多くの人にとって切実な問題です(写真:hirost/PIXTA)

政府が過去最大規模の108兆円を投じる新型コロナウイルス感染拡大への緊急経済対策。その目玉が、収入が減少した世帯への現金30万円の給付金です。しかしその給付をめぐっては、対象となる世帯の所得水準の低さから「大半の人はもらえないのでは?」との批判も上がっています。またネット上では「この所得ではそもそも生活できない」「コロナ以前から支援が足りていないのでは」との指摘もあります。

東京など7都府県で緊急事態宣言が発令され、経済活動がますます停滞することで、休業や自宅待機、派遣切りなど家計収入の急減をカバーすべく行われる現金給付ですが、多くの人が安定した生活を取り戻すには十分な整備とはいえないようです。

30万円給付されるのは月収8万円以下

新型コロナウイルスの感染拡大への対策として決定された現金給付は、経済へ影響が広がった2月以降に、

(1)年収ベースで収入が住民税非課税世帯並みまで減少した
(2)月収が半分以下になった(かつ住民税非課税水準の2倍以下)

のいずれかに該当する世帯を対象に、30万円を給付するものです。

「住民税非課税世帯」にあたる年収額は、単身の場合は年収100万円以下、夫婦2人と子どもの世帯なら子どもの人数により年収205万円や255万円などです。月収にすると単身なら月8.3万円、2人以上世帯なら月17万〜21万円程度です。

1人暮らしで月8万円、家族で月20万円前後の収入で生活するのは、とくに住居費などが高い大都市圏ではかなり難しいことです。このため、現金給付は「あまりに非現実的」「30万円を受け取れる人はほとんどいないのでは」との指摘も聞こえます。

たしかにこの水準は平均と比べるとかなり低いものです。総務省の家計調査によると、働く単身世帯の手取り収入は月平均28万円、2人以上の世帯で平均47万円です。現金給付を受け取るときには、自分の収入はかなり落ち込んでしまった事態になっていると想定しなければなりません。

こうした事態でとくに心配なのが、貯蓄が少ない家庭です。同調査によると、2人以上の現役世帯のうち約13%は貯蓄が100万円未満です。働く人の10人に1人以上が、貯蓄がゼロか100万円に満たないわけです。

もしコロナショックで収入が大幅に減り、30万円の給付金を受け取ったらどれくらい生活の助けになるのでしょうか。単身の場合、生活費(消費支出)の平均は月18万円です。月収が8万円に減り、それまでと同じ生活を続けていれば10万円の赤字になります。給付金を受け取っても3カ月で底をつく計算です。2人以上世帯の場合は生活費の平均額は月32万円。減少後の月収が20万円としたら、赤字は月12万円。こちらも3カ月もたないと考えられます。

収入よりも貯蓄の少なさがリスクに

また、感染拡大の長期化が懸念されるいまは、収入よりも貯蓄の少なさがリスクになることも意識しておかねばなりません。

手元に貯蓄があれば、給付金と合わせてもう少し長期の赤字を補填できるでしょう。しかし貯蓄がなければ、目先の生活を回していくことも危うくなってしまいます。未知のウイルスの感染拡大が終息する見通しは専門家の中でもまだ明確になっておらず、この先、半年から1年近くかかるとの見方もあるようです。現金給付は複数回行うことも検討されているようですが、自粛や休業が長期化すれば、給付金も家計にとって焼け石に水になってしまうかもしれません。

政府が現金給付を全世帯への一律給付にせずに所得制限を設けたのは、給付金を貯蓄せず消費に回すよう、家計収支が逼迫している世帯を対象にしたいとの思惑がありました。その論理は理解できるものの、貯蓄を増やすことは決して悪いことではありません。

ファイナンシャルプランナーが個人の家計相談に対応するときにも、病気やリストラ、災害などの有事に備えて、まずは生活費の半年分から1年分のお金を貯蓄するようにアドバイスするのが一般的です。収入が高くても貯蓄がほとんどないと、仕事がなくなって収入が減るとたちまち生活が苦しくなってしまいます。ですから収入がいくらであれ、ある程度の貯蓄を確保しておくことは重要なのです。

