「もう2日経っているからか、気持ちはもうメッツの選手になっています。切り替えは早いですね。最近は、どこのチームにいるか自分でも忘れそうなくらい、(所属先が)目まぐるしく変わっていますから」

 9月4日、フィリーズ戦で”今季3度目の本拠地デビュー”を終えたメッツの青木宣親は、笑顔でそう話した。


加入したばかりのメッツで先発出場を続ける青木

 渡米以降の6年間で合計7チーム、2017年だけで3チームを渡り歩き、筋金入りの”ジャーニーマン”となった青木。今回の新天地・ニューヨークにも素早く適応し、チームメートやファンにも好印象を残している。9月4日の試合では、第2打席にレフト線への2塁打を放ち、メッツの一員としてニューヨークでの初安打をマーク。移籍後の4試合で17打数6安打と好スタートを切った。

 しかし、青木にメッツの印象を聞くと、少し残念そうな表情に変わった。

「個人的には勝ちたいと思っているけど、(チームは)そういう位置づけにはない。若い選手が多く、(それぞれが)結果を出そうとしている感じです」

 確かに、今季のメッツは下位に低迷し、現在は消化試合をこなす毎日。1年ごとが勝負のベテランとしては物足りない部分もあるのだろう。一方で、今季はプレー時間に恵まれてこなかった青木にとって、外野陣が駒不足のチームはやりがいのある環境でもあるはずだ。

 アストロズの一員として開幕を迎えた青木の2017年シーズンは、波乱に満ちたものとなった。6月に日米通算2000本安打を達成したものの、7月末にトレードでブルージェイズに放出され、8月28日には戦力外通告を受けた。


 この時点で打率は.274と一定の成績を残してはいたが、そのままシーズンを終えていれば、青木はメジャーでプレーする場を失っていたかもしれない。しかし、9月2日にメッツと契約を交わし、ようやく力を発揮できるチームに辿り着けたように思える。

 今季のプレーオフ進出が難しくなったメッツは、夏頃から来季に向けたチーム作りを始め、トレード期限前にカーティス・グランダーソン、ジェイ・ブルースといった実績ある外野手を放出した。それに加えて、8月にはヨエニス・セスペデス、マイケル・コンフォルトという主軸が揃って戦線離脱。外野陣の選手層が極端に薄くなってしまったことで、チームは青木の獲得に動いたのだった。

「(青木は)打力があり、今季のOPS(出塁率と超打率を足し合わせた数値)は自己最高に近く、外野をどこでも守れるから起用法を容易にしてくれる。シーズン終了後はどうなるかはわからないが、このメッツで多くのプレー機会を得るはずだ」

 2007年、2008年にオリックス・バファローズの指揮官も務めたテリー・コリンズ監督がそう語る通り、残る試合の中で青木のプレータイムは豊富にあるだろう。

 今季のメッツは本塁打の数こそナ・リーグ2位ながら、打率と出塁率は同12位。粗い印象がある打線なだけに、左打ちのコンタクトヒッターは重宝されるように思える。これからの1カ月間、青木が広大なシティフィールドで本領を発揮し、高打率を残しても驚きはない。

 青木がメッツに在籍するのは今季終了までと予想する声もあるが、必ずしもそうとは言い切れない。来春までのチーム構想を考えても、小柄な日本人外野手はメッツにとって有用な存在になり得るからだ。


 2015年から2年連続でプレーオフに進んだメッツだが、今季は故障者が続出し、リーダーシップを発揮する選手が欠けたことが低迷の原因となった。それでも、ジェイコブ・デグロム、ノア・シンダーガード、マット・ハービーといった才能ある先発投手を数多く擁しており、完全にチームが崩壊したわけではない。故障者が戻ってくる来季には、再び上位を狙えるようになるだろう。

 2018年の外野陣は、セスペデス、コンフォルトのレギュラーは確定で、オフにFAでロレンゾ・ケイン(ロイヤルズ)あたりを獲得し、守備のいいフアン・ラガレスを第4の外野手にするのではないかと見られていた。ところが――。売り出し中のコンフォルトが8月24日のゲームで左肩の後嚢(こうのう)破損という大ケガを負い、プランに狂いが生じることになる。

 コンフォルトの復帰時期は未定のままで、来季の開幕時にスタメンが確実な外野手はセスペデスのみ。そんな状況下で”保険”として白羽の矢が立った青木の来季残留について、ニューヨークの地元紙記者は「今オフに契約をノンテンダー(一時的にFA扱いにすること。選手は他のチームと交渉できる)された後、今季の半分くらいの年俸で再契約することはあり得る」と予想する。

 資金難のメッツが、青木に今季の年俸(550万ドル=約6億円)以上を支払うとは考え難い。だが、交渉の末に200万〜400万ドル程度の金額に抑えられれば、再契約は悪くない選択だろう。コンフォルトが開幕に間に合わなかった場合に、セスペデス、FAの補強選手に加え、第3、4の外野手としてラガレス、青木をプラトーン起用できるからだ。

 もちろん、メッツが他の選手を起用することもあるだろうし、青木のほうに他チームから好条件が提示されることも考えられる。ただ、これまで述べてきた通り、金銭やプレー機会など、さまざまな条件でメッツと青木は”ベストマッチ”に思えてくる。

 メッツは元来、日本人に縁が深い球団だ。吉井理人、野茂英雄、新庄剛志、松井稼頭央など、多くの日本人選手がメッツでプレーしてきた。1996年から2002年まではボビー・バレンタインが監督を務め、現在はコリンズが指揮を執っている。それゆえ、日本人選手を受け入れる素地があり、その扱い方も熟知しているのだ。

 ニューヨークで”再生”するためには、打撃面はもちろん、スピードやリーダーシップなど、上位進出を狙うチームで貢献できるだけの力を示さなければならない。青木自身も、「一番大事なのは結果を残すこと。毎日、全力でやるだけだと思います」と話す通り、残る1カ月が極めて重要な期間であることを理解している。

 熾烈な椅子取りゲームが行なわれているメジャーリーグは、来年1月に36歳を迎える青木にとって厳しい職場であることは間違いない。しかし、ここ数試合の動きを見る限り、来季もメジャーでキャリアを積み重ねられる可能性は十分にある。ベテランが最後の勝負を挑む”セカンドチャンスの街”として知られてきたニューヨークでの、青木の勝負の1カ月から目が離せない。

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