鉄道会社経営シミュレーションゲーム『A列車で行こう9』で、日本の鉄道風景を再現します。今回は熊本編。新幹線や観光列車が駅を発着し、お城がそびえる街を路面電車が走ります。

鉄道の見どころいっぱいの熊本

 鉄道会社経営シミュレーションゲーム『A列車で行こうExp.(エクスプレス)』の発表に刺激され、Windows版の『A列車で行こう9』を遊び始めた筆者(杉山淳一:鉄道ライター)。前回の鎌倉編では、海や江ノ電などを再現しました。もう少し作り込みたい気もしますが、次の街を旅します。今回は熊本。筆者が感動した「あの風景」を再現したいのです……。


『A列車で行こう9』で街を再現して旅をする「A列車紀行」。第2回は熊本。

 ゲーム『A列車で行こう』シリーズのA列車の意味は、シリーズ1作目の線路工事用機関車が「A」という記号で示されたから。その1作目のプロデューサーによると、メーカー名の「アートディンク(ARTDINK)」や、ジャズの名曲を意識したわけでもなかったそうで。開発中もずっと工事用機関車を「A列車」と呼んでいて、そのままゲームタイトルになったそうです。

 楽曲のほうの『A列車で行こう』の「A」は、ニューヨーク地下鉄の「A系統」に由来しています。曲の解釈はいろいろありますが、「ジャズを聴くならA列車でマンハッタンのハーレムへ行こう」「ハーレムで成功したらシュガーヒルへ行こう」という意味です。ゲームのほうの『A列車で行こう』1作目は大陸横断の線路を敷くのが目的でした。なるほど、イメージと違いますね。


『A列車で行こう9』のマップコンストラクション機能で熊本を再現。

 そして日本にはもうひとつ「A列車」があります。JR九州の観光列車「A列車で行こう」です。「大人の旅を演出」という意味が込められ、ジャズとお酒がテーマの列車です。車内にはバーカウンターがあり、ハイボールサーバーを備えています。乗車中はずっとジャズが流れています。A列車の「A」は、三角線で行く天草(Amakusa)方面のA、大人(Adult)のAです。

ゲームだからこそ! 在来線高架化をひと足早く実現

 JR九州の「A列車で行こう」車両(キハ185系ディーゼルカー)は、『A列車で行こう9』に収録されています。そこで今回は、A列車つながりで熊本を選びました。鉄道が楽しい街として、熊本は見どころがたくさんあります。九州新幹線が発着するほか、在来線は「SL人吉」、観光列車「かわせみ やませみ」。さらに熊本駅前には熊本市電が発着します。お城と路面電車の風景も熊本らしい風景です。

 まずは国土地理院の地図で、熊本駅を中心に東西南北5kmの範囲を測定します。北は上熊本駅の先、鹿児島本線の崇城大学駅付近、南は鹿児島本線の川尻駅付近、西側は海に届かず、国道501号線と白川の交点、東側は水前寺公園と熊本県庁が入ります。西側は線路が少なく、ゲームの風景としては寂しいので、範囲を少し東へ移動し、路面電車の終点の健軍町を含めました。さらに範囲を北へ移動すると熊本電鉄菊池線も入りそうです。距離にこだわるとはみ出してしまいますが、今回は、この部分だけ縮小デフォルメしました。


熊本駅を中心に10km×10kmの正方形を切り出してみた。西側は線路が少なく、熊本電鉄、熊本市電は東側(国土地理院の地図を加工)。

熊本市電と熊本電鉄をすべて収めるため、範囲を少し北東に寄せた。ほとんど平地で海岸線がないため、再現しやすい地形。

完成したマップのサテライト画面。ゲームプレイを考慮して建物は熊本駅前にとどめた。列車を走らせて、実際の街のように発展させてみよう。

 それでは、完成した熊本マップをご覧ください。まずは熊本駅。九州新幹線と鹿児島本線、豊肥本線の駅です。南側からは三角線の列車も乗り入れます。現在(2017年11月)、駅周辺の立体交差化工事のため、在来線のプラットホームの半分が高架、半分は地上にあります。ゲームでは一足早く高架化を完成させてしまいました。

 地上駅時代は片側プラットホーム1面と島式プラットホーム1面に加え、プラットホームの端を削る形でのりばを増やし、3面8線もありました。高架化で島式プラットホーム2面に切り欠き敷きのりばを含めて、2面6線になります。博多・鹿児島方面の特急が新幹線に移行したため、在来線の列車本数は減り、これで十分のようです。運行本数はちょっと寂しい気がしますが、SLや観光列車が発着して、にぎやかな時間帯もあります。

