野町 直弘 / 株式会社アジルアソシエイツ

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この正月に研修用の資料を作りながら感じたことがあります。
それは、コスト削減手法にもトレンドがあるな、ということです。

昭和の頃のコスト削減手法はどちらかというと加工費の削減に重みをおいています。IEアプローチやOR、ECS、などの手法であり、どちらかというとコスト削減よりも出来高の向上(工数削減、生産量増加)に力を注いでいるものです。外注コストに関してもその流れを踏まえて加工費を中心にコスト目標を試算しサプライヤの生産性向上を指導していく、という考え方が一般的でした。

何故ならそもそも製造業におけるサプライヤの活用は、基本内製からスタートし、生産能力の不足から外注を活用するという位置づけから始まったからです。また、この時期は、作れば売れる時代でしたので、出来高を上げて供給力を如何に増強していくか、が重視されました。そのような時代背景もあって主要なサプライヤのコスト削減手法はコスト分析によるコスト妥当性の評価やそれによる指導という手法だったのです。

これが経済の低成長期に入り、でてきたコスト削減手法のトレンドがソーシングです。戦略ソーシングと言う言葉が使われるようになったのもこの頃からでした。ソーシングとは、「安いところから買う」というコスト削減手法です。この手法の特徴は応用範囲が広いことです。従来の外注加工だけでなく、広がってきた購入品や開発品(サプライヤに開発から委託)、購入材料、また2000年代に入ってからは所謂間接材である経費系の買い物やサービスなどの調達購買でも活用できる手法でした。また、ソーシング手法と合わせてサプライヤの切替えや集約を図ったり、購買計画に基づき集中購買を進めボリュームメリットを引出すことで大きな効果をもたらしたのです。

ところが、ソーシング手法も昨今は行き詰まりをみせています。様々な企業の調達本部長と話をしていると皆さんが同じことをおっしゃられるのです。最近の購買は「相見積や比較購買、入札ばかりであり、コスト査定の能力が落ちている」と。またソーシング手法も同じ費用や品目で同じサプライヤを競い合わせることを何度も繰り返せば限界が来ることは容易に想像できます。
(「調達購買改革の誤解」というレポートにもそういう内容を書いています。)

ソーシング手法の限界が見えてきた今、もしくはこの先、どのようなコスト削減手法が求められるでしょう。私はイノベーションを伴ったコスト削減手法を活用する活動が、次第に広がってくると期待も込めて考えています。

イノベーションは「安いところから買う」とか「(コスト妥当性を評価し交渉して)安くする」というややゼロサムに近い世界から脱却し、無駄な買い物を抑制することにつながり結果的に大きなコスト削減効果が出ると考えられます。従来は単価を下げることにばかりに集中していました。しかし、よく考えてみると1個10円のものを1円、2円などの単位で単価削減をしても1個余計に無駄な買い物をすればこの単価削減が全くの無駄になってしまうことが分かります。そもそも何が無駄な買い物で何が無駄な買い物では
ないか自体が見極められていない、のが現実ではないでしょうか。このように、今後は何かのイノベーションを活用することでそもそもの購入量を削減するような方向にコスト削減手法はシフトしていくでしょう。

例えばIoTの活用などはその最たるものでしょう。IoTは資産効率を高めたり、在庫最適化に直結するイノベーションです。稼働率の管理が可能になり資産効率が高まれば過剰な設備など資産の購入が必要なくなります。同様に在庫の見える化、管理が可能になれば無駄な在庫の購入が不要です。このようなIoTというイノベーション活用によるコスト削減事例のようなコスト削減手法はこれからのトレンドとなっていくでしょう。

間接材などは在庫管理という概念がありません。しかしこれは管理コストがかかるから管理していないだけであり、イノベーションによって低コストで在庫管理が可能になれば無駄な買い物を一気になくすことができます。これはモノだけでなく、サービスでも同じようなコスト削減手法が可能となっていくでしょう。このようにイノベーションを活用し無駄なサービス費用を削減する、という興味深いコスト削減手法活用事例を最後に紹介します。

対象となるコストはゴルフ場の維持管理コストです。ゴルフをやられたことがある方なら想像できるでしょうが、ゴルフ場の芝生等のメンテナンスはとても行き届いています。
同時に相当なコストがかかっているようです。私も趣味などでゴルフをやるのですが、やはり手入れが行き届いているゴルフ場は気持ちいいですし、多くのゴルファーがゴルフというものはそういうものだと考えていることでしょう。

これは、ゴルフ場経営会社の調達部門にいた知人バイヤーから伺った話なのですが、実はこの管理コストで大きなポーションをしめているのが肥料や水などの維持管理用の資材費用と人件費なのだそうです。そして中でも無駄なコストと考えられるのは芝生の状態は「ベテランの管理者がチェックをしないとわからない」ため、その人が芝生の状態を見て回る時間(コスト)がたいへん多くかかってしまうことなのだそうです。またその時間を節約するために、本来ならやらなくていい箇所にも肥料や水をやることになり、それは芝生にとっても良くないし、肥料コストの無駄につながるとのこと。

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そしてこのバイヤーが考えついたのがドローンの活用です。ドローンにカメラを搭載し芝生の状態のモニターを行い、状況に応じて芝生の維持管理を行ことで、先に上げた無駄な費用を削減することを考えたのです。ドローンという新しいイノベーションをこのような分野で活用するといったアイディアはイノベーションを開発する側ではなかなか思いつかないでしょう。

このように世の中のイノベーションを活用しコスト削減につなげていくような手法は今後益々活用事例やアイディアはでてくることでしょう。しかし容易いことではありません。従来のやり方に慣れたユーザーや社内関係者、開発担当者は新しいやり方を好まないのが通常です。できれば今までと同じやり方をしたいという方が多いでしょう。

またIoTにしてもドローンにしてもイノベーションを開発する人たちは応用スキルも持っていないことが少なくありません。イノベーションがどのような分野で活用でき、それがどのような効果をもたらすか思いつかないのです。

バイヤーは社内関係者とイノベーション側ををつなぐ役割があります。この両者をつなぐことができるバイヤーにならなければならないのです。それが次世代バイヤーの姿です。そのためにはバイヤーはもっと新しい技術やイノベーション、世界に目を向けなければならないのです。

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