週末は特に混み合う深夜の電車。この10年で夜間の増発が進んでいる(写真:tarousite / PIXTA)

すでにピークは過ぎていることだろうが、12月といえば忘年会。そして年明けの1月は新年会シーズン。楽しいうたげの後に待ち構えているのが、帰宅に使う深夜の通勤電車だ。


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深夜になるにつれて電車の運行本数は減っていくが、特に年末の金曜ともなると終電近くの時間帯でも車内は満員だ。酔客による混雑と酒臭さに耐えながら最寄駅までの時間を過ごすのはなかなかの苦痛である。だが、近年はダイヤ改正で深夜の時間帯に増発が行われることも多い。

はたして深夜の満員電車は改善されてきているのか。ここ10年間の変化について、21〜24時台の首都圏主要路線の本数を比較するとともに、現在のダイヤについて日中の運行本数とも比較してみた。さらに、一部路線は実際に乗車して混み具合を調べた。

夜間に24本増えた路線も

この10年間で比較すると、ほとんどの路線で21〜24時台の列車本数が増えている。今回集計した首都圏の45路線のうち増えたのは31路線、変わらなかったのは11路線、減ったのは3路線だった。

最も増えたのは2008年開業の日暮里・舎人ライナーで計24本の増発。朝ラッシュ時の混雑率が187%(2017年度)に達する同線はダイヤ改正のたびに増発を重ねてきたが、夜も各時間帯で当初の倍以上に増えている。

同線をはじめ、2005年以降に開業した新線や新しい直通ルートは順調に利用者数を増やしているためか、ほかの路線とは桁違いの増発が見られる。2008年に開業した東京メトロ副都心線は10本の増加。同線と2013年に直通運転を開始した東急東横線も9本増えている。2005年開業のつくばエクスプレスも8本増えた。

そんな中、新線以外で大幅に増発したのが京王井の頭線だ。2008年からの10年間で、渋谷駅を21時以降に発車する列車が急行を中心に12本も増えている。中でも24時台は5本から10本へと倍になった。それでも混雑は続いており、特に急行に利用が集中する傾向があるが、夜間の大幅な増発は評価されてよいだろう。

このほかで増発が目立つのは東京メトロの各線だ。過去10年間に夜間の列車を増やしていない路線は皆無。丸ノ内線と銀座線、南北線の赤羽岩淵方面行きは21時〜終電の間で7〜8本も増えた。

東急も増発している路線ばかりだ。先に挙げた東横線の9本を筆頭に、東京メトロ南北線と直通する目黒線は7本増えた。混雑路線として知られる田園都市線は4本の増発。同線は急行の本数が増えたほか、途中の二子玉川で大井町線からの急行に接続する各駅停車も増えている。

複々線化の小田急は?

一方、今年春に複々線化が完成した小田急は、本数は増えたものの大部分が東京メトロ千代田線からの直通電車で、新宿始発は5本の増発にとどまっている。だが、途中の新百合ヶ丘駅から分岐する多摩線については、夜間の下り急行・快速急行が同駅で多摩線ホームに発着するようになったこともあり、多摩線自体の運行本数は変わらないにもかかわらず「使える本数」は大幅に増えた。

これに対して小田急相模原、相武台前、座間への有効本数は減っている。各駅停車の本数を毎時8本から6本に削ったためだ。せっかく1本早い急行や快速急行で途中の相模大野まで行ったのに、乗り継ぐ各駅停車は後続の急行や快速急行と同じということになっている人も多いのではないだろうか。

私鉄や地下鉄が多くの路線で夜間の列車を増発しているのに対し、JRは京浜東北線の大宮方面行きが3本増えたほかは増発しても1本で、大半の路線がダイヤの面では10年前と変わっていない。

もちろんJRも何もしていないわけではなく、東海道線や横須賀線では、実験的に金曜だけ増発した列車がそのまま平日毎日運行になったケースや、中央線快速のように22時台を減らして23時台を増やすなど、利用に合わせて改正したとみられるケースもある。だが、深夜の輸送サービス強化という点では私鉄や地下鉄のほうが先を行っているようだ。