見どころのひとつはJRと市電、熊本電鉄が集まる上熊本駅

 熊本駅前は路面電車があります。熊本城と路面電車の風景を眺めましょう。路面電車は市内をくねくねと走った後、西へ進みます。水前寺公園(水前寺成趣園)は熊本藩の藩主、細川氏が造った庭園を保存、整備した観光名所です。路面電車の終点は健軍町。付近に自衛隊の駐屯地があります。その周囲は学校が並びます。筆者のオススメ観光スポットは「味噌天神」です。小さな神社ですが、味噌の神様を祀る珍しい神社です。こういう場所をマップで再現すると「熊本通になれたかも」なんて思います。


熊本駅は現在、在来線の高架化工事中。完成すると2面6線になる予定。在来線の切り欠きプラットホームをなんとか再現してみた。見かけはよくないが、ダイヤを組んで遊ぶとおもしろそう。

熊本のランドマークといえば熊本城。『A列車で行こう9』ではランドマークの「天守閣」が似ている。路面電車で遊びに行こう。

熊本駅前から東へ進む熊本市電、観光名所の水前寺公園を経由して、終点は健軍町。それにしても路面電車の線路と道路の関係には苦労する。オプションでもいいので、併用軌道キットが出ないかな……。

 このマップのもうひとつの見どころは北側、鹿児島本線の上熊本駅付近です。熊本市電と熊本電鉄が発着します。熊本電鉄は菊池線と藤崎線の2路線があり、菊池線は上熊本駅から北へ進み、終点は御代志駅。藤崎線は途中の北熊本駅から南下して藤崎宮前駅に至ります。運行系統は路線名と一致していません。上熊本〜北熊本間と、藤崎宮前〜北熊本〜御代志間です。


鹿児島本線の上熊本駅。熊本市電と熊本電鉄が発着する。サテライト図にあるように、熊本電鉄全体を再現してみた。

 上熊本〜北熊本間は2016年春まで、元東急電鉄の「アオガエル」こと5000系電車が走る路線として鉄道ファンに知られていました。御代志駅は線路1本、プラットホーム1面の1面1線ですが、プラットホームの対面側にバスのりばが設置され、電車とバスの乗り換えが便利です。ゲームでも再現してみたいところ。

「SL人吉」と「あそぼーい!」の同時入線を再現!?

 熊本駅に戻りましょう。熊本駅は「A列車で行こう」のほか、「SL人吉」「かわせみ やませみ」「いさぶろう・しんぺい」などの観光列車が発着します。2016年4月の熊本地震で豊肥本線の一部区間が不通になる前は、特急「あそぼーい!」「九州横断特急」も発着していました。「あそぼーい!」は現在、阿蘇の東側、別府・大分〜阿蘇間で運行されています。「九州横断特急」も別府〜阿蘇間に短縮されてしまいました。豊肥本線の復旧が待たれるところです。


再現したかった光景は「SL人吉」と「あそぼーい!」の同時入線。『A列車で行こう9』はどちらも収録されていないため「SLばんえつ物語」と小田急「ロマンスカー」で代用した。

 筆者は熊本地震の前に、熊本駅付近で感動的な体験をしました。熊本行きの「SL人吉」に乗車し、熊本駅の手前で豊肥本線が合流するとき、豊肥本線側には熊本行きの「あそぼーい!」がやってきて、並んで熊本駅に到着しました。「あそぼーい!」には子供たちがたくさん乗っていて、車窓に現れたSLを観て大喜びする様子が見えました。「JR九州さん、このダイヤはわざとやってるなぁ。イキなことをするもんだな」と思いました。

 熊本地震で「あそぼーい!」のルートが変わってしまったため、現在は「SL人吉」と「あそぼーい!」の熊本駅同時到着は見られません。豊肥本線の復旧で復活すると思われますが、その頃には熊本駅の在来線の立体交差が完成します。熊本市が公開している「熊本駅部整備イメージ」によると、豊肥本線も熊本駅まで高架化されるようです。プラットホームの数が減ってしまうため、同時到着ができるかどうか不明です。しかし、「この演出は復活してほしいな」と思います。ゲームではもちろん復活させました。


熊本駅では『A列車で行こう9』に収録されている三角線の特急「A列車で行こう」が発着。最近は特急「かわせみ やませみ」も走り始めた。

 いかかでしたか。熊本駅はまるで「観光列車の巣」ですね。在来線の2面6線で、たくさんの観光列車を発着させてみましょう。かつてのように東京行きブルートレイン「はやぶさ」を復活させても楽しいかもしれません。今回は建物などの配置は控えました。熊本駅の南には車両基地や貨物駅もあります。貨物列車やトラックで資材を運び、都市を発展させましょう。