日本外国特派員協会で会見した是枝裕和監督

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カンヌ国際映画祭で日本映画として21年ぶりに最高賞「パルムドール」に輝いた是枝裕和監督が2018年6月6日、東京・有楽町の日本外国特派員協会で会見した。

安倍首相は日本人が国外で表彰された際はすぐにお祝いの電話をかけるが、是枝氏にはしなかった。これを「是枝氏が政治を非難してきた」からだと仏紙が報じ、一部では政権批判につなげる向きもあった。是枝氏はこういったことを念頭に、「多くの人のところに届いていると、個人的にはすごく前向きにとらえている」と話したものの、観客として政治家や官僚を念頭に置いていたか、という質問には「ありませんでした」と断言。代わりに、是枝氏が挙げたのは、取材先の児童養護施設で絵本の「スイミー」を朗読してくれた女の子だった。

「普段映画について語らない人も、この映画について語る状況」

受賞作「万引き家族」(6月8日公開)は、高層マンションの谷間に取り残された、今にも壊れそうな一軒家を舞台に、家族としての日常を守るためにウソや万引きを重ねていく人々の日々を描く内容だ。仏フィガロ紙は5月21日、「日本政府が困惑」の見出しで、安倍氏が是枝氏にお祝いの電話をかけないことを指摘し、その背景を

「正当な理由で、是枝氏は自らの映画やインタビューで、絶えず政治を批判してきた」

などと分析した。

是枝氏は

「現地(カンヌ)では日本の貧困問題について意見や質問が相次いだ」

という指摘に対して、

「僕自身は、それほどこの映画が社会的、政治的問題を喚起するようなことを目的として作品を作っていないので、そのようなリアクションが起こるとは思っていなかった」

と話したが、別の質問に対する答えでは

「ここ2作、自分の中で少し(家族の問題を掘り下げる)ファミリードラマにピリオドを打って、社会性、現在の日本が抱えている問題の上に家族を置いてみて、そことの接点をどういう風に描くか、そこで起きる摩擦にどう目を向けてみるか、ということをやってみたいと思って作品を作った」

とも。さらに、フィガロ紙をめぐる騒動を念頭に置いたのか、

「21年ぶりでパルムドールということもあって、多分僕が思っていた以上に、この映画がいろんな場所で取り上げられて、普段映画について語らない人も、この映画について語る状況が今、起きている。一部で、僕と僕の映画が物議をかもしているような状況にもなっているんですけれども、まあ、この映画が、通常の1本の映画が公開されて、劇場で見られていくという通常の枠を超えて、多くの人のところに届いているんだなという風に、個人的にはすごく前向きにとらえてるんですけど...」

などと話し、会場からは拍手が起こった。

「スイミー」朗読は「きっと、離れて暮らしている親に聞かせたいんじゃないか」

記者の

「この社会問題をテーマに選んだ関係上、聴衆の対象として、監督の頭の中に、政治を生業(なりわい)とする方とか、あるいは官僚の皆さんはイメージの中にあったのか」

という質問には、

「ありませんでした」

と断言。是枝氏は、テレビ番組を制作していた頃、先輩から

「誰か一人に向かって作れ。テレビみたいに不特定多数に向かって流すものほど、一人の顔を思い浮かべながら作れ」

と教えられていたという。

是枝氏が最も印象に残ったこととして挙げたのが、親から虐待を受けていた子どもが過ごす施設での取材だ。ランドセルを背負って施設に帰ってきた女の子に声をかけたところ、国語の教科書を取り出して『スイミー』を読み始めた。施設の職員が「忙しいからやめなさい」というのを聞かずに最後まで読みきり、是枝氏らがほめると、女の子は嬉しそうに笑ったという。是枝氏は

「この子はきっと、離れて暮らしている親に聞かせたいんじゃないか」

と思ったといい、脚本にも「スイミー」を読む場面を反映させたという。

是枝氏は、記者の質問に

「今回は、今言われてはっきり分かりましたが、その『スイミー』を読んでくれた女の子に向かって作ってると思います」

と答えた。