世間を大いに騒がせた日本ボクシング連盟の混乱は、山根明終身会長の辞任という形でひとつの節目を迎えました。しかし、わずか3分という短い会見ですら「会長職を辞する」のか「理事も含めて辞する」のかがハッキリしないなど、山根氏の独特な口調による発言は理解しづらいものとなっていました。

強い口調でありながら、たどたどしく漠然とした言葉。今回の数多い疑惑を生み出したのは、山根氏のこうした語り口にも大いに原因があるように思われます。そして、山根氏の発言が、意味が取りづらい独特の口調であることを利して、解釈を加えながら忖度を重ねていった周囲の人たちの理解力不足にも原因があるのではないかと思われるのです。

たとえば辞任会見の最後に、「どうか選手のみなさん。将来、東京オリンピックに参加できなくても、その次のオリンピックもあります。頑張ってください」という山根氏の発言がありました。素直に受け止めれば、東京五輪を目指す選手への激励と、仮に東京大会には出場を果たせなくても次回大会を目指して精進しつづけてほしいという、選手諸氏へのメッセージと思われる内容です。途中にあるべき「東京オリンピック出場を目指して頑張ってください」が抜けているだけで、よくある激励に過ぎない言葉のように思われます。

しかし、この発言の意味について一部メディアは「東京五輪からボクシング競技が排除される可能性を示唆したもの」という解釈をし、当事者である山根氏の無責任ぶりに憤りさえしています。また、辞任会見後に会見を開いた「日本ボクシングを再興する会」の菊池氏も、「聞きようによっては東京オリンピックはダメだろうねという風に聞こえたんですけれども、それに至ったのは日本連盟と山根会長が今まで行なってきたことによって発生したことですので、そこはもう責任を感じてもらいたいと強く憤りとともに感じました」と、やはり東京五輪からの排除という意味合いで憤りをもって受け止めていました。

また、山根氏を支持してきた立場の吉森照夫専務理事は、同日の会見においてこの発言を「本当に子どもたちにショックを与える言葉で、今のこういう劣勢、ボクシング連盟の劣勢がマイナス効果があったとしても、必ずボクシングは残るから、ボクシングはオリンピックだけのスポーツじゃありませんので、みなさん愛情をもってボクシングに精進してくださいと言おうとしたところが、ああいう間違った軽率なアレ(発言)になったんだと思います」と、やはりボクシング競技の排除を前提とした理解をしていました。

国際オリンピック委員会(IOC)が東京五輪からのボクシング競技排除の可能性を示唆していることは事実ですが、それは今回の日本ボクシング連盟に対する告発以前からのこと。国際ボクシング協会(AIBA)による不可解な判定や買収疑惑を発端としたものであり、日本ボクシング連盟の問題と直接的につながるものではありません。そうした事実関係を無視して言葉の解釈を行なうからこそ、素直に取れば何でもない言葉にまで「ショック」や「憤り」を勝手に覚えてしまうのではないでしょうか。

山根氏の真意を問いただすことなく、山根氏のたどたどしい発言に解釈と忖度を重ねて運営してきたことが、この短い発言をめぐる受け止め方からも感じられます。「どうとでもとれそうな言葉を、都合よく(あるいは悪意の指示として)解釈してきた」ことが。その意味では山根氏の辞任によって問題は解決するものではなく、山根氏のたどたどしい言葉を利用して(あるいは怯えて)、解釈と忖度で運営を重ねてきた周辺全体にも、今回の混乱の責任はあると言えます。

山根派、反山根派ともども総退陣からの出直し、それだけが解釈と忖度にまみれた日本ボクシング連盟をリスタートさせる方法ではないでしょうか。おかしな指示を出すほうも悪ければ、おかしな指示と思いながら唯々諾々と従うほうも悪いのです。おかしな指示であっても、それに唯々諾々と従っていたことで、不利益を被った選手・関係者は数多く存在するのですから。

文=フモフモ編集長