■予算不足で悲鳴を上げる地方自治体

今、全国の自治体は予算編成作業に追われている。ところが、どこもかしこも「非常事態」に陥っていることをご存じか。

コロナで地元にある企業の業績が悪化し、法人市民税を筆頭に税収が大幅に減少。加えて、コロナ対策の一環で個人市民税や固定資産税の支払い猶予も税収の押し下げ要因になっている。

併せて、財政が厳しいときに出動させる「財政調整基金」(いわゆる貯金)を今年のコロナ対策で大幅に取り崩し、財政的に余裕がなくなっているためだ。

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■「東京ですら……」の危機的状況

兵庫県は、約2000億円の税収減も見込まれ、2021年度は「義務的経費まで予算計上できないようなことが生じかねないと懸念しており、国に対して赤字対策をなんとかしてほしいと申し入れている」と井戸敏三知事は悲鳴を上げる。

神奈川県では1100億円の予算不足が判明、財政当局から県主催イベントや不急の建設事業などは原則、中止・延期の指示が矢継ぎ早に飛ぶ。

資金が潤沢といわれる東京都でも、財政状況が悪化することから16年ぶりに数値目標を設定し、事務費や施設維持費の10%削減を示した。

■京都市が夕張市以来の「財政再生団体」転落可能性

福岡市では市税収入の減少を160億円見込み、景気による税収減の対応として認められている「減収補てん債」を活用しても100億円の財源不足となり、市の貯金である財政調整基金の取り崩しを極力抑えたい方針から、事業見直しを急ピッチで進める。

横浜市では970億円の財源不足、川崎市では307億円の収支不足と政令市でも百億円単位の財源不足がいわれている。

最も深刻なのは、財政計画が形骸化されてきたわが街・京都市で、2033年度まで毎年予算が340億〜500億円不足し、2028年には夕張市以来の財政再生団体に転落する可能性が示唆された。財政再生団体になると、予算編成の主導権は総務省に移り、市が独自で行っている施策はすべてストップしなければならず、まさに市民生活に大混乱をもたらす。

■実態は「119億円の赤字」?

なぜ、京都市は「財政再生団体への転落」という可能性が出てきてしまったのか。

まず、先に断っておくが、京都市は元々、全国の中でも最低レベルに財務状況が悪い。令和元年度の京都市の決算発表も4億円の黒字という報告がされているが、実態は無理やりお金を絞り出して作り上げた“虚像”だ。

コロナ禍になる前から予算は慢性的に不足し、2019年度は、「財政調整基金」と呼ばれる貯金を全額(39億円)取り崩し、それでもなお不足する財源を、「特別の財源対策」と呼ばれる“禁じ手”を駆使して84億円を補う体たらく。実態は、差引で119億円の赤字だ。

■「コロナ禍支援ができなかった」京都市の悪夢

本年、緊急事態宣言下の5月に休業要請をした事業者に対し、全国の自治体が予算を絞り出し、大阪府下や兵庫県下では休業要請協力金100万円を支給、京都府下では40万円(府20万円、市町村20万円負担)を支給した。

にもかかわらず、京都市だけは1円も拠出できず、府からの協力金20万円しか支給されないという事態に陥った。

京都市がコロナ禍で「お金がない」といって機動的な支援策を打てなかったのは、「有事」のために貯めておかないといけない財政調整基金が、この年度に全額取り崩して枯渇していたことに起因する。

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京都市の苦境は、来年度以降全国に吹き荒れる嵐の前触れか(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/NicolasMcComber

■全国で1兆円取り崩された「自治体の貯金」

この財政調整基金の取り崩し、わかりやすくいえば「自治体、貯金なし問題」は今、地方を襲う深刻な課題となっている。

コロナ禍ですでに日本全国の自治体で取り崩された財政調整基金の額は1兆円を超えており、貯金が底を尽きる自治体が続出している。今年京都市で起きた悲劇は来年以降あちこちの自治体で起こりうることなのだ。

そもそも、財政調整基金というのは、収入が例年を上回った時に積み立て、収入が不足する年や災害などの有事の際にそれを放出し、財政の均衡を図るという目的で作られた制度で、それ以外の目的に支出するのは本来御法度だ。

■日本一無責任な岡崎市の“バラマキ公約”

そんな中、驚くべきは先月ニュースにもなった中根康浩岡崎市長(愛知県)の「市民への一律5万円支給」問題だ。

市長選挙公約でコロナ対策として市民に一律5万円を支給するというものだが、その財源は、財政調整基金を全額切り崩し、さらに別目的で積み立てた基金も取り崩すという、将来に備える財源をすべて放出して配る予定をしていた。

さすがに良識ある議会の猛反発にあい、大幅な軌道修正を余儀なくされたようだが、こうした“トンデモ案件”、実はどこかの自治体の住民である「あなた」にとっても対岸の火事ではない。

なぜなら、京都市は毎年、そもそもの生活費(予算)が足りないといって慢性的にこの貯金を使い続け、底を尽きた。東京都も1兆円近い桁違いの貯金を誇っていたが、今回のコロナ禍で「使うなら今しかない!」と大盤振る舞い、そのほとんどを一気に使い切ったさまは岡崎市とそう大差はないように思われる。

さて、「あなたの街」は大丈夫なのだろうか?

