by Alex Haney

eスポーツ団体でありゲーム関連のアパレル企業としても活動する「100 Thieves」が、どのようにしてeスポーツ分野で世界最高峰のエンターテイメント企業へとのし上がっていったのかを、海外メディアのThe Vergeが追いかけています。

How 100 Thieves became the Supreme of e-sports - The Verge

https://www.theverge.com/2019/9/5/20849569/100-thieves-nadeshot-esports-supreme-drake

eスポーツは急成長中の分野ですが、不確実なビジネスでもあります。過去数十年間にわたって存在してきたeスポーツは、近年では世界規模のプロリーグも登場するほどの人気を誇っています。しかし、プロリーグなどが今後長らく継続可能なものかどうかはまだわかりません。そんな絶え間なく変化するeスポーツを取り巻く状況の中で、最も成功した企業のひとつが100 Thievesです。

100 Thievesはeスポーツ団体というだけでなく、ゲーム関連のアパレルとしても非常に競争力のある企業です。熱心なファンが限定のスウェットやTシャツ、パーカーといったアイテムを購入し、5分間で50万ドル(約5300万円)以上の売上を記録することもあるほどの人気を誇り、The Vergeはその人気っぷりを「Supremeのような確立されたストリートブランドを彷彿とさせる」と表現しています。



100 Thievesは、2017年に「Nadeshot」としても知られる元プロゲーマーのマシュー・ハーグ氏が設立した企業。ハーグ氏はプロゲーマーとしてキャリアをスタートし、その後YouTube上で有名人となりました。ハーグ氏は自身の経験を活かし、eスポーツ・YouTube・ストリーミング・アパレルという異なる分野を結びつけたエンターテインメント企業として100 Thievesを立ち上げたわけです。

過去に大手ゲームパブリッシャーであるElectronic ArtsやNEXONで働き、自身のゲームスタジオを運営し、現在は100 Thievesで社長兼COOを務めるジョン・ロビンソン氏は、「我々について説明するなら、ロサンゼルス・レイカーズやBarstool Sports、Supremeに似ていると思います」と語っています。

eスポーツ団体の多くが通常のプロスポーツチームのように、多くの選手と契約し、大会で優勝し、スポンサーを増やすことをもくろみます。しかし、ハーグ氏はそういったeスポーツ団体としての常識を「再発明するつもりだ」とロビンソン氏に語ったそうです。ハーグ氏の考える新しいeスポーツ団体というのは、ただ大会で勝つだけでなく、自分たちが作り上げたコンテンツやソーシャルメディア上のチャンネルに多くの人々がアクセスする、巨大なファン層を持った団体になることだったそうです。言葉にするだけなら簡単ですが、ロビンソン氏は「マット(ハーグ氏の愛称)は実際にそれをやってのける信頼性を持っていた」と語っています。

下段右端にいるのが100 Thievesの創業者であるマシュー・ハーグ氏



100 Thievesが最初に大きな活躍を見せたのは2017年の後半のこと。名だたる有名企業がバックについたeスポーツチームと同じく、League of Legendsのプロリーグに参戦することとなります。その後、100 ThievesはフォートナイトやCall of Dutyといった人気タイトルのeスポーツチームも持つようになり、同社の3つの軸である「ゲーム」「コンテンツ」「アパレル」をそれぞれ独自の方法で拡充しています。

2019年6月には元Dota 2のプロプレイヤーであるJacob Toft-Andersen氏が、100 Thievesのeスポーツ分野のVPに就任。同年7月にはストリートブランドのReigning Champからダグ・バーバー氏を引き抜き、100 Thievesのアパレル分野のVPに就任させています。関係者を引き抜くことだけで力をつけてきたというわけではなく、100 Thievesが最初に雇った従業員であるジャクソン・ダール氏は、YouTube・Twitch・ポッドキャストといったコンテンツを取り扱うエンターテインメント部門のリーダーを務めているそうです。

また、2018年10月には人気ラッパーのドレイク氏が100 Thievesの共同オーナーとなっています。



100 Thievesは初めからゲーム・コンテンツ・アパレルという3つを軸にビジネスを展開していくという明確なビジョンを持っていたかもしれませんが、必ずしも初めから優れたものを提供していたわけではないとThe Vergeは記しています。100 Thievesの初期のアパレルグッズは他企業のものよりも少し優れている程度で、映像コンテンツもドキュメンタリー風の緊張感のあるものではあったものの、特に新しいものではなかったとのこと。

これについてエンターテインメント部門を率いるダール氏は、「初めはeスポーツ業界における最高のコンテンツを作成するチームの基準に近づこうと必死でした。彼らは本当に素晴らしい物語風のコンテンツを作っていたので。しかし、それから数か月が経過して、我々はゲーマーが本当に見たいコンテンツはどのようなものなのか、どのようにしてeスポーツに焦点を当てていくかについて考え始めました」とコメント。

