航空業界の動向に注目が集まる(2014年撮影)

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新型コロナウイルスの感染拡大による人の移動が止まり、需要が急減して世界の航空業界が苦境に陥っている。経営破綻が出る一方、各国政府は支援を本格化している。

まさに需要の「蒸発」といえる状況だ。新型コロナウイルスの影響で各国政府による厳しい出入国規制が敷かれるなか、航空会社各社は運休・減便せざるを得ない状況に追い込まれている。

「U字回復」パターンと2通りのシナリオを分析

国際民間航空機関(ICAO)は2020年4月21日、第1〜3四半期(1〜9月)の航空会社の座席供給量が最大で3分の2減少する可能性があるとの試算を発表した。需要が急回復する「V字回復」パターンと、ゆっくり回復する「U字回復」パターンの2通りのシナリオを分析。 「V字」は5月末に回復の兆候が現れはじめると仮定し、期間中の座席供給量は最大で前年比56%減、旅客数は9億6300万人減、航空会社の収益は2180億ドル(23兆4600億円)減るとした。一方、「U字」では、第3四半期もしくはそれ以降に回復し始めると仮定し、同様に、それぞれ同67%減、11億1700万人減、2530億ドル(27兆2200億円)減と推定した。

日本も深刻だ。国土交通省によると、日本発着の国際線は4月19〜25日の予定便数は2019年の冬ダイヤと比べ96%減。航空各社の発表を日経新聞(4月23日付)がまとめたところでは、ゴールデンウイーク(4月29日〜5月6日)の予約状況は国際線が前年同期比97.3%減の1万4582人、国内線も同88.8%減の30万8628人。全日空(ANA)、日本航空(JAL)はすでに運行本数を9割減便しているが、それでも予約率は30%前後に低迷、採算ラインの50%を大きく割り込んでいるという。

JAL傘下の格安航空会社(LCC)であるジップエア・トーキョーは、5月14日に予定していた初就航の延期を余儀なくされ、JAL悲願のLCC本格参入に冷水を浴びせられた格好だ。また、スカイマークは今春を目指していた東京証券取引所への再上場を取り下げざるをえなかった。

海外で赤字転落、経営破綻...

業界では5月までの国内航空会社の減収額は5000億円、今後1年続けば2兆円に達するとみられており、各社の経営は危機的な状況だ。JALは2020年1〜3月期の連結最終損益が229億円の赤字(前年同期は442憶円の黒字)に陥り、12年に再上場してから四半期での初の赤字。20年3月期の連結最終利益が534億円と従来予想を400億円下回り、前期の約3分の1に。ANAを傘下に置くANAホールディングス(HD)も20年3月期の連結最終利益は前期比75%減の276億円の大幅減益になった。両社とも21年3月期の見通しは「合理的な数値の算出が困難」などとして、開示を見合わせた。

海外でも、米デルタ航空が2020年1〜3月期決算で最終損益が5億3400万ドル(575億円)の赤字(前年同期は7億3000億ドルの黒字)など、軒並み赤字に転落。そんな中で、世界に駆け巡ったのがオーストラリア第2の航空会社ヴァージン・オーストラリアの経営が破綻のニュースだ。4月21日、任意管理手続き(日本の民事再生法に相当)に入ったと発表。豪メディアによると負債額は19年末時点で約50億豪ドル(約3400億円)に上るという。

ヴァージン・オーストラリアはやや特殊で、「オーストラリア」とはいえ、株式の9割はシンガポール、アラブ首長国連邦、中国の航空会社など外資が持つことから、豪政府が支援を渋ったとされる。米国では4月20日に財務省とアメリカン、デルタ、ユナイテッドなど大手6社との間で政府支援に関する協議が合意に達し、支援第1弾として大手2社を含む56社に計29億ドル(約3100億円)が支払われた。支援総額は250億ドル(約2.7兆円)に上る。

支援は、9月まで雇用を維持するのを条件に補助金や融資をする。「政府への適切な補償」が指針に盛り込まれ、支援の代わりに大手各社は新株予約権(ワラント)を政府に付与する仕組み。「税金を使った救済」との批判を薄める狙いで、例えばアメリカンの場合、最大で発行済み株数の12%相当のワラントを政府が持つ可能性があるという。

欧州では、独ルフトハンザが破綻処理による再建(日本の民事再生相当など)も排除せず、政府と支援交渉を詰めていると報じられ、フランス政府はエールフランスについて「支える」と言明。また、英ブリティッシュ・エアウェイズ(BA)は最大1万2000人の人員削減検討を表明している。

融資への政府保証、空港の着陸料や航空機燃料税の減免...

日本では融資などの支援は動き始めた。政府は大企業や中堅企業の財務基盤を強化するため、日本政策投資銀行(DBJ)に1000億円規模を拠出し、民間融資を含め、数千億円規模の投融資をするというもので、航空業界も主要な対象とされている。ただ、直接公的資金を投じるような支援の検討はまだ水面下だ。

そのなかで、動きが目立つのがANAHDだ。月間1000億円のキャッシュが流出しているといわれ、現在、3万5000人を一時帰休の対象にしているが、5月末までに4万2000人に拡大するなど危機感を募らせている。資金的には、手元の3000億円のキャッシュなどに加え、決められた額の範囲でいつでも融資を引き出せるコミットメントラインも1500億円確保しているが、これ以外に3500億円の融資枠を新たに設定することで銀行団と合意。日本政策投資銀行からも3500億円を調達する協議を進めており、民間金融機関からの融資と合わせて計9500億円を確保するという。

融資の一部に「政府保証」を求めているとされ、論議を呼んでいる。民間への政府の関与は、金融危機時の銀行への公的資金注入やJAL破綻の際の支援、福島第1原発事故に伴う東京電力支援などはあるものの、民間企業に政府保証を付けるのは極めて異例。「簡単には認められないだろう」(大手紙経済部デスク)との見方が強いが、スカイマーク以下の中小航空会社も、コロナ感染の状況をにらみながら、ANAHDの動向を見守っている。

ANAHDと並ぶJALは、2010年に経営破綻し、会社更生法適用による7400億円の債務カットと3000億円の公的資金の注入などを受け、財務の健全性はANAより高い。手元資金3200億円、コミットメントライン500億円確保しているが、毎月600億円程度のキャッシュ流出があり、事態の長期化に備え、メガバンクなどに3000億円規模の融資などを要請していると報じられている。4月30日の決算発表会見で、すでに約1000億円の調達を実施したと説明し、「不安はない」と強調、ANAよりは余裕の表情だ。

今後、融資への政府保証に加え、空港の着陸料や航空機燃料税の減免など、公的支援が議論になりそうだ。