次いで、日中と夜間の運転本数を比較した。21〜22時台は日中の比較的すいている時間帯より多い路線が目立ったが、23時以降はほとんどの路線で日中よりも少なくなる。

23時台で日中より本数が多い、あるいは同じなのは、東武伊勢崎線(北千住発下り)、東急田園都市線(渋谷発下り)、東京メトロ丸ノ内線(新宿発荻窪方面)、東京メトロ東西線(大手町発西船橋方面)、東海道線、横須賀線(ともに東京発下り)、常磐線快速(上野発下り)、山手線(新宿発池袋・上野方面)、日暮里・舎人ライナー(日暮里発下り)の各線だ。

深夜になれば利用者は減るため、時間が遅くなるにつれて列車の本数も減るのは当然である。実際に乗ってみると、東武、西武各線やJRの上野発高崎線・宇都宮線などは日中と同じかやや少ない程度の本数で、混み具合は日中より多少混んでいる程度であり、利用実態に合わせた本数になっていると感じた。都営新宿線は8両編成から10両編成への増結が進んでおり、10両の列車は快適であった。

中央線は深夜も混む

だが、混み合う割に本数が少ないと感じられる路線があるのも事実だ。

たとえば、秋葉原22時台発の総武線各駅停車はまだかなりの利用者がいるが、西船橋方面も中野方面も日中は毎時11本、21時台は12本あるのに対して一気に9本に減る。首都圏の路線の中では終電の時間が遅いことで知られる中央線も、新宿発24時台は各駅停車、快速、特別快速すべてを足しても9本で、日中の25本(快速と各駅停車を合わせた本数)に比べれば約3分の1である。

もっとも、24時台に9本運行しているのは比較的多いほうである。だが、中央線はもともと利用者が多いこともあり、この時間帯の各駅停車は朝ラッシュ時のような混雑ぶりだ。

また、中央線のネックは遠距離利用者の「有効本数」が決して多くないことだ。有効本数とは「ある目的地に行くのに実際に有効な(使える)列車の本数」のことだ。

たとえば22時台に東京から立川以遠へ向かおうとすると、一見本数は多いものの実際に使える列車の間隔が20分以上開いてしまう時間帯がある。

22時14分発の中央特快高尾行きを逃すと、立川より先へ行くのは32分発の快速高尾行きまでない。しかもこの列車は35分発の中央特快高尾行きに三鷹で追い抜かれる。つまり、14分発の中央特快を逃すと次は実質的に35分発まで待たなければならないのだ。

30分発の「中央ライナー7号」八王子行きもあるが、日野、豊田へ行く場合は立川で乗り換えなければならず、そこで乗り継ぐのは結局、東京駅35分発の特快となってしまう。全体的な本数は多いものの、遠距離利用者が使える本数は意外に少ないのが中央線の実情だ。

中央線は来春のダイヤ改正で「中央ライナー」「青梅ライナー」が廃止される見返りとして、通勤快速を毎時1本増発し、毎時5本にするとの発表があった。少しは速達列車が増えるようだ。

JR線はもう少し増発できないか

各路線の過去と現状を見てみると、深夜の満員電車はほとんどの路線で以前より改善されてきたといえる。だが、夜間の本数や増発の状況などを見ると、深夜の輸送サービスで一歩遅れている感が否めないのがJR各線だ。

首都圏のJR各線は10年前と比べて1日あたりの輸送量(平均通過人員)が伸びている路線が多い。たとえば中央線の神田―高尾間は2007年度に66万2251人だったのが2017年度には68万6317人に、埼京線池袋―赤羽間は69万6510人から74万7124人に増えている。同期間に38万2966人から36万1889人に減った常磐線のような例もあるが、必ずしも夜間の利用者が増えているとは限らないにせよ、輸送量が伸びた路線は多少の増発が行われてもいいのではないだろうか。

また、京王井の頭線や東急田園都市線など、増発はしているもののまだ混雑が激しい路線もある。さらなる増発は難しいケースも多いだろうが、柔軟なダイヤ編成によって今後も深夜の輸送サービスの向上に期待したい。