両サイドを疾走し、ユナイテッドの攻撃陣を牽引するジェームズ。そのパフォーマンスは不振のチームにあって際立っている。 (C) Getty Images

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 今シーズンのマンチェスター・ユナイテッドは、攻撃陣がピリッとしない。

 プレミアリーグでの総得点「8」は、ビッグ6の中では最小で、チェルシーとの開幕戦で4-0の勝利を飾ってからは、5試合で4得点と、1試合あたりの得点数が1点を下回る体たらくだ。

 ただ、不調にあえぐ攻撃陣のなかで孤軍奮闘し、チームを牽引している若きウインガーがいる。それがダニエル・ジェームズだ。

 現在21歳のウェールズ代表FWは、今夏の移籍市場で総額1800ポンド(約26億円)でスウォンジーからユナイテッドに加入すると、即座にチームにフィット。プレシーズンマッチこそ、やや遠慮気味にプレーしていた印象があったものの、開幕後は積極果敢にドリブルを仕掛けて存在感を発揮。全6試合に出場して3ゴールをゲットし、ファンの心を掴んでいる。

 プレミア初挑戦ながら注目の的となっているジェームズは、昨シーズンの開幕時点では、ほぼ無名の存在だった。これまでどんなキャリアを送ってきたのだろうか。

「ダン」の愛称で呼ばれる若者は、ウェールズではなくイギリス北部ヨークシャーで生まれ育ち、8歳でハル・シティのアカデミーに加入すると、すぐさま才能が開花。スピーディーなプレーに磨きをかけ、気づけば中心選手となっていた。

 だが、プロデビューするまでの道程は、順調ではなかった。精神的に落ち込む時期もあり、一時はサッカーを辞めようとも考えた。

 その理由を、ユナイテッド公式のインタビューで、こう明かしている。

「12歳の時はサッカーが楽しくなかった。学校が終われば夜は練習で、友だちと遊ぶ時間もなかったからね。僕は学校の友達を大事にしていたし、とても寂しく感じていたよ」

 結局、ハルのコーチ陣たちから熱心に引き止められたことで、サッカーを続ける道を選んだジェームズは、2014年に16歳でスウォンジーのアカデミーに移籍。その後は少し時間を要したが、昨年2月、FAカップでプロデビューを果たした。
 プロデビュー後のジェームズの飛躍は驚くべきものがある。

 昨年8月にチャンピオンシップ(イングランド2部)デビューを飾ると、そのままレギュラーに定着。圧倒的なスピードと豊富な運動量を武器に、公式戦38試合出場して10ゴールを記録した。

 とりわけ、特大のインパクトを残したのが、今年3月に行なわれたFAカップ準々決勝のマンチェスター・シティ戦だ。カイル・ウォーカーやニコラス・オタメンディといったワールドクラスの名手たちを持ち前の瞬発力で圧倒してみせた。

 チームは2-3で逆転負けしたものの、ジェームズ自身は、プレミアリーグのレベルでも活躍できることを示してみせた。

 今シーズンの活躍は、前述の通りである。両サイドで爆発的なスプリント力を見せるその姿を、ユナイテッドのレジェンドであり、現在はウェールズ代表監督も務める同胞のライアン・ギグスと重ねる者も少なくない。

 その偉大なる先達も、ジェームズに対して惜しみない称賛を送っている。

「彼の中で一番優れている能力はスピードだね。私のキャリアの中でも、彼ほど速い選手は見たことがない。正直、叫びそうになるほど驚いたよ。だってこれまで、チームメイトにも対戦相手にも速い選手は沢山いたはずだったからね。ディフェンダーにとって悪夢のような存在だ」

 実際、ジェームズのスピードは驚異的だ。攻撃時もそうだが、相手に詰め寄る時や、サイドバックのアーロン・ワン=ビサカが攻め上がった際に、後方のスペースを猛然とカバーリングする時にも、その最大の武器は効果を発揮する。

 もちろん課題もある。気質的には利他的だが、単純に技術的な問題もあり、パスワークでミスを犯す場面が目立つ。また、少し悪い体勢でボールを蹴ると、クロスもシュートも一気に球威が落ちてしまう嫌いがある。

 ただ、攻守両面で貢献できるポイントが明確であるため、多少のミスを犯しても、出場機会を失うことはないだろう。

 今シーズンのユナイテッドは、効率よく決定機を作ることができず、苦しんでいる。そうしたチーム状態を打破する意味でも、ジェームズが“急先鋒”となり、ドリブルで果敢に突っ込み、守備ブロックを攻略する契機をどんどん作って欲しいところだ。

文●内藤秀明(プレミアパブ)
text by Hideaki NAITO