6月15日、「#HelloJapan」のハッシュタグとともに「Hyundai Japan」のTwitterアカウントが突如開設された(写真:ヒュンダイ)

6月中旬、韓国の自動車メーカーであるヒュンダイ(現代自動車)が、日本で公式ツイッターのアカウントを開設した。その最初のツイートには「日本のみなさん、こんにちは! Hyundai Japanの公式アカウントです。このアカウントではHyundaiの最新情報をお届けしていきます」とある。


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ヒュンダイは、韓国最大の自動車メーカーで傘下に起亜自動車を持つ。グループとしての世界販売台数は719万台(2019年)に及び、GM(ゼネラルモーターズ)に次いで世界5位の販売台数を誇る。ヒュンダイブランド単独でも、日本のホンダと同様だ。

日本市場へは2001年に大々的に参入したが、2010年には乗用車に関して撤退を余儀なくされている。当時の導入車種は、1世代前の日本車といった性能や品質で、バブル経済崩壊後の「失われた10年」と言われた日本国内においても販売台数は伸び悩んだ。日本の輸入車市場では、合理性よりも付加価値の高いものが求められたためだ。

ただ、性能やデザインは瞬く間に進化し、撤退前には日本車と変わらない魅力を備えるまでになっていたと思う。撤退の前にモデルチェンジをした「ソナタ」は、トヨタ「カムリ」と大きな差を感じないほど高品質だった。

また、欧州からデザイナーを招くなど積極的な取り組みを進めた結果、この頃にはデザインも心を動かすようなものとなっていた。同時に、アメリカでは人気テレビドラマの主人公が乗るクルマとして使われるようになり始めていた。

CASEやMaaSの最前線にある韓国

いずれにしても、当初の意気込みとは裏腹に、日本市場から撤退を余儀なくされたヒュンダイが、今になって日本でツイッターアカウントを開設した背景には、いったい何があるのだろう。

冒頭でも紹介したように、ヒュンダイは世界有数の大手自動車メーカーだ。昨今のCASEやMaaSの取り組みでは、トヨタやフォルクスワーゲン、あるいはGMなどと技術を競いながら、市場へのさらなる浸透を図ることが求められる。

また韓国は、LG化学などのような、情報通信機器や電動化に不可欠なリチウムイオンバッテリーの開発と生産でも世界屈指のレベルや規模にあり、CASEやMaaSの最前線にあるともいえる。ヨーロッパの自動車メーカーも、LG化学のリチウムイオンバッテリーを使うところが増えている。

この先、CASEやMaaSがより具体的、かつ大規模に動きはじめれば、市場は大きく変化するはずだ。10年後の2030年には、市場が大きく転換すると私は考えている。中核は、電気自動車(EV)の自動運転による移動サービスの提供だ。乗用車はもちろん、商用車など業務で使われるクルマも含む。


すでに4モデルをラインナップするなどEVの展開も積極的に行う(写真:ヒュンダイ)

世界的に低成長時代となり、これに新型コロナウいルスの感染拡大が重なり、経済の先行きがいっそう見通せない時代となった。この状況が改善される見通しは立たない。つまり、収入の見通しが立たず、生活をどう確立していくかに世界中が悩んでいる。当然、出費はまず控えることになるだろう。

そうした生活実感から、もはや“所有すること”の価値が下がっていくのは間違いない。もちろん、富裕層は物を持つことへの欲求を保持するだろうし、それが失われることはないだろう。しかし多くは、“所有”から“利用”へと移行することによって、生活の水準を保ちながら出費を控える暮らしになるはずだ。

そのとき、使用料だけを支払って使う物の銘柄に、こだわるだろうか。品質や性能が保たれるなら、どこの国、どこのメーカーで作られたものでも気にしないのではないか。

2030年、世界の価値観は大きく変わっている

これまで“所有すること”が満足をもたらした時代は、ブランド性が求められたため、日本市場で歴史が浅く認知度の低いヒュンダイの販売は伸びなかった。しかし、それが一時的な利用で性能や品質が高く、なおかつ利用料金が安いなら、消費者は気にしなくなるだろう。10年後の2030年前後には、そうした考え方が世界的な共通価値となっていくと考える。

その理由は、日本で高度成長やバブル経済など右肩上がりの経済状況を体験してきた年配者が減り、バブル崩壊後の低成長時代を過ごした世代が社会の中心になっていくからだ。

その世代の消費の価値観は、高度経済成長やバブル経済を体験した消費者と明らかに異なる。また、欧米のブランドを求めてきた年配者も、年金を頼りにする生活に入り、経済状況も好転しにくい日々を送るうち、定額料金で満たされる暮らしに慣れていくだろう。

環境や社会の変化に適したものや事業との関わりを人々は求めていくはずだ。それは、情報通信が発達した今日では、日本も同じだろう。新しい時代へ向け、誰を信じ、何に安心を覚え、快適に暮らせるか、そして幸福に生きるか。人や企業のつながりにどのような信頼関係を築けるかが、この先の勝負どころとなる。

ヒュンダイは、これまでとまったく違った新しい市場が創出されることを見越して、再び日本への接点を探り始めているのではないだろうか。しかも、それは2001〜2010年の日本進出を知らない世代をターゲットとしたものだ。

日本メーカーにも変化が求められる

日韓関係は、政治的には課題が多い。だが、文化的には食事などを含め、生活の中に韓国という味わいが深く入り込んでいる。友人知人としての絆を深めている人もいるだろう。その世代を生きる人たちが、これからの国や社会、そして市場を作っていくのである。ヒュンダイが始めたことは、日本の自動車メーカーも強く意識する必要があるだろう。


「CES 2020」では、Uber Elevateとの提携による空飛ぶタクシー「Uber Air Taxis」のコンセプトモデルが公開された(写真:ヒュンダイ)

また、CASEやMaaSが技術やメーカーの思惑ではなく、消費者が求める姿として、10年後の市場は大きく変わっているはずだ。

「EVがいつ売れるかわからない」「自動運転は本当に実現できるのか」など、技術論や社内の事情にばかり目を向けていると、日本のもの作りはあっという間に、韓国や中国に駆逐されてしまうだろう。社会の動きに素早く事業を転換したり、製品の品質や魅力を短期間に進歩させる韓国企業の躍動感を目の当たりにすると、ヒュンダイの動きは、10年後を視野に大躍進する可能性を感じずにはいられない。