読売も「襟を正せ」となじる「桜を見る会」の節度

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■心から桜の花を楽しみ、愛でる催しではない

〈世の中に たえて桜の なかりせば 春の心は のどけからまし〉

六歌仙や三十六歌仙の1人として知られる平安時代の歌人、在原業平の歌である。『古今和歌集』に収められている。桜が咲くのを待ち焦がれ、咲いたら咲いたらで今度は散るのが気になって落ち着かない。桜の花に対する愛惜の念を「世の中にたえて桜のなかりせば」と逆説的に歌い上げている。

桜の花は古代から日本人によって親しみ深く、愛されてきた。だが、問題の「桜を見る会」は心から桜の花を楽しみ、愛でる催しではなかったようだ。

写真=時事通信フォト
桜を見る会」中止について、記者団の質問に答える安倍晋三首相(右)=2019年11月13日午後 - 写真=時事通信フォト

菅義偉官房長官が11月13日の記者会見で、毎年4月に東京・新宿御苑で開かれる首相主催の「桜を見る会」について「来年度は中止する」と発表。安倍晋三首相も首相官邸で「私の判断で中止をすることにした」と記者団に説明した。

野党から「安倍首相の後援会関係者が多数招待されている」「公的行事の私物化だ」と追及され、中止に追い込まれた。

■安倍首相の地元支持者らを招待する「公私混同」

今年4月の開催要領によると、「招待範囲」については皇族や各国大使、国務大臣、国会議員ら以外に、「その他各界の代表者等」とだけ記されていた。

菅氏は記者会見で「予算や招待人数も含めて、全般的な見直しを幅広く意見を聞きながら行う」と説明し、「見直しにあたっては規模を縮小し、再来年度の再開を目指したい」と話した。

功績や功労のあった各界の人々を慰労するのが本来の目的だ。そこに安倍首相の地元支持者らがひろく招待されているというのでは、野党だけでなく、多くの国民も納得できまい。

沙鴎一歩は、この問題の本質は、長期政権ゆえの緩みや思い上がりだと考える。安倍首相は野党の批判や国民の声にしっかりと耳を傾け、深く反省してほしい。また安倍首相には桜の花に対する愛惜の情というものがあるのか、これも疑問だ。

■前身は戦前の皇室主催の「観桜会」

桜を見る会」の前身は、戦前の皇室主催の観桜会だ。戦後になって首相が招待する形に変わった。吉田茂内閣時代の1952年に始まり、政財界の関係者やタレント、スポーツ選手らを新宿御苑に招き、枡酒などで接待する。民主党政権時代も2010年の鳩山内閣で実施されたが、2011年は東日本大震災で、2012年は北朝鮮のミサイル発射の予告で中止となった。

安倍政権にかわり、規模は毎年膨らんでいた。それは今年5月の記事でプレジデントオンラインが指摘している通りだ。だが11月8日の参院予算委員会で、共産党の田村智子・参院議員が「首相は後援会関係者を多数招待しているのではないか」と追及したことから、問題が大きく浮上した。安倍首相は「招待者の取りまとめには関与していない」と釈明したが、結局中止に追い込まれた。

開催要領は皇族や国会議員ら以外に「その他各界の代表者等」を対象としている。野党は「これではいくらでも拡大解釈が可能だ」と批判している。費用も2014年の3000万円から5年後の2019年には5500万円に跳ね上がり、参加者も1万3700人から1万8200人に増加した。政府は来春に向けて2020年度予算で5730万円を要求していた。

■自民党内からも「運営に不透明感がある」と批判の声

事務局の内閣府によって招待者名簿が廃棄されたことも明らかになり、自民党内からも「運営に不透明感がある」との声が出た。菅官房長官は12日、招待者の選定基準を明確化する考えを表明したが、結局、翌13日になって中止を発表した。

