の若い子たちを見ていると、しっかりとしたクオリティではあるんですがヒットや内野安打を狙っているみたいな感じはして。もっとホームラン狙っていこうよって思っているんです。
──それってどのような要因があるんですか?
仁平【ボカロおじさん】:
僕は、ネット環境の変化もあって、他人の視線や意見に対して敏感になっていると思うんです。変なもの、下手なものを作ると「もっとうまくなってからアップしろ」みたいな反応があるわけじゃないですか。あの文化はなくなってほしいんですよね。
結果的に作品のクオリティが高くなくてもいいと僕は思っているんです。作るのは楽しい。それでいいと思う。でも叩かれるかもしれないからでブレーキがかかるのは、寂しいじゃないですか。
木村【ボカロおじさん】:
ボカロPで、アカウントを簡単に変える世代と変えない世代があって、最近の子たちってやってみてダメだったらアカウントを変えて芸風も変えて転生するんです。
自分からするとすごいなって思うのですが、失敗してもアカウントを変えてリセットできることはネットカルチャーの特徴ですよね。自分の好きなことを思いっきりやって失敗したらやり直す。もしかしたら今の時代ではそういう活動の仕方もありなのかもしれません。
(了)
今どきの若者は小学生のときには普通にネットを見ているという、世代差をひしひしと感じる事実を突きつけられて始まった座談会ではあるが、話してみればそこは同じボカロ好き同士、会話がまったく噛み合わない事態にはならなかった。
それどころか、ボカロおじさんがあげたボカロPの名前は知らなくても、その人が作った曲じたいは知っていたり、他の人による歌ってみた動画を見たことがあったりと、不思議なつながりが見られる場面も。n次創作の流れがあるボカロ文化ならではの世代間のずれのようで興味深かった。
とくに印象深かったのは、「2013年ころからボカロファンの年齢層に広がりが見えた」という菱山氏の言葉だ。かつてボカロに熱狂した人たちが、時を経て自分の子どもを連れてボカロのイベントに参加する。そしてその子供たちの中には、成長した今、ボカロに興味を持ち、クリエイターの道を歩もうとしている人もいるわけだ。
そんな世代を超えたカルチャーになりつつあるボカロという文化が今後どのような盛り上がりを見せてくれるのか。ひとりのボカロおじさんとして期待に胸が膨らんでしょうがない。
■ボカロの祭典“ボカコレ”12月11、12、13日開催
「The VOCALOID Collection ~2020 Winter~」 公式サイトはコチラ
―あわせて読みたい―
・ニコニコ動画的ボーカロイドの歴史を“970,686本の投稿動画”とともに振り返ってみた
・ニコニコで100万回以上再生されたボカロ動画を大公開!2007年-2020年を年代別に約700曲をリストアップ
・初音ミクの歌声を分析してみた――音響学のエキスパートがボカロに科学的視点でせまる! 周波数、波形、歌唱法…“電子の歌姫”だけが持つ魅力とは?