2019年に一大ブームを巻き起こしたタピオカ入りドリンク。専門店だけでなく大手コーヒーチェーンも導入するなか、最大手のスターバックスは「タピオカ入りの商品をつくる予定はない」という。なぜなのか。経済ジャーナリストの高井尚之氏がスタバを直撃した――。
提供=スターバックス コーヒー ジャパン
新商品の「あずき きなこ わらびもち 福 フラペチーノ」。1月16日まで販売している。 - 提供=スターバックス コーヒー ジャパン

■2019年流行語・ヒット商品の“顔”に

2020年の年が明けた。まずは昨年、話題を呼んだ現象を紹介したい。

飲食業界においては「タピオカ」ブームだろう。年末、メディアでは恒例の、(1)ユーキャン「新語・流行語大賞」のノミネート語、(2)「2019年ヒット商品ベスト30」(日経トレンディ2019年12月号)、(3)「日経MJヒット商品番付」などが発表された。

タピオカに関しては、(1)が「タピる」(タピオカドリンクを飲む、の意味)でトップ10入りし、(2)は2位にランクイン。(3)は西の大関に選出された。

このタピオカと近しい分野の人気商品がある。スターバックスの「フラペチーノ」だ。今回はその横顔を紹介しつつ、消費者心理の視点から両者を考えたい。

■甘いフラペチーノに塩味のポテチが入っている

以前より特別感がなくなったが、「年末年始」は世の中が華やぐ時季だ。2019年12月、相次いで2種類のフラペチーノが、スターバックス コーヒー ジャパンから発売された。

新商品の実物。同社では初めてわらびもちを使用している。(撮影=プレジデントオンライン編集部)

・「サンタブーツ チョコレート フラペチーノ」
2019年12月4日から12月25日までの限定販売。690円+税。515キロカロリー

・「あずき きなこ わらびもち 福 フラペチーノ」
2019年12月26日から2020年1月16日までの限定販売。590円+税。506キロカロリー

クリスマスを意識して発売されたのが前者で、主に正月を意識したのが後者だ。

「12月は『今年頑張った自分にごほうび』という思いを持つ人も多いのではないでしょうか。『サンタブーツ チョコレート フラペチーノ』は約2年かけて開発した商品です。商品名は、長靴に入ったお菓子セットから名づけました。チョコレート、クッキー、ポテトチップ、といったお菓子を詰め込んだ、サンタブーツをモチーフにしたフラペチーノです」

コーヒー&ビバレッジ部ビバレッジ商品開発チームの中島史絵チームマネージャー(撮影=プレジデントオンライン編集部)

こう説明するのは、中島史絵さん(コーヒー&ビバレッジ部ビバレッジ商品開発チーム チームマネージャー)。埼玉県さいたま市などの店舗勤務を経て、2006年からビバレッジ(飲料)開発の仕事に携わり、多くのフラペチーノ商品も開発してきた。

すでに販売を終えた前者の商品で、目新しいのは細長く刻んだポテトチップだ。

「塩味をポテトで表現したのは店舗パートナー(従業員)の話からアイデアを得ました。お店のポテトチップを自分で買い、休憩時間にドリンクに使うチョコレートソースをかけて食べると聞いたのです。クリスマスをイメージした細長いクッキーのストローもつけました」(中島さん)

これらを商品企画に結びつけられるのも、店舗の勤務経験でイメージがわくからだろう。

■新商品はわらびもちが入った和テイスト

一方、12月26日に発売されたのが前述の「福フラペチーノ」だ。

「令和時代になって初めての年末年始で、10月には新天皇の『即位の礼』もあり、古式ゆかしい装束を目にされた方も多いと思います。2020年は東京五輪の年ですし、改めて『日本の文化はいいな』と思えるような和テイストのフラペチーノにしたのです」

コーヒー&ビバレッジ部ビバレッジ商品開発チームの東治輝氏(撮影=プレジデントオンライン編集部)

東治輝(ひがしはるき)さん(同チーム)はこう話す。中島さんとともに商品開発を担う東さんは、3年前に国内の大手洋菓子メーカーから転じた。前職での経験も踏まえながら、開発業務を行う。

この商品は「当社初の、もちもち、ぷるぷる食感のわらびもちを使いました」。フラペチーノはドリンクの側面もあれば、スイーツの側面もある。スイーツ業界では素材を含めて和菓子と洋菓子の境目が低くなっているが、そうした両面を体現した商品といえよう。

境目といえば、夏の売れゆきが圧倒的だったフラペチーノも、コンビニやスーパーで買える家庭用アイスクリームと同様、「秋冬」の売り上げが増えてきた(比率は非公開)そうだ。

■タピオカとフラぺチーノにある6つの共通点

さて、タピオカにも触れつつ共通点を考えたい。2019年11月、筆者は「なぜタピオカは3回もブームを巻き起こしたか」という記事を書いた。そこでタピオカがブームとなった理由について8つあげた。

(1)専門店の仕掛け
(2)商品の見た目のかわいさ
(3)ドリンクとスイーツの両面
(4)インフルエンサ―の影響
(5)持ち歩きでも注目度アップ
(6)メディアの報道
(7)アジアンスイーツ人気の歴史
(8)実は茶系飲料

