今季、東京ヴェルディには面白いトリオが存在している。

 昨年7月、ガンバ大阪から期限付き移籍でMF二川孝広が加入。二川は今季もヴェルディでのプレーを決め、そのあとに続くように今季、MF内田達也がガンバからの期限付きで、さらにガンバ黄金期の主力だったMF橋本英郎がセレッソ大阪(昨季終盤はJ3のAC長野パルセイロでプレー)から移籍してきた。

 豊富な経験と高い技術を持つ橋本と二川、そして中堅の内田と、Jリーグの頂点を知る”元ガンバ・トリオ”は、若い選手主体のヴェルディにとって、戦力的にはもちろん、大きな刺激を与える貴重な存在となるだろう。


ヴェルディのJ1復帰へ、その活躍が期待される二川孝広 二川は昨季、20試合出場1得点と思うような結果が出せなかった。使われてナンボの選手だが、小声なこともあって、要求してもほしいタイミングでボールをもらえず、自分がやりたいプレーができなかった。

 しかし、今年はそんなことはなさそうだ。昨年からの積み重ねもあるが、古巣で長年一緒にプレーしていた橋本と内田の加入が大きい。

「ふたりの加入は心強いですね。ウッチー(内田)とは昨季の序盤戦、一緒にU-23の試合(J3)でプレー(オーバーエイジ枠で出場)して、トップチームでプレーできない悔しさをともに味わった。(内田は)ヴェルディではすでに声を出して積極的にプレーしているし、パスを左右にうまくさばくこともできるんで、(チームにとっても)大きな力になると思う。ハシくん(橋本)は5年ぶりに一緒にプレーしたけど、相変わらず頼もしい。ゲームを落ち着かせてくれるし、いろいろと指示を出してくれるんで、自分も含めて、他の選手は助かると思います」

 二川の言葉どおり、橋本の存在感は日に日に大きくなっていて、内田も今季からチームの指揮を執るミゲル・アンヘル・ロティーナ監督の要求に応え、徐々に信頼を獲得しつつある。二川も、彼らのプレーに刺激を受けながら、昨季以上の結果を出して勝利に貢献する決意だ。

「『ガンバの3人でやろう』ということはないけど、ガンバでやってきたことを少しでもチームに還元したいと思うし、それはハシくんも同じやと思う。言葉で引っ張るのはハシくんに任せて、自分は攻撃の部分で(みんなを)リードして結果に結びつくようなプレーをしていきたい。背番号が32番なんで、3プラス2で5点は取りたいです。そのためにも、もっと(周囲に)要求していかなあかん。一応、声は出しているんですけどね(笑)」

 橋本や内田がボランチにいれば、うまく使ってくれるだろうし、ほしいタイミングでパスが出てくる回数は増えるはずだ。そうなると、二川がより生きてくるに違いない。

 だが、現状ではまだガンバ時代のすごさを見せられていない。その点は、橋本も同意する。

「フタ(二川)のキラーパスを、それほど見られていないんでね。それが出てくるようになると、調子が上がってきている証拠ですけど。まだ、それに反応してくれるようなタイプの選手がいないんで。なんとか、出てきてくれるといいですけど……。まあ、攻撃の部分はまだ詰めきれていないし、昨年もそこまで決定力がなかったと聞いているんで、フタを含めて攻撃の部分はまだまだこれからかな、と思います」

 チームは、昨季61失点(J2の22チーム中、ワースト6位)と崩壊した守備の整備からスタートしている。攻撃は開幕までに仕上げていくことになるが、二川をうまく生かすことができれば、少なくとも昨季の43得点以上は取れるはずだ。

 一方、橋本と内田の2ボランチは非常にバランスがいい。

「ウッチーと2ボランチを組んだときは、ウッチーがいい感じで前に出ていたし、それが形になっていた。ボランチの序列では、自分はまだ下なので、(内田と)ふたりでやれるように、(やるべきことを)ひとつずつレベルアップしていきたし、チームのために自分のいい部分を出せるようにやっていきたい」

 ボランチの軸には、ヴェルディ在籍6年目の中後雅喜がいる。攻守の要であり、現在の序列は当面変わらないかもしれない。それでも、長いシーズンでは何が起こるかわからない。選手が入れ替わるときもあるだろう。その辺りは橋本も織り込み済みで、ベテランらしく常に自然体でいる。

「長いことやっているんでね。でも、だからって、最初から試合に出ることを諦めているとかはない。フタも、サイドをやったり、ボランチに回ったり、いろいろなポジションをこなして試合に出ようとしている。自分もそういう姿勢を見せて、若い選手に刺激を与え、チームの力を上げていければなって思っています。ガンバもそうやって若い選手が育ってきたんで」

 勝つために要求する姿勢は、ガンバで培った勝者のメンタリティーでもあるのだ。

 内田はガンバ時代、ボールを奪う技術に優れ、1対1での強さがあり、守備能力が高いボランチだった。その力を評価されて、ヴェルディではボランチだけでなく、3バックのセンターでも試されている。

「3バックはやったことがないんです。しかも、センターはミスをしたら終わりなんで、ポジショニングが大事やし、こういうときはこうしろっていう決め事が多くて大変です。でも、それができれば失点がすごく減ると思うんで、もうやるしかないですね」

 3バックのセンターでは、やや窮屈そうにプレーしている内田だが、決して違和感があるわけではない。ただ、ボランチでのプレーを見ていると、そこが本職であることを再認識するほど、内田のよさが際立つ。それは、コンビを組むのが橋本であることと無縁ではない。

「実は、ハシさんとはガンバ時代、ほとんど一緒にやっていないんです。そのとき、僕は試合に出られなかったんで……。今回、一緒にやっていますけど、やっぱりうまい。ここっていうときに顔を出してくれるんで助かりますし、いろいろと指示を出してくれるんでやりやすいですね」

 内田は、2014年11月に左膝前十字靭(じん)帯損傷などの大ケガをして、長い間戦列を離れていた。昨季からリーグ戦での復帰も果たしたが、トップチームでの出場は3試合にとどまった。悔しさを噛みしめ、自分をもう一度輝かせるために移籍を決断した。25歳と、橋本(37歳)や二川(36歳)よりもだいぶ若いが、状況的には彼らと同じだ。

「ヴェルディに来て、ここでダメだと自分のサッカー人生が大きく変わってしまう。今後もサッカーをやっていくためには、この1年間、結果も内容も求めていかないといけない。もう死にもの狂いでやるしかない。ガンバを見返すような活躍をしたいですね」

 橋本、二川、内田――3人は元チームメイトだが、そこに甘えることはない。しかし、ひとたび一緒にプレーすれば”ガンバの遺伝子”が共鳴し、絶妙なハーモニーを醸し出す。また、3人とも「ここで活躍しなければ」という危機感を持ち、覚悟を持ってプレーしている。それが、ヴェルディの選手たちの琴線に触れ、J1昇格への推進力になっていくはずだ。

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