韓国の青瓦台(大統領府)は10日、今月24日に中国・成都で開かれる日中韓首脳会談の際に日韓首脳会談を調整していることを発表した。実現すれば昨年9月以来となる。

【画像】反対デモの様子。安倍首相の顔に「謝罪しろ!」シールが

 韓国では日韓首脳会談の開催は日韓関係改善へ向けた第一歩として歓迎ムード。11月22日に韓国がGSOMIA(軍事情報包括保護協定)を延長したことで日韓の葛藤は少し和らいだとされ、また徴用工問題の解決案としてにわかに注目を集めている“文喜相国会議長案”へ期待も膨らんでいる。


韓国・釜山で開催されたASEAN会議で会見する文在寅大統領 ©AFLO

春から総選挙モードに突入で立法化が滞る

 しかし、中道系紙記者は議長案に対し否定的だ。

「被害者側の反発もありますが、問題は発議された後の立法化に時間がかかることです。

 今の韓国は国内政治での案件(選挙法改正案や検察改革法案など)に与・野党が総力を傾けており、さらに、年が明ければ春(2020年4月)の総選挙モードに突入しますから、被害者が反対する文議長案にわざわざ(与党も野党も)着手するかどうか。こうした流れをみると、発議されても、今の第20代国会の国会議員任期が終了する来年5月で自動的に廃棄になる可能性もある。あまりにも時間が足りなすぎる」

 文議長案の内容は、日韓企業(1+1)と個人(+α)から自発的な寄付金を募り、基金を管理する財団を創設するというもの。韓国政府が以前、提案した「1+1(日韓企業)」と異なるのは、裁判の被告となっている日本企業と1965年の日韓基本条約で恩恵を受けた韓国企業だけではなく、寄付できる企業の範囲を広げ、さらに個人からの寄付金を募るという点で、それも自発的な寄付金であるという点だ。

 寄付金は賠償金に代わるものとされ、基金の規模は3000億ウォン(約273億円)と想定されていたが、1兆ウォン(約9100億円)にのぼるという見方も。支給対象者は裁判をすでに起こしている原告とこれから提訴しようとしている1500人ほどを想定しており、申請期限は1年半。寄付金を受け取ると、裁判に和解したとみなされ個人請求権は消滅することや、申請した被害者を審査する審議委員会が設置されることなどが法律に盛り込まれるとみられている。

肯定的な韓国メディア、反発する原告ら

 案が浮上したのは11月初め。文議長が訪日した5日、早稲田大学で講演した「第2の金大中・小渕宣言、文在寅・安倍宣言を期待する」の中で語られた。この案が伝えられると、徴用工訴訟の原告側からは「聞いていない」と反発する声がすぐに上がったが、韓国メディアは概ね肯定的だ。

 保守寄りの中央日報は「文喜相解決案を契機とし徴用賠償の葛藤を解こう」(11月28日)、中道系といわれる韓国日報では「強制徴用の解決案論争となった文喜相案、時間を設定して急がずに」(11月29日)と報じている。

 別の中道系紙記者は言う。

「文議長案は進歩・保守を越えた超党派で考えられていた案で、法制化されれば政府が動きやすくなるともみられていました。

 案が報道された頃は、菅義偉官房長官が否定的だと伝えられましたが、その後、韓日議連が動いて、日本の好反応が伝えられると、韓国でも日本が受け入れるのであれば推進する価値があるという雰囲気になった。

 ただ、ここに来て文議長案は大法院(最高裁判所)の判決を無力化するという指摘も出始めていて、被害者側の同意をどう得るのかなどの弱点も見えてきている」

原告側弁護士は「被害者を清算するための法案」と非難

 原告側の反発は強い。11月27日、国会前の記者会見で、日本製鉄などを相手にした原告側の代理人を務めるイム・ジェソン弁護士はこう怒りを露わにした。

「文議長の提案によると日本企業は法的・歴史的責任ではなく自発的な方式でカネを集め、さらにはそのカネに韓国企業と韓日の国民の寄付金まで巧妙にまぜることになる。これは決して大法院(最高裁判所)の判決の履行ではなく、加害の歴史を清算するものでもなく、外交的葛藤を生じさせる被害者を清算するための法案だ」

 当初の文議長案では徴用工被害者のほかに元慰安婦も賠償金の対象に含まれており、「和解・癒やし財団」(2015年12月の慰安婦合意により16年7月に設立され、19年7月に解散)で使われなかった残余金およそ60億ウォン(約5億4000万円)相当も新しい財団に移管されるとされていた。しかし、元慰安婦の支援団体からも「日本には賠償ではなく謝罪を求めている」と反対する声が上がったため、議長案の対象から元慰安婦を除き、新しい財団への60億ウォン投入の話も白紙化された。

 ただ、原告側も一枚岩ではないといわれる。「当事者である遺族らは訴訟にかかる費用や時間などを気にかけており、必ずしも訴訟を続けることを望んではおらず、文議長案に前向きだという話も入ってきている」と前出の別の中道系紙記者は言う。

 文議長案は「記憶・和解・未来財団法案」として、12月中旬までに国会で発議される予定だという。

誰も“熱いジャガイモ”に触りたくない

 前出の記者はこんなことも言っていた。

「(韓国)政府側は途中で頓挫するだろうと冷ややかな雰囲気です。慰安婦問題での経験がありますから、被害者が反発する中、誰がこの“熱いジャガイモ(手に余る、厄介な難問)”に触ろうと思うでしょう。慰安婦合意に携わった政府関係者はみな左遷されていますし。

 青瓦台はすでに文議長と法案について意見交換したともいわれますが、被害者の反発が膨らんでもそれを押し切って動くでしょうか」

 ただ、徴用工訴訟で被告となっている日本企業の資産の現金化については韓国でも避けたい雰囲気で、文議長案は「もっとも現実的」という声もある。

 “熱いジャガイモ“はそのまま焦げついてしまうのだろうか。

(菅野 朋子)