子どもとの距離感をうまく保つには?(写真:naka / PIXTA)

こんにちは。生きやすい人間関係を創る「メンタルアップマネージャⓇ」の大野萌子です。

年末年始、大学進学や就職などで家を出て離れていた子どもと久しぶりに再会した方も多いかと思います。また、この春から家を出て暮らす子どもとの特別な年越しとなった方々もいらっしゃるでしょう。

18歳となれば、ある意味、大人の仲間入りですし、多少の年齢の差はあっても、遅かれ早かれ、物理的にも精神的にも独り立ちの時期を迎えます。子どもが、新しい環境に適応しようと一所懸命になる一方、親のほうは、つい最近まで手をかけていた子どもとの距離を保つことに必死になりがちです。

相談業務を通じて感じることは、子離れの仕方の善しあしがその後のお互いの人生に大きな影響を及ぼすということです。

子どもは独り立ちに失敗すると、親との共依存から抜け出せずに、最悪、引きこもりになるケースもあります。そこまでいかなくとも、結婚に縁遠くなったり、転職を繰り返すこともあります。そうならないためにも、子どもとの距離の取り方をお伝えします。まだまだ先のことと思っている方々にも親子関係を見直す一助にしていただけたらと思います。

心配と「寂しさ」を混同しない


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子どもが自分の世界を持つようになると、親として関与することが少なくなり、寂しさを覚えることは当然のことです。その穴埋めをしようと、必要以上に手を出してしまうことも少なくありません。

たとえば、「大学に遅刻することのないよう離れて暮らし始めた子どもに毎朝モーニングコールをしている」という母親から、それでも遅刻が多くて困っているとの相談を受けることがあります。このような場合、親がかかわり続けると事態が悪化する傾向が見られます。実際、親が毎朝のコールをやめてからは遅刻をすることがなくなるといった生活面での改善が見られるケースは多く、このように、物理的に離れていても、子どもの精神的な自立を阻む行動はさまざま存在します。

いちいち、子どものやっていることに口出しするのもその一例です。離れているのだし、子どもが親に報告しなければ済むことなのにと思われる方もいると思いますが、そもそも成長過程で、親に何でも話すことをよかれとされてきた子どもには、その選択肢がありません。「親の言うことを聞いていればよい」と支配的な親に育てられてきた子どもは、自分で考えるということを放棄しがちです。親の圧力が強いと、それをはねのけることにエネルギーを費やすよりも、迎合することで丸く収めることができ、家庭内での生きやすさを獲得してきたからです。

“心配のあまり”というのは、親としての大義名分になりえますが、その原動力は、自分自身の寂しさからきていることも少なくありません。今まで、子ども中心の生活をしてきた親ほど、この傾向は強まります。自己満足のために子どもへ執着をしてしまうと、せっかくの子どもの自立の機会を失うことになります。手を出さずに見守ることは、手を出すことより忍耐が必要な行動です。それは成長期すべての時期に当てはまることでもあります。自分に忍耐がないのに、それを子どもに求めるのは、おかしな理屈です。子どもに忍耐強くなってほしいなら、まず自分の行動を振り返ってみましょう。

【距離感を保つ鉄則その1】

離れていても気にかけている、何かあったら援助することは伝えても、頼まれてもいないことをしたり、先回りして準備したり、いちいち口出ししない。

子どもに心配を掛けさせない

「空(から)の巣症候群」と称されることがあるように、子どもが手を離れてしまうと、多くの方が体験する喪失感があります。

「孤独感を強く感じる」「何もやる気が起きない」「思い出しては涙してしまう」「眠れないなど生活リズムが乱れる」「体調が思わしくない」などの症状が現れることがあります。折しも、40代を過ぎ更年期に差し掛かると、さらに強く現れて、これらの不調を改善するには、1年半から2年の月日を有するともいわれています。

長丁場になることを覚悟して、日々の生活を変えていくしかないのですが、悲しさや孤独が強まると、子どもに連絡を取りたい手段の1つとして、「具合が悪い」ことを過度に訴えて、家に帰ってこさせようとしたり、「今日も1人でご飯を食べました」などと、お涙頂戴エピソードをメッセージしたり、「いつもいつも思っています」「今何してる?」なんて、彼氏や彼女のごとき1日に何度も頻繁に連絡を取る方がいます。

このような言動は、親の一方的な思いにほかならず、愛情という名を借りた子どもへの支配です。子どもは、新しい環境で、必死に自分の居場所を確立しようとしています。そのような折に、親の心配までさせるのはやめましょう。

そうしないと、これ以上心配を掛けてはいけないと、子どもが自分のつらさや心配事を親に話さなくなり、本当につらいときでも1人で抱え込んでしまう危険性があります。実際、親があんなに悲しんでいるのに、自分だけ楽しい生活を送っていてよいのだろうかと、せっかく得た職を手放してしまうケースもあるのです。そんな親孝行の子どもの人生を奪うことがないようにしてほしいと思います。

【距離感を保つ鉄則その2】

多少のことでは動じずに、楽しくやっていることを伝え、子どもが自分の生活に目を向けられるようにするべき。

「新しい人間関係」を構築する

このような傾向は、「子どもがすべて」と子どもに依存している親に顕著に見られますが、自分の年齢とともに、仕事や交友関係が狭まってくる時期と重なり、今までさほどでもなかった親でも、急に子どもに執着を始めてしまうこともあります。その結果、子どもを、まるで所有物のような感覚でコントロールしようとします。

子どもが意に反する行動をしようものなら、「そんな子どもに育てたつもりはない」「どうして変わってしまったのか」などと責め立てます。

離れたからといって、親子関係が解消されたわけではありません。形が変わっただけです。戸惑いは大きくエネルギーが必要かと思いますが、新しい形を模索していく必要があります。それには、親が親としてではなく、1人の人間として、自分自身の生活を楽しむことが大切です。今までできなかったことを始めてみる、面倒くさがらずに友人の誘いに応えて外に出てみるなど、自分の環境を確立しましょう。心身ともに元気が出ないときは難しいかもしれませんが、子どもとの距離感をうまく保っていくためには、それぞれの生活が充実していることが大切なのです。

【距離感を保つ鉄則その3】

新しい生活に必死になじもうとしている子どもの環境に強引に入り込まず、自分の新しい環境を探すことに力を注ぐ。

いつまでも実家に依存する中年の子どもも増え、親が子どもの代わりに婚活をする代理婚活などもはやりつつある昨今、子どもの“自立のチャンス”を潰さないように、巣立ちの苦しみに真っ向から立ち向かってください。子どもが安心して親離れするために必要なのは、「親が自分の人生を楽しんでいる」ことなのですから。