早い対応である。政治とカネが問題となった菅原一秀経済産業相と河井克行法相の更迭も早かった。安倍首相は早期の幕引きを図り、憲法改正など手付かずの問題の審議を進めたいのだろう。

■「首相の私物化許されぬ」と手厳しい朝日社説

「税金で賄われる内閣の公的な行事を私物化していると批判されても仕方あるまい。安倍首相にはきちんと疑問に答えてもらわねばならない」

こう冒頭から批判するのは、11月13日付の朝日新聞の社説だ。見出しも「桜を見る会 首相の私物化許されぬ」と手厳しい。さすが安倍首相嫌いの朝日社説である。

朝日社説は「なぜ、これほど参加者が増えたのか」と疑問を投げかけ、その後でこう書く。

「先週の参院予算委員会で、共産党議員が問題視したのが、首相や閣僚、自民党国会議員の後援会関係者の招待だった。とりわけ、首相について、都内のホテルで開かれた前夜祭に850人が出席し、当日はバス17台に分乗して会場に向かったという、今年の参加者からの情報を示し、『後援会活動そのものではないか』と追及した」

「招待範囲」の「その他各界の代表者等」について朝日社説はこう指摘する。

「この『その他』に後援会関係者が含まれるとみられるが、個々の議員の活動を支える支援者を、国全体にとって『功績・功労』があったと認めるのは筋が違うだろう」

「筋が違う」というより、これはもう詐欺だ。安倍首相は私たち国民を愚弄している。

■安倍首相の「関与していない」は信じられるか

朝日社説は続ける。

「首相は『招待者のとりまとめには関与していない』とも述べた。しかし、朝日新聞の調べで、首相の事務所名義で、桜を見る会を含む都内の観光ツアーを案内する文書の存在が明らかになった」
「首相は13年以降、会の前夜に開かれる後援会との懇親会に欠かさず出席もしている。一連の経緯を承知していないはずはなかろう」

この安倍首相の「関与していない」との答弁は信じられるものなのか。今後の国会での安倍首相と野党との論戦が楽しみである。

■「長期政権ゆえの緩みが背景にあるのではないか」

安倍政権寄りの読売新聞も、11月14日の社説で「桜を見る会中止 疑念の払拭へ政府は襟を正せ」との見出しを立て、疑念の払拭を求める。書き出しも厳しい。

「疑念を招き、開催基準を見直すことになった以上、来年度の中止はやむを得まい。安倍内閣は襟を正さねばならない」

読売社説はさらに書く。

「公私の区別が曖昧になっていたとすれば問題だ。節度を欠いていたとの批判は免れまい。長期政権ゆえの緩みが背景にあるのではないか。首相は自らを律し、政権運営にあたるべきだ」

安倍政権には長期政権ゆえの緩みがある、という指摘にはうなずける。そこを安倍首相自身が問題視していないところが深刻なのである。

■「今年の招待者の名簿を廃棄した」という見え透いたウソ

読売社説はこうも指摘する。

「内閣府は、今年の招待者の名簿を廃棄したと答えた。公文書管理の観点から手続きが適正だったかどうか検証する必要がある」
「首相の後援会は、桜を見る会の前日夜に会合を開いてきた。野党は、首相が代表を務める政治団体の政治資金収支報告書に記載がないとして問題視している。首相側には説明責任が生じよう」

内閣府の「破棄した」というのはたぶん嘘(うそ)だ。安倍首相を忖度(そんたく)したのかもしれない。そのうち野党に追及され、招待者名簿を出さざるを得なくなるに違いない。それが繰り返されてきたパターンだからである。

最後に読売社説は「政財界に限らず、その時々に文化やスポーツなどで活躍した人をたたえる意義はあろう」と指摘し、こう主張する。

「長年の慣行にとらわれずに、招待者の範囲や人数、予算規模などを抜本的に見直し、不信感を払拭することが求められる」

読売社説は「桜を見る会」そのものには、賛成のようである。

(ジャーナリスト 沙鴎 一歩)