大手MNOの明暗を分けた「巣ごもり」戦略! 経済圏の強化で業績立て直しを急ぐ各社の取り組み

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●「巣ごもり」戦略で明暗を分けたMNO 3社
NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクの大手移動体通信事業者(MNO)は8月、それぞれに2020年4〜6月期(2021年3月期第1四半期)における決算概況を発表しました。

NTTドコモ
・営業収益:1兆982億円(前年同期比 -5.3%)
・営業利益:2805億円(前年同期比 +0.7%)
・減収増益

KDDI
・売上高(営業収益):1兆2461億円(前年同期比 +2.0%)
・営業収益:2558億円(前年同期比 -11.4%)
・増収減益

ソフトバンク
・売上高(営業収益):1兆1649億円(前年同期比 5.8%)
・営業利益:2689億円(前年同期比 3.7%)
・増収増益

各社いずれも1兆円以上の収益を確保しつつも、その内訳は三者三様といった状況です。
NTTドコモは2019年に施行された改正電気通信事業法に伴う通信料金と端末代金の完全分離販売への対応や、料金値下げによる影響がまだ残っています。
NTTドコモはこれを「想定内」としていますが、新型コロナウイルス感染症問題(コロナ禍)による影響ばかりは想定外であり、営業コストの削減や光通信サービスの収益増だけではカバーしきれませんでした。

KDDIは売上高(営業収益)を順当に伸ばしつつも、コロナ禍による店舗の営業自粛や外出自粛から来店者が激減、端末販売台数が前年同期比で25%近くも減少し、営業利益を大幅に落としました。

コロナ禍の苦しい状況下でソフトバンクだけが増収増益を果たしていますが、大きな要因はヤフーおよび法人需要の増加にあります。
店舗営業などによるコンシューマ収益はKDDIなどと同じく大幅な減少となる一方で、eコマースを中心としたヤフーやテレワーク需要を中心とした法人の回線契約が需要を伸ばしています。


コロナ禍による外出自粛は通販需要を大きく喚起し、ヤフーの売上および利益を爆増させた


細かな増益・減益の理由はありますが、各社ともに共通しているのは「店舗営業収益の激減」です。大きな違いとなって出ているのはその店舗営業収益の減少を、何によってどれだけ補填できたか、という点です。

NTTドコモやKDDIは大きな補填要因がなく、販売関連収益の減少を販売関連コストの徹底的な切り詰めによってカバーするという力技で利益を確保したに過ぎません。
このやり方は一時しのぎや場つなぎ的でしかなく、籠城作戦に近い「巣ごもり」戦略であることが分かります。

一方ソフトバンクは、人々が自宅での巣ごもり生活を行うことでネット通販やテレワーク需要が加速した結果、同社の多角経営にヒットして店舗営業のマイナス分を上手くカバーすることができました。
NTTドコモやKDDIとは別の意味で、「巣ごもり」戦略が功を奏したと言えるでしょう。


NTTドコモはモバイル関連以外の収益の柱が少なく、こういった事態で苦しい経営を迫られる



KDDIも同様に営業コストの切り詰めで対応したが、営業利益は11%以上もの減益となってしまった



●コロナ禍を乗り切るための経済圏の強化
今後3社が目指すのは、さらなる自社の経済圏の強化です。
すでに数年前より各社は、通信関連事業中心の経営からポイント経済圏を中心とした経営へと大きく舵をとっていますが、コロナ禍はその流れをさらに加速させています。

NTTドコモは物販や店舗営業に関連するコストのさらなる削減と効率化を進めつつデジタルマーケティング分野に注力し、メルカリ・メルペイとの戦略的業務提携に代表されるような、オンラインビジネス分野の他業種提携をさらに進めていくものと思われます。

金融・決済サービスにおいても「d払い」の利用者数および取扱高の強化を主眼として、2020年度通期では増益を目指す構えです(通期収益では、2019年度同様に料金プラン改定の影響により減収を予想)。


自社で強力なeコマース事業を持たないNTTドコモにとって、メルカリとの提携の意味は非常に大きい


KDDIは今年5月にau WALLETポイントと統合された「Pontaポイント」を中心に、「au PAY」ブランドによる経済圏構築が最大の焦点です。

さらにUQコミュニケーションズが運営する仮想移動体通信事業者(MVNO)サービス「UQ mobile」は、2020年10月1日より事業分割されてKDDIへと承継され、KDDIの「サブブランドMNO」となります。
これによってKDDIは、ソフトバンクのように複数のユーザーセグメントに柔軟に対応できる「ダブルブランド」戦略を推し進めることを発表しており、端末販売や店舗事業の縮小に歯止めをかけたいところです。


統合によって1億以上の会員数となったPontaポイントが持つポテンシャルは凄まじい


ソフトバンクは3社の中でも最も収益基盤が広く、コロナ禍においても不安定性を感じさせません。

モバイル通信事業では、
・メインブランドMNOのソフトバンク
・サブブランドMNOのY!mobile
・MVNOのLINEモバイル
この3つのセグメントをうまく使い分けており、ユーザーの取りこぼしが少ないのが特徴です。
さらに固定通信事業はYahoo! BBとソフトバンク光の二本立てでテレワーク需要を下支えし、eコマースはヤフーおよびPayが経済圏の確立に大きく貢献しています。

ソフトバンクは2022年度までの目標として営業利益1兆円を掲げて邁進していますが、コロナ禍の影響は「ないわけではない」としながらも、その目標達成は十分に可能であると自信を見せています。
同社の多角的な経営戦略とそれによる安定した成長状況を見る限り、その言葉と自信には十分な根拠を感じます。


経済圏のみならず、経営基盤の豊富さや成長性でソフトバンクは一歩リードしている感がある



●暗中模索の2020年後半の戦略
現在はMNOとしてさらに楽天モバイルもありますが、同社はまだMNOとしての実績が浅く、その動向や決算概況などはMNO業界としての実績に数えにくい状況です。
しかし今後、本格的に事業展開が進んだ暁には、同社が得意とするeコマース事業と経済圏ビジネスで他MNOへと戦いを挑んでくることは必定です。

その時、NTTドコモやKDDI、ソフトバンクがどう打って出るのか。そしてコロナ禍で落ち込んだ店舗営業をどう立て直していくのか。

巣ごもり戦略の次の一手も見えない中で、2020年後半の戦いはすでに始まっています。


執筆:秋吉 健