ゲーム分野で人気が高いのは実況プレイなどですが、100 ThievesのYouTubeチャンネルではフォートナイトやマインクラフトといった人気コンテンツのプレイ実況が存在しません。これは100 Thievesが独自の方向性を模索した結果です。100 ThievesのYouTubeチャンネルではプロゲーマー同士のトークショー的なものや、エンターテインメント分野で活躍するビジネスマンへのインタビュー映像など、ゲーム自体ではなくプレイする人や関係者のパーソナリティに焦点を当てたコンテンツを取り扱っています。100 Thievesがハーグ氏というインターネット上でも人気の高い個人のパーソナリティを原点としていることから、ダール氏は「現在のパーソナリティを重視する方向でコンテンツを拡充していくことは、我々にとって理にかなったものです」とコメント。目標としては実況者やプロゲーマー版のマーベル・シネマティック・ユニバースのような、拡張的なコンテンツを作り出していくことと述べています。

その成果か、記事作成時点で100 ThievesのYouTubeチャンネルのチャンネル登録数は50万を超えています。

100 Thieves - YouTube



そして、100 Thievesのアイコンであるハーグ氏や、所属するプロゲーマーやクリエイターたちは、全員が100 Thievesのアパレルグッズに身を包んでいます。そのため、100 Thievesのアパレルグッズは非常に注目度が高く、発売から数分で売り切れることも多いそうです。

バーバー氏は100 Thievesのアパレル部門を強化するために雇われた人材ですが、その役割は洋服のデザインだけではないそうで、「私は100 Thievesのブランド全体を監督しています」と語っています。バーバー氏はReigning Champで洋服のデザインからブランドの管理、小売店の監督まで行っていたそうで、同じような役割を100 Thievesでも求められているわけ。

100 Thievesのアパレル現象をより大きく持続的なものにしていくことこそがバーバー氏の目標だそうで、「アパレルは我々のトップイニシアチブの1つです。真のライフスタイルブランドを構築することこそが、当面のブランドの主要な目標の1つであるといえます。我々はeスポーツビジネスをサポートするための商品を作成しようとしているだけでなく、本当のアパレルブランドを作りたいと思っているのです。それこそが100 Thievesを他のeスポーツ団体と差別化する手段になると考えています」と、アパレル部門の担う役割の重要さについて語っています。



アパレル以外での100 Thievesの主な収入源はスポンサー収入です。100 Thievesはeスポーツ団体を所有しているため、所属チームが大会に出場する際にはユニフォームに企業のロゴを入れることが可能です。ロゴを入れたい企業がスポンサー料を100 Thievesに支払い、これが大きな収入源となっているわけ。100 Thievesのスポンサー企業となっているのは、Cash Appやレッドブル、Totino'sなど。これらのスポンサーこそが「最大の収入源です」とダール氏は語っています。

eスポーツ市場のバブルは間もなくはじけるともいわれるため、収入源が複数存在するということは今後の継続的な成長を考えれば非常に重要です。100 Thievesは複数のゲーム大会にプロチームを送り込んできましたが、現在はLeague of LegendsとFortniteのプロチームのみを保有しており、その他のゲームで活躍してきたチームは様々な理由から活動を停止してきました。その1つにクラッシュ・ロワイヤルが存在しており、同ゲームからの撤退理由をロビンソン氏は「我々のブランドには当てはまらなかった」と説明しています。

最も衝撃的だったのは100 ThievesがCall of Dutyから撤退したということ。ハーグ氏は元Call of Dutyのプロゲーマーであり、100 ThievesがCall of Dutyのメジャータイトルを2つも獲得したことがあるプロチームを保有していたことを考えると、まさに驚くべきことといえます。100 ThievesがCall of Dutyから撤退した理由は、Call of DutyのパブリッシャーであるActivisionが新しいCall of Dutyのプロリーグ構想を立ち上げ、このリーグに参戦するにはあまりにも多額の費用が必要であったためだそうです。

なお、100 ThievesはCall of Dutyからの撤退理由をムービーで説明しているほか、これまでの軌跡をドキュメンタリームービー化して公開しています。

THE GREATEST COMEBACK IN ESPORTS HISTORY?! [02100] pt. 1 - YouTube

100 ThievesはCall of Dutyから撤退することとなってしまったものの、eスポーツ部門のVPであるToft-Andersen氏は、今後より多くのタイトルに参戦していく予定であると述べています。「他の多くのチームが行うのと同じような方法でeスポーツにアプローチするわけではありません。つまり、競争力のあるほぼすべてのタイトルに参戦するというわけではありません」とコメントしました。それでも競争力のあるeスポーツチームであったCall of Dutyチームを保有し続けられなくなったということは、eスポーツ分野以外にも収入源を持つ100 Thievesにとっても大きな痛手だったそうです。

100 Thievesが今後数カ月にわたって行う大きな取り組みの1つは、ロサンゼルスに新本社を建設することです。記事作成時点では100 Thievesのオフィスは各地に散らばっているため、配信者やプロゲーマーたちは自宅や各地のオフィススペースで働いているとのこと。新本社の建設は2019年末までに完了予定。新オフィスにはプレイヤー用の練習部屋や編集部屋、配信者用のスタジオ、アパレルチーム用のデザインスタジオ、さらにはアパレルグッズなどを販売するための小売スペースまで設けられるとのことです。