2019年度はまずまずの出足だったが、第2の柱となりうる新事業は明確に打ち出せていない。写真は2018年7月に行われたPB事業発表会での前澤友作社長(撮影:梅谷秀司)

新たな収益柱の構築を急ぐ、ファッションECサイト「ZOZOTOWN(ゾゾタウン)」を運営するZOZO。だが、まだその方向性が明確に見えずに、苦悩している。

ZOZOは今年初め、ゾゾタウン上での有料会員向けの割引サービスをめぐり出店ブランドの離脱が相次いだ。さらにプライベートブランド(PB)事業の失敗もあり、前2018年度は売上高1184億円(前期比20.3%増)、営業利益256億円(同21.5%減)と2007年の上場以来初の営業減益に陥った。

超強気の昨年度から一転して手堅い姿勢に

今2019年度は売上高1360億円(前期比14.9%増)、営業利益320億円(同24.7%増)と、会社側は回復基調を見込む。7月30日に発表した2019年度第1四半期(2019年4〜6月期)決算は、主力のゾゾタウンで商品取扱高を増やしたことに加え、前期に無料で大量配布したゾゾスーツの関連コストがなくなり、売上高281億円(前年同期比6.2%増)、営業利益77億円(同32.6%増)と、増収増益の出足となった。

「ブランド様とは良好な関係を継続させていただいている。初心に立ち戻って、今期は頑張っていきたい」。ZOZOの胗澤孝旨副社長は7月30日に開かれた決算説明会で、そう強調した。

PBの拡大で「10年以内に時価総額5兆円」(現状約6300億円)と、“超強気”の見通しを示した昨年度とは対照的に、今年度は本業であるゾゾタウンの運営に集中し、出店ブランドとの信頼関係の再構築を重視する手堅い姿勢が垣間見える。

今年5月には、ゾゾタウンに出店するブランドの関係者ら1000人以上を招待し、同社の経営理念などを説明する「ブランドカンファレンス」を開催した。


今第1四半期決算では「ゾゾ離れ」が相次いだ前期末から状況が転じ、出店ショップ数が再び増加傾向にあることを報告。ここ最近は四半期ごとに、自ら事業の動向を説明していた前澤友作社長も、今回は説明会を欠席する“余裕ぶり”だった。

一見、リスク要素は払拭されたかのように見えるZOZO。だが、説明会では、市場関係者からゾゾタウンを中心とした商品取扱高の伸びの鈍化について質問が集中した。

同社の2019年度第1四半期(4〜6月)の商品取扱高は、前年同期比で12.5%増の792億円。伸びてはいるものの、前期は約2割増、前々期は約3割増と伸びてきた勢いと比べれば、失速した印象は否めない。直近1年以内に1回以上買い物をした人の数を表す「年間購入者数」に至っては、わずかな減少に転じている。

売り上げが前年割れする出店ブランドも

ゾゾタウンに出店する複数のアパレルブランド幹部は、「自社で発行するクーポンを抑制したことやゾゾ自体の集客力の衰えもあってか、今期に入ってから(当社ブランドのゾゾでの)売上高が前年割れの状況」と明かす。こうした状況について胗澤副社長は「(4〜6月は)プロモーションをほとんどやらなかったため、新規の会員獲得数が鈍化した」と説明した。

2004年にゾゾタウンの運営を始めて以降、ZOZOはファッションECの先駆者として、アパレルのネット通販市場でかなりのシェアを取ってきた。2016年に支払いを最大2カ月先延ばしできる「ツケ払い」、2017年に客が自由に送料を設定できる「送料自由化」、そして2018年にはゾゾスーツの配布と、話題性のあるプロモーション施策を打ち出して新規顧客をつかんできた。

一方で、国内アパレル市場全体が漸減傾向にあるうえ、最近はアパレルブランド各社が自社サイトの強化に乗り出している。急速な勢いでシェアを拡大してきただけに、ゾゾタウンの取扱高が鈍化するのは自然な流れとも言えるが、これまでのようなキャッチーなプロモーションだけでは顧客開拓は限界を迎えつつあることも確かだろう。

ところが、将来の収益柱として期待したPB事業が事実上頓挫した今、それに代わる第2の柱となりうる新事業を明確に打ち出せていないのが現状だ。

PB事業を路線変更したかたちで今期始めるのが、出店ブランドと協業して多様なサイズの商品をゾゾタウン上で販売するMSP(マルチサイズプラットフォーム)事業だ。顧客に自身の身長と体重を入力してもらい、その情報を基に20〜50サイズの中から最適なサイズの商品を届けるサービスで、今年の秋冬シーズンに約100のアイテムの販売を予定している。

第1弾として今8月2〜5日の4日間、「アース ミュージック&エコロジー」のニットやワンピースなど15アイテムの予約販売を行った。

この事業はどこまで協業ブランドを増やせるかがカギを握るが、現時点で公表されているのは、アースのほかジャーナルスタンダード、アーバンリサーチなど10数ブランドに限られている。

ZOZOの今期計画でもMSP事業の取扱高目標は10億円(ゾゾタウン事業は約3500億円)と、かなり控えめだ。ゾゾタウンに出店する大手アパレルの幹部は、「数十サイズの中からぴったりなものが欲しいという需要はごく一部だろう。それにゾゾ限定のサービスなので、ブランド全体の売り上げ押し上げ効果が期待できない」と参画に及び腰だ。

今年中に中国に再進出へ

また、ZOZOは今年中にゾゾタウンの中国再進出を計画していることも公表。前澤社長は以前に、「中国には35兆円ものファッション市場があり、ゾゾタウンがターゲットとする10代後半から30代の層の洋服に対する思いが非常に熱い」と話し、中国事業の拡大に期待を寄せていた。

確かに中国はネット通販が浸透した巨大市場だが、アパレルにとっては世界中のカジュアルブランドなどが群雄割拠する競争の厳しい市場でもある。「日本発のブランド」を訴求して集客できるような生易しい環境ではなく、実店舗では撤退する日本のアパレル企業が後を絶たない。

「ネット通販で圧倒的知名度を誇る(アリババが展開する)Tモールに、すでに出店している日本のブランドも多い。現地で知名度の乏しいゾゾタウンで売るだけのメリットをブランド側に打ち出せるのか」と、業界関係者の間には先行きを不安視する声もある。

独自のサービスやプロモーションで、「服はネットで売れない」という常識を打ち破ってきたZOZO。既存のゾゾタウン事業を超える新境地を開拓し、再び常識を覆すことができるのか、正念場を迎えている。