■「大丈夫な街」と「大丈夫じゃない街」

京都市の500億円もの巨額の財政不足問題に話を戻そう。

京都市はコロナ禍がなくても着実に近づいていた財政破綻が、コロナ禍で一気に現実的なものとなった。このあたりは、民間企業と同様で、今倒産の危機を迎えている企業の大半は、コロナ禍以前から財務体質に難があったところが多い。それがこのコロナで浮き彫りになったわけだ。

自治体もまったく同じで、財政規律をしっかり守ってこなかった自治体がいよいよ危機的な状況を迎えている。

冒頭に記したが、この状況下でも福岡市などは財政調整基金をプールしつつ財源確保を行うという努力を惜しまない。こうした自治体は、それほど深刻な事態にはならない。なぜなら、税収不足だけが問題ならば後年の地方交付税で清算される仕組みになっているからだ。

■市民にしわ寄せが出る財源確保策しかない現実

一時的な税収不足の補塡(ほてん)は、減収補てん債、地方税の徴収猶予に対応する猶予特例債、それに加え民間資金の中で最も低金利な資金を調達する共同発行地方債などの発行を現在総務省でとりまとめ、一時的な資金不足を解消できるように躍起になっている。ちなみに減収補てん債の償還財源は発行額の75%が国から補塡される。

一方で、財政規律が緩まっている自治体の悲劇は来年度以降深刻になることは想像に難くない。そうでなくても、コロナ禍での自治体のコロナ対策の支出は大きく、財政的な圧迫要因になっている。元々体力のない自治体が多い中、これを機に慢性的財政難に陥るところも多くなるはずだ。そうなると、間違いなく市民生活にも大きな影響を及ぼす。

たとえば、京都市ではすでに市バス料金の値上げや減便の検討、公共事業の縮小、市民サービスの見直しと市民生活にしわ寄せが出る財源確保策が模索されている。

■地方が生き残る道はあるか

ちなみに、京都市の令和3年度予算の財源不足500億円のうち、コロナ禍による臨時的・一時的な財源不足は150億円で、残りの350億円は慢性的な財源不足によるものだ。

臨時的・一時的な財源不足は、大型工事の一時凍結や職員給与の時限的なカット、市有財産の売却など、市民サービスへの影響がない範囲で対応することが可能だが、慢性的な財源不足はそう簡単ではない。

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職員給与表、手当の見直しや残業の削減による人件費の圧縮、公共工事の簡素化や中止、全事業の必要性の見直しによる大幅な削減、民間資金の活用など、反対を押し切って断行する強いリーダーシップが必要で、多少の痛みは伴うが、それでも断行できれば最悪の事態は回避することができる。

■「先送り」の先の「地獄」

問題は日に日に悪化をし続けており、後年度へ送れば送るほど、余裕がなくなり、ハードランディングにならざるを得ない。

厳しいコロナ禍における自治体の財政運営だが、京都市のように「ゆでガエル」状態になる前に、少しでも早く取り組み、市民生活への影響を最小限にとどめる手を打たねばならない。

手遅れ寸前の京都市であれども、筆者は長年市議として問題提起を続けてきた立場から、今後も危機打開を模索するため活動を続ける覚悟でいる。そして、「まだ間に合う」全国の自治体に住む読者諸兄に警鐘を鳴らす次第である。

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村山 祥栄(むらやま・しょうえい)
前京都市議会議員
1978年、京都府に生まれる。15歳のとき、政治に命をかけず保身に走る政治家の姿に憤りを覚え、政治家を志す。衆議院議員秘書、リクルート(現リクルートホールディングス)勤務を経て、25歳の最年少で京都市議に初当選。唯一の無所属議員として、同和問題をはじめ京都のタブーに切り込む。変わらない市政を前に義憤に駆られ、市議を辞職。30歳で市長選へ挑戦するも惜敗。大学講師など浪人時代を経て、地域政党・京都党結党。党代表を経て、2020年に再び市長選へ挑むも敗れる。主な著書には『京都・同和「裏」行政』『地方を食いつぶす「税金フリーライダー」の正体』(以上、講談社+α新書)、『京都が観光で滅びる日』(ワニブックスPLUS新書)などがある。
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(前京都市議会議員 村山 祥栄)