もちろん、収入と貯蓄には相関関係があります。総務省の家計調査でも、年収が高い世帯ほど貯蓄の保有額が高いというデータがあります。2人以上の世帯の場合、年収200万円未満の貯蓄額は平均428万円に対して、年収500万円世帯の貯蓄額は860万円、年収1000万円世帯では2000万円弱と大きな差があります。

しかしこれだけの貯蓄があっても、長期的なライフプランを考えればできれば安易に取り崩すのは避けたいものです。以前に老後2000万円問題が注目された際にも指摘されたように、有事がなくても長い人生にはお金がかかります。現役世代では住宅ローンや子どもの教育費など、大きな出費を何度も乗り越えていかねばなりません。

ましてこの先の見えない状況下で、予定されていた出費のために貯めていたお金を思いがけず取り崩さなければならない、また収入が減ってこの先は予定どおりに貯められなくなれば、新型コロナウイルスの感染が終息しても家計が苦しい状況は長く続くでしょう。目先の生活は自力でなんとかできる家計であっても、公的な支援がなければ負担が先送りされているだけかもしれないわけです。

仮にいまは給付金が貯蓄に充てられたとしても、長期的な生活の保障にはなりえない。その意味ではもう少し幅広く給付金を受けられたら、より多くの人が安心できたように思います。

緊急事態宣言で給付金と休業手当の「谷間」に注意

もう1つ懸念なのが、今回の現金給付と会社の休業手当の関係です。働いている人が会社都合によって自宅待機や休業を指示された場合には、会社は平均賃金の6割以上の休業手当を払わなければならないことになっています。休業手当は休んでいる期間中にわたって出ますから、受け取れれば生活の安定に役立ちそうです。

ただ、休業手当を受け取れるとしたら、休業前の6割以上の収入を得ることになります。休業手当は日割りで計算するため一概にはいえませんが、「月収が半減以下」を要件とする国の現金給付を受け取れなくなる可能性があります。

また国の現金給付は自己申告制です。申告の方法は今後整備されていくようですが、要件に該当するかどうかを自分で判断して手続きをしないと、お金は受け取れません。毎月の収入がほぼ一定なら、収入がいくらまで減ったら対象になるかをすぐに判断できるでしょうが、シフト制のアルバイトなどで毎月の収入が変動しやすい場合には判断がつかないかもしれません。

あるいは短縮営業など一部休業によってシフトが減らされているもののある程度の収入があれば、国の現金給付を受け取れない、かつ勤務先からの休業手当も受け取れないようなケースもあるでしょう。

もともと非正規雇用で収入が不安定なアルバイトやパートで働く人などが、お金に困っていても制度のすき間に陥り、必要な人に給付が十分に行き渡らない心配もありそうです。

加えて緊急事態宣言が発令されたいま、企業の休業手当支給の判断が変わってくる恐れも指摘されています。企業の休業手当は地震や災害などの不可抗力によって休業した場合には支給義務はないとされており、緊急事態宣言が出たことで休業手当を支給しない企業が出てくることがありうるからです。

国はまだ明確な見解を出していない

「緊急事態宣言」による休業が不可抗力であるかどうかについて、国はまだ明確な見解を出しておらず、現在のところは企業に判断が任されています。すでに休業手当を受け取っている人も、あるいはこれから休業することになった人も、この先休業手当を受け取れるかどうかがわからない、収入の見通しが立たないケースが急増すると考えられます。


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現金給付以外にも、国はさまざまな経済対策を行う方針です。また、新型コロナウイルス感染症の影響で収入が急減した人向けには、生活資金を貸し出す「総合支援資金」や大学などの学費を給付する「給付型奨学金」などもあります。手元の貯蓄がなく、この先の収入の見通しが立たなくなっても、こうした制度に生活を維持する糸口があるかもしれません。

使える制度やもらえる給付を探しながら手元のお金を少しでも維持できると、お金への不安が少しでも解消するのではないでしょうか。