サッカー日本代表の試合を観ていても、代表デビューを飾った選手は「初代表キャップ獲得」、5試合出場した選手は「5キャップ」といったように、選手の代表戦での出場試合数を表すものとして、「キャップ」が使用されています。なぜ「キャップ」というのか、ご存知でしょうか?

 

これは、サッカーやラグビーの母国であるイングランドで、代表選手として試合に出場した選手に実際に「キャップ=帽子」が授与されることが由来です。まだ近代フットボールが確立される以前のイングランドでは、各チームの選手がお揃いのシャツやショーツを着用することはなく、敵味方の区別をつけるために帽子を被ってプレーをしていたことが、そもそものきっかけと言われています。1872年に行われた世界で最初のサッカーの国際試合「スコットランドvsイングランド」では、スコットランド代表の選手たちは頭巾、イングランド代表選手たちはそれぞれ出身校の帽子を被って戦いました。
そして、1886年になると世界最古のサッカー協会FA(1863年に創設)により、イングランド代表として出場した選手には統一された帽子が贈られるようになったのです。

以前、元サッカーイングランド代表のトレヴァー・シンクレアや元主将のスチュアート・ピアースに確認したところ、イングランド代表は試合ごとに対戦相手の国名が刺繍された帽子が、UEFA欧州選手権やW杯といった大会では大会ごと対戦するすべてのチーム名が刺繍された帽子がひとつ授与されるそうです。アイルランド、スコットランドとウェールズの元代表選手からは、何試合出場しても1年で1キャップしかもらえないと聞きました。大会に関してはイングランド同様です。

 


また50キャップ目や100キャップ目といった節目の際には、通常とは異なる金色の特別なキャップが作られ、スタジアムのピッチ上で授与され、各メディアでも大きく取り上げられます。英国で選手の会話をしていて、その選手に代表歴があるか定かでないときも、直訳すると「彼は帽子を持っているの?」である「Does he have a cap?」と聞きます。イングランドU-21や「イングランドC」という、プレミアリーグを頂点とするイングランドサッカーピラミッドの実質5部以下の「ノンリーグ」と呼ばれるチームに所属するセミプロの選手によって構成されるチームも年間を通じて、欧州各国の同クラスのチームと試合を行っており、国際試合に出場するとキャップ数という表記だけではなく、実際に帽子がもらうことができます。英国では、私たち日本人が思っている以上に代表=帽子です。サッカーだけではなく、クリケット、ラグビーでも代表選手として試合に出場すると実際に帽子が授与されます。

日本でもサッカーの日本代表選手の出場数をキャップ数で表すことがありますが、実際に帽子が授与されることはありません。ところが、サッカー同様、イングランド発祥のラグビーでは、その文化が日本でも受け継がれています。

 

 


先日、東京都の国立科学スポーツセンター(JISS)で2016年度ラグビー日本代表キャップ授与式が行われ、2016年度に初めて日本代表としてプレーした45名の選手のうち31選手が出席し、キャップを手にしました。

代表キャップを授与された選手たちのコメントを紹介しましょう。

■松橋 周平選手(リコーブラックラムズ)
「小さいころからの夢、日本代表のジャージーを着ることができ、このキャップ授与式に参加する事ができ光栄です」

■布巻 峻介選手(パナソニック ワイルドナイツ)
「夢だったキャップを手に入れることが出来て嬉しいです。これに満足せずこれからも頑張っていきます」

■金 正奎選手(NTTコミュニケーションズシャイニングアークス)
「この度、日本代表キャップを授与させていただき本当に嬉しく思います。この授与に慢心することなく、精進を続けてまいります」

■茂野 海人選手(NECグリーンロケッツ)
「日本代表としてキャップ授与していただけることを大変光栄に思います。今後も日本代表に選ばれるよう一生懸命努力していきますので応援をお願いします」


各選手のコメントからも分かるように日本代表に選ばれ、このキャップを手にすることは大変な栄誉です。ラグビー日本代表の場合、W杯に出場するとW杯のキャップが授与されますが、それ以外は何年、何試合代表として試合に出場してももらえるキャップはひとつのみで、5試合出場するごとに星が送られてくるので、選手自身で縫い付けることになります。

後ろ側には番号が刺繍されていますが、これは代表選手の通し番号となっています。

※立川理道選手所有のもの

 

 

参考)日本ラグビーフットボール協会HP・日本代表歴代キャップ保持者一覧
https://www.rugby-japan.jp/2015/05/29/cap_holder/

写真の602と刺繍されたキャップはクボタスピアーズに所属する井上大介選手のものだと分かります。

日本選手権の決勝前にスタジアムで行われることが多かったキャップ授与式ですが、今回は諸事情あったのでしょうが、選手、家族にメディアとごく限られた人数のみで行われたのは残念です。代表キャップを間近で見る機会はほとんどありません。ラグビーファンはもちろん、スポーツファンの方々も興味を持ってくださるであろう代表キャップ。来年は大勢の方の前で披露して頂きたいですね。

女子15人制ラグビーのキャプテンも務めた田坂藍選手に確認したところ、「代表の公式戦に出た回数をキャップ数と表記することはありますが、実際に授与されることはありません。女子もあるといいなぁと、思っています。 8月のW杯で結果を残して、キャップ制適用を目指します!」とのことでした。

日本ラグビーフットボール協会の方はぜひ、ご検討ください!女子ラグビー日本代表は今年の8月にアイルランドで開催される女子ラグビーW杯に4大会ぶりに出場します。