カナダ・オークビルで9月13日(現地時間)に行なわれたオータムクラシック男子ショートプログラム(SP)で、羽生結弦は転倒からのスタートになった。

 午前の公式練習では、それまで軽々と決めていた4回転サルコウが、曲かけではしっかり成功はしていながらも、滑りのスピードが少し出すぎていたためか、軸が若干進行方向に向かって右側に動いている印象があった。本番ではそれが逆に左側にズレていき、いきなり転倒、というスタートになったのだ。


オータムクラシックでSP首位発進の羽生結弦

「ジャンプに入る前から、もう駄目でしたね。コースが違うので、しょうがないなと思っていました。気合いは入っていたんですけど、世界選手権の失敗をちょっと引きずっているのか、それが頭をよぎって、何か無駄に意識してしまうんです。『この時にこういうミスをしたな』と一瞬考えてしまうというか。

 僕はすごく理論で固めてしまうタイプだけど、今回のサルコウが感覚的に跳べていたジャンプだったからこそ、細かいズレが出た時にちょっと考えてしまい、理論に引っ張られすぎたのかなと思います。今年は世界選手権からシーズンが始まっていると思っているので、その意味でも世界選手権と自分の気持ちが近すぎて、それゆえに何か無駄な力みがあったんだと思います」

 こう話す羽生は、前日の余裕とは違う緊張感を公式練習で滲ませていた。

 トリプルアクセルからの連続ジャンプや、4回転トーループからの連続ジャンプなど、それぞれにしっかり気持ちが入っているように見えた。今季のプログラムはともに2シーズン目で、完成形もはっきりと見えている。だからこそ完成させたい、という気持ちが強かった。羽生は演技後に、「ここで完成させるなよ」と言われたようだった、と苦笑する。

 だが、サルコウのミスのあとは、「少し焦りはあったが、冷静にうまく切り替えられた」と言うように、納得のいく滑り。次のトリプルアクセルは、片足で多回転のターンをするツイズルから入ってツイズルで抜ける、一番やりたかった形だ。「去年のオータムでやった時はあまりGOE(出来栄え点)が良くなかったので、それ以来やっていなかったですが、自分では最も音に合った入りだと思っている」と本人が言うように狙いどおりの構成だった。


2シーズン目となるプログラムの完成度を上げている羽生結弦

 公式練習では少し苦しんでいた4回転トーループ+3回転トーループも、「サルコウとは逆に、跳ぶ前の軌道をちょっと変えたりして、感覚ではなく理論で固めて跳べた」と成功し、ともにGOE加点では4点と5点が並んだ。さらに、スピンとステップも、すべてレベル4を獲得した。

 結局、4回転サルコウは回転不足も付けられるミスとなり、得点は98.38点。それさえきれいに決まっていれば、あと10点は増えて108点台まで近づけていたのだ。

「初戦だからという感じでもなく、単純に調整不足というわけでもないので……。以前に『パリの散歩道』でも4回転トーループが跳べなくなって、なかなか決まらない時期が2戦くらい続いたことがあったんです。ちょっとその感じと似ていますね。全体的には悪くないし練習もちゃんと積めているのに結果がこれなので、もっとやるべきことがあるのかなと思います」

 羽生はとくに不安の色を浮かべることもなく、冷静にそう話す。演技後には、ジャンプを見てくれているジスラン・ブリアンコーチと、「ちょっと構成を変えてもいいかな」と話しあったという。練習で跳べても試合で跳べていなければ意味がなく、不安要素をこのまま引きずるわけにはいかないからだ。

 ジャンプの種類に関しては、新たに入れることを検討していると話した4回転ループだけではなく、4回転ルッツや4回転フリップも練習をしているため、選択肢は多く、不安はない。

「ジャンプ構成ではなく、順番を変えるという方法もあります。少しずつでも、いい方向へ動くきっかけを作らなければいけないと思います」

 そう話す羽生の表情に余裕の色が浮かんでいたのは、自信を持ってシーズンに臨めている証だ。