孫正義氏。その「勝負」の行方は?(2010年撮影)

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ソフトバンクグループ(SBG)が市場との神経戦を繰り広げている。

2020年3月23日に2.5兆円の自社株買いを発表して度肝を抜いたが、この間、アクティビスト(物言う株主)による自社株買い要求、資産売却発表、格付け引き下げと格付け会社との対立など、目まぐるしく事態が動く中、株価は乱高下している。

伏線となった「物言う株主」の要求

SBGを巡っては、巨額出資した米シェアオフィス「ウィーワーク」を運営するウィーカンパニーの経営不振については、2019年10月にJ-CASTニュースでも詳しく報じたが、その後も同様に多額の出資をするインドの新興ホテル運営会社「OYO(オヨ)ホテルズアンドホームズ」も急成長のひずみで「第2のウィー」化の懸念が浮上。

2020年2月12日発表のSBGの2019年4〜12月期決算は、ウィー、オヨのほか、米配車大手「ウーバー・テクノロジーズ」などの投資先の価値下落のため、本業のもうけを示す営業損益が129億円の赤字に転落した。

業績に陰りが出る中、2月上旬に明らかになったのが、米アクティビスト「エリオット・マネジメント」によるSBG株約3%(25億ドル=2700億円)の取得。エリオットは孫正義会長兼社長らSBG首脳とも面談し、最大200億ドル(2.2兆円)の自社株買いを含む要求を突きつけた。

そしてSBGは3月13日に、5000億円を上限とする自社株買いの実施を発表。新型コロナウイルスの感染拡大による世界的な株価下落を受け「自社株買いの好機と判断したのだろう」(市場関係者)との受け止めが一般的だった。自社株買いは、仮に発行済み株式の1割を買い入れ消却すれば、同じ利益で、1株利益は11%増える計算になり、株価アップ要因になる。

だが、皮肉にも、ここから株価が急落する。終値は発表当日の3764円から19日には2687円まで一気に落ち、発表前を含め7営業日連続の下げを記録。9日の取引時間中には2609円と3年8か月ぶりの安値を付けた。

新型コロナの影響で19日は日経平均株価終値も1万6552円まで落ち込み、市場全体が大混乱しているとはいえ、SBG自体は2月12日の直近高値5871円からあっという間に半値以下に落ち込んだことになる。運用するファンドの投資先が、未上場の巨大新興企業が中心であることから「実態が外部から見えないために不安が増幅された」(市場関係者)といわれる。

「アリババ」株売却に懸念も

そこでSBGが打ち出したのが資産売却と自社株買いの上積みだ。23日、4.5兆円の資産を売却し、最大2兆円の自社株買い(13日発表の5000億円と合わせ2.5兆円)を発表した。2.5兆円はグループで16兆円(2019年末)に達する債務を減らすなど財務の改善に充てるとした。

この自社株買いは、発表時点でSBGの発行済み株式の45%に相当する巨額のもので、同日発表後に株価は急騰し、前日比500円のストップ高の3187円で引け、翌24日も一時、669円(21%)高の3856円をつけた(終値は3791円)。この日は日銀による上場投資信託(ETF)買い入れ期待で1万7000円を回復するなど「官製相場」の中とはいえ、市場がSBGの自社株買いを評価したのは明らかだ。

ただ、この後もうひと悶着ある。米格付け会社のムーディーズが25日、株価の連投に水を差すように、SBGの格付けを「Ba1」から「Ba3」に、2段階引き下げたのだ。巨額の資産売却について「資産価値と信用力が悪化する可能性がある」というのが理由だ。

SBGの保有株は27兆円で、中国のネット通販大手「アリババ集団」が約半分、国内通信子会社のソフトバンクが5兆円近くというのが主なところで、特にアリババ株は「SBGの信用力の源泉」(市場筋)。今回の資産売却の具体的中身(銘柄)や時期は明らかでないが、アリババ株も含まれるとみられ、SBGの信用の根幹を脅かすと懸念する声は根強い。アリババ株に限らず、現在の不安定な市場環境の中で、保有株の現金化は安値売却になる恐れもある。

投資先の新たな破綻も判明

SBGは格下げを受け、「誤った理解と憶測に基づく」と批判。格付けは基本的に債券発行などの際に必要で、発行する企業が格付け会社に依頼して評価してもらうもので、今回、SBGはムーディーズからの格付け取得を取り下げた。

この格下げ騒ぎで、25日に4000円を回復していたSBG株は、26日は一時、前日比462円(11%)安の3708円まで下落(終値は3778円)し、27日の終値は109円(3%)高の3887円と、不安定な動きが続いている。

5000億円の自社株買いの反応が思わしくないことから、一気に2.5兆円に拡大するという今回のSBGの動きについて、「孫会長の勝負師らしい一手」(大手紙経済部デスク)との声があり、そこには「現状の2割強の孫氏のSBG持ち分比率が、3〜4割に上がる」という、エリオットへのけん制の意味合いもある。

新型コロナ・ショックはリーマン・ショック(2008年)を上回るとの声が日に日に強まっており、収束の見通しも全く立たない中、生産・消費という実体経済への大きなダメージを与えるのは避けられない。市場の混乱というだけでなく、SBGの投資先の経営にも打撃になり、27日にはSBGが19億ドル(約2000億円)を投じて筆頭株主になっている英国の衛星通信ベンチャー「ワンウェブ」が米連邦破産法11条(日本の民事再生法に相当)を申請し、破綻するニュースが飛び込むなど、今後、SBGの資産価値がどこまで痛むかも見通せない。アクティビスト、格付け会社との神経戦が続く中、SBGは当面、投資は抑え、財務の立て直しに比重を置くことになるとの見る向きが多い。