上記の(1)から(6)までは、スタバのフラペチーノに当てはまる。「ウチこそが元祖」というかもしれない。最初に「抹茶 クリーム フラペチーノ」が発売されたのは2001年で、20年近くも前だからだ。

「当時はさいたま新都心店で接客していましたが、それまではコーヒー味のフラペチーノしかなかった時代。お客さんが指名買いで次々に買われ、本当に飛ぶように売れました。商品の準備が大変だったことを覚えています」(中島さん)

■期間限定に地域色、“季節感”も欠かさない

スタバのフラペチーノはこの20年、一貫して高い人気を集めてきた。その背景には、「期間限定」や「地域色」で話題を作り続けるというしたたかな施策がある。

例えば、地域文化を全国に発信するため生まれた「加賀 棒ほうじ茶 フラペチーノ」(2018年5月末発売。現在は販売終了)は、石川県加賀地方で親しまれてきた、ほうじ茶にヒントを得た。また、青森県弘前市の「弘前公園前店」のパートナーたちが開発した「エスプレッソ 抹茶 フラペチーノ」(販売終了)もあった。地元の名峰・岩木山をイメージした同商品は「抹茶 クリーム フラペチーノ」にエスプレッソをワンショット追加すると、今でも同じ味わいが楽しめる。

新商品づくりに店舗パートナーを巻き込むことは、「より愛情を込めて販売してくれる」という勝利の方程式だ。

「商品開発の基本は季節性もあります。新生活が始まる春は、恒例の『さくら』をイメージした商品、暑い夏は、のどごしがよくないと重たく感じるので、レモンや桃を用いたジュースや果肉をイメージする商品といったように考えています」(東さん)

筆者は、十数年前に聞いた「抹茶フラペチーノを飲みたいからスタバに行く」と話した女性の声が忘れられない。その前に「昭和のある時代まで、ブレンド、アメリカン、アイスコーヒーで注文の6割がまかなえた」(中堅チェーン店の社長)という話も聞いていた。当時は「女性がコーヒーや紅茶以外の一商品目当てで、カフェに行く時代になったのか」と感じたのだ。

■タピオカメニューを作らない理由は?

ところで、競合する大手カフェからはタピオカ関連商品も販売されている。スターバックスにはない。「タピオカ」の導入を考えたことはなかったのか。

「商品開発の視点では、まったく考えませんでした。格好つけるようですが、個人的な野望としては『誰かが通った道は通らない』もあります。フラペチーノの基本商品設計としては、ストローで飲める飲み物で、例えばフローズンにするなら、“もっさりとしゃばしゃば”のバランスもありますが、オンリーワンの企画を目指しています」(中島さん)

「流行やおいしさだけを追求したプロモーションは行わず、スターバックスの価値観に合うかどうかで判断している」(同社広報)そうだ。だから、期間限定メニューでもなじみの薄い「棒ほうじ茶」を選んだのだろう。人気バッグメーカー・吉田カバンの新商品開発モットーは「流行ではなく新しさ」だと聞く。それと同じ設計思想を感じた。

■ハイカロリーが心配になる時代性にどう向き合うか

そんなフラペチーノにも課題がある。例えば「カロリーの高さ」だ。冒頭で紹介した2商品でも提示したが、それぞれ515キロカロリー/506キロカロリーとかなり高い。

「甘いもの好きなので、コーヒーよりもフラペチーノを頼みます」(20代の男子大学生)
「値段も安くなく、カロリーは結構高いけど、気分転換にもなるので注文します」(20代の女性会社員)

こうした声も耳にするが、筆者の取材経験では購入者が若い世代に偏っていると感じる。中年期になると“フラぺ離れ”もあるのだ。例えば「十分楽しんだから、もういいかなという思い」、「カロリーの高さが気になり、もう飲まない」という、元愛好家(ともに40代女性)の声も聞いてきた。

かつて東さんは、「大人も楽しめるフラペチーノ」の商品開発にも携わった。今でも「購買層が広がる商品は考えている」という。

「カロリー控えめ」や「糖分控えめ」は時代の流れだ。例えば国内飲料市場では近年、「ウィルキンソン」(アサヒ飲料)など無糖の炭酸水が驚異的な伸びを示している。富士経済によると、2019年の無糖炭酸飲料の市場規模は600億円に達する見込み。健康志向の高まりでむぎ茶飲料の伸びも著しい。こうした現象をどう考えるか。

タピオカとフラペチーノは、「購入世代が圧倒的に若い」という共通点がある。それでも、これまでフラぺ人気が続いてきたのは、時代とともに顧客層の若返りに成功したからだろう。

だがこの年代は、数歳違いでも「世代が違う」一面もある。そうなると、例えば「おいしくて、甘くて、カロリー控えめ」が、今後の活動の肝になるかもしれない。

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高井 尚之(たかい・なおゆき)
経済ジャーナリスト/経営コンサルタント
1962年名古屋市生まれ。日本実業出版社の編集者、花王情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画・執筆多数。近著に『20年続く人気カフェづくりの本』(プレジデント社)がある。
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(経済ジャーナリスト/経営コンサルタント 高井 尚之 撮影=プレジデントオンライン編集部)