猫のにぼし 写真提供/ZOO動物プロ

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 古舘プロジェクト所属の鮫肌文殊、山名宏和、樋口卓治という3人の現役バリバリの放送作家が、日々の仕事の中で見聞きした今旬なタレントから裏方まで、TV業界の偉人、怪人、変人の皆さんを毎回1人ピックアップ。勝手に称えまくって表彰していきます。第32回は山名宏和が担当します。

にぼし 様

 この連載が始まって初めて人間以外の方を表彰する。今回、勝手に表彰するのは猫のにぼしである。

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 もちろん、にぼしはただの猫ではない。映画『猫侍』やNHKの朝ドラ『花子とアン』『まれ』などに出演している、ZOO動物プロ所属の売れっ子の女優猫である。「にぼし」という名前も、映画『猫侍』に出演した際、主演の北村一輝さんが「毛の色がにぼしに似ているから」と付けたそうだ。

 にぼしは僕が構成担当する『The Covers』(NHK-BSプレミアム 毎月最終週金曜 午後10時)のリニューアルに伴い、今年4月から新レギュラーに加わった。

 音楽番組の出演者に猫。その思いつきは面白かったが、正直なところ最初の収録を終えるまで、スタッフ一同不安だった。ずっと鳴いていたらどうしよう。暴れまわってゲストの斉藤和義さんの高級なギターを傷つけたらどうしよう。

 しかしすべてはいらない心配に終わった。暴れることもなく、常にいい感じで画面に映り込み、さらには猫好きの斎藤和義さんの心をくすぐるように甘えるなど、さすがプロと感心させる仕事ぶりを見せた。

 だが、その時、我々はまだ知らなかった。そのしおらしさには秘密があることを。

 マネジャーも知らなかったのだが、実はにぼしのお腹には赤ちゃんがいたのだ。

 ということで、いきなり2回目の収録は産休。これが人間だったら大スキャンダル。『週刊女性』も飛びつくところだが、猫なのでそんな事にはならず。そして猫だけに、翌月の収録には早くも復帰を果たした。

 ここでにぼしが本性を現した。

 セットの中を走り回る。突然、行方不明になる。と思っていたら、テーブルの上に飛び乗り、ゲストのコップに入った水を堂々と飲む。トークの間に勝手気ままに鳴きまくる。MCのリリー・フランキーさんいわく、

「長屋で話してるみたいだ」

 初回のにぼしは猫をかぶっていたのだ。まんまとだまされた。

 それ以来、スタジオでは、

「今日のにぼしはどんな状態?」

「今、にぼしががいい感じだから(カメラを)回そう」

 といったスタッフの声が飛び交うようになった。

「猫本位で番組収録が進んでいる」

 これもまたリリーさんの弁だ。

 最初のようなしおらしさこそなくなったにぼしだが、レギュラー出演者の仕事は今でもちゃんと果たしている。猫好きのアーティストは多く、彼らはにぼしがそばにいると、いつもとは違った表情を見せる。今後のゲストの中には「にぼしに会うのが楽しみ」と言ってくれている方もいる。ゲストの宮藤官九郎さんが、

「猫の手を(比喩ではなく)本当に借りている様子は初めて見た」

 と驚いていたが、確かににぼしは今や番組には欠かせない存在となった。

 ドラマや映画だけではなく、仕事の幅を広げトーク番組でも活躍するにぼし。そんなにぼしには今回、「優秀エンターテイにゃ〜賞」を勝手に差し上げ、勝手に表彰します。

<プロフィール>
山名宏和(やまな・ひろかず)
古舘プロジェクト所属。『行列のできる法律相談所』『ダウンタウンDX』『世界何だコレ!?ミステリー』といったバラエティー番組から、『ガイアの夜明け』『未来世紀ジパング』といった経済番組まで、よく言えば幅広く、よく言わなければ節操なく、放送作家として活動中。