竹林 篤実 / コミュニケーション研究所

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ポジショニングが勝負を決める

STPは、この順番で考える。まず自社が勝負するセグメンテーション、すなわちマーケットの中のどこで勝負するのかを決める。切り口はいくらでもある。男女、年齢などのデモグラフィックな要素、居住地などのジオグラフィックな要素、ライフスタイルなどのサイコグラフィックな要素などだ。

既に存在する市場を細分化し、新たなマーケットを見つける手もある。清涼飲料水市場での新製品開発なら、茶系、炭酸系、コーヒー系、ミネラルウォーター系、栄養ドリンク系などの中で、どこに絞るのか。仮に茶系とするなら、緑茶、紅茶、ウーロン茶など、もう一段の絞り込みができるだろう。さらに味による絞り込みを加えても良い。

要はマーケットを絞り込めば絞り込むほど、そこにいるはずのターゲットが鮮明に浮かび上がってくる。その際に可能なら、レッドオーシャンではなく、ブルーオーシャンを見つけるよう意識したい。

「ネガぼっち」から「ポジピン」の時代へ

今年の元旦の日経MJ、一面の見出しは「ピンの時代」となっていた。総世帯のうち単身世帯が3分の1を占める現状である。高齢者の一人世帯はともかく、まだ元気に動ける若い人たちは、積極的に一人を楽しんでいる。これを称して「ピンの時代」というらしい。

この記事が出る、つい1週間ほど前には「クリぼっち(ひとりクリスマス)」なる言葉が流行っていたようにも思うのだが、それはそれである。寂しげなぼっちよりは、元気いっぱいのピンのほうが明るいではないか。

この変化を「ネガぼっち」から「ポジピン」の時代へと捉えると、新たなビジネスチャンスが見えてきそうだ。もっとも、日経MJ紙が言うように、本当に「ピンの時代」が到来していて、「社会を変える巨大な個の力」にまで広がるかどうかは、各自が検証する必要があると思う。

とはいえ、データ上ではひとり世帯数の増加は明らかであり、生涯未婚率の上昇は未だ右肩上りとなっている。「結婚したくない」と答える20代は7年間で約1.8倍まで増えている。

20代後半から30代にかけての一人暮らし層の可処分所得を考えるなら、この層は新たなターゲットとして注目すべきだ。

「ファミレス」から「女子レス」への転換

ポジピンは、消費に積極的な層である。一人暮らし故に、自由に使えるお金も時間も豊富に持っている。一方で世の中を見れば、ピン客が心地よく過ごせる場所は、まだまだ不足している。ここにはビジネスチャンスがある。

こうした状況に対応すべく、着実に改革を進めているのがガストだ。ガストといえば、従来は典型的なファミリーレストランであった。そのポジショニングは次の図のようになるだろう。すなわち、家族客をターゲットとして、どちらかといえば子どもが喜ぶ食事をメインで提供する。


これに対して、ガストは増えている女性一人客をターゲットとした、新たなポジションも視野に入れ始めている。端的に表現するなら「ファミレス」から「女子レス」へのポジション転換である。

日経産業新聞2017年1月10日の記事によれば、ガストは女性一人客をターゲットとした、デザートメニューやライトミールの充実を図っている。メニュー変更に伴い、メニューブックそのものも女性を意識したデザインテイストに変更している。

女性を狙うなら、女性の感性を重視

ガスト改革の開発チームメンバーは、5人の内4人を女性が占めている。女性を狙うなら、女性の感性を無視してはならない。これは鉄則だ。

その意味では、今開発スタッフの変革に取り組んでいるのが流通大手。イオンなどは積極的に女性の意見を売り場作りに取り入れている。四国の地場スーパーでも、店頭POPなどはパートの女性スタッフが手書きするという。なぜなら、彼女たちこそは、その売場に来ている顧客そのものだからだ。実際に仕事を終えたパートスタッフは、店で買物をして帰る。自分が欲しいものを、自分に伝わるようなPOPで表示すれば、それがターゲットにも刺さる。奈良生協でも成績の良い売り場は、女性に商品陳列を任せているところだと聞いた。

買い物に来るのは女性客なのだから、女性に商品開発から店頭までを任せるのは理にかなっている。逆に未だに、商品開発会議参加者の98%ぐらいを男性が占めるGMSもある。売り場を見れば、その差は歴然としている。

次はどうなるのか?

比較的裕福なポジピン客による消費は、今後もしばらく続くだろう。その意味では、現在の自社のターゲットに彼らを追加し、新たなターゲットとして検討してみる勝ちはあるだろう。彼らに向けた新たな商品やサービス企画を考えてみるのも良い思考訓練になる。

さらに彼らが歳を重ねていった時に、どうなるかとシミュレーションしておくと、より発想が広がるのではないか。本当にいつまでも一人でいられるのか。仮に40代後半になったときに、衣食住をはじめとする彼らのライフスタイルはどう推移しているのか。子どもを必要としない人たちが、どれぐらい増えるのか。子どもの数がさらに減った時には、どんなマーケットが生まれるのか。

想像を膨らませてシミュレーションするだけなら、コストはかからない。新しい年の初めに、自社のビジネスを因数分解して考え直してみてはいかがだろう。