生活に必要な「モノ」と「情報」を得られる場所へ。 求められる新しいスーパーマーケットの形。電力自由化における期待とは。/株式会社 アイ・グリッド・ソリューションズ
進む日本でのエネルギー自由化、何故、スーパーマーケットがエネルギーを売るのか
2016年は電力の完全自由化が開始され、2017年はガスも自由化が始まります。電力自由化は、切り替えペースがゆるやかだという報道が多い反面、小売電気事業者は350社に上り、その中にはコンビニやスーパーマーケットなどの流通小売業界も多数参入しています。
何故、エネルギーの自由化に、これまで接点の無かった流通小売業が乗り出しているのでしょうか。電力も一つの商材とすることで、取り扱えるものが増えるということはもちろんありますが、それ以上のメリットはあるのでしょうか。
先日、流通経済研究所の鈴木雄高氏(以下、鈴木氏)、電力比較サイト大手・エネチェンジ株式会社の巻口守男氏(以下、巻口氏)、流通小売業として新電力「スマ電」の販売を開始したユニー株式会社の喜多 一三氏(以下、喜多氏)とで、電力自由化が流通小売業に与える可能性と課題、また、日本の流通小売業界で電力やガスなどのインフラ自由化を進めることの意義や展望を議論しました。
その内容を踏まえて、流通小売業でエネルギーを取り扱うことの可能性について考えます。
コンビニなど成功している流通小売業は「お客様の生活に入りこんでいる」。
スーパーマーケットはどうあるべきか。
SM・GMS・百貨店など、広域からお客様を集めるビジネスモデルは全体的に厳しくなっています。鈴木氏は、この理由について「コンビニやドラッグストアの食品ディスカウント販売等の“近くて便利で安く買えるお店の増加”という点ももちろん有りますが、セブンイレブンのお弁当宅配や、ECの台頭など、「地域に密着して家庭の中に入る」ということが増えてきた。」と、CVSやECの役割の変化を提示しました。 この点に、SM・GMSとしてどう役割を再定義していくかが、広域でビジネスをしてきたSM・GMSの課題と考えられます。
「電気使用から知る消費者のライフスタイル×スーパーマーケットが持つ消費者の購買行動」お客様の生活を理解することで生まれる可能性とは。
ではSM・GMSの役割再定義に向け、電力販売・エネルギー販売はどう寄与するのでしょうか。一つは、「これまで本当の意味では見えなかった、お客様のライフスタイルが見えてくる」ということが挙げられます。
スーパーマーケットにとっては、タマゴも刺身も電気も商材の一つですが、唯一違うのは、電気は情報を持っていることです。電気はスマートメーターの普及によって、時間ごとの電気の使い方が分かるようになり、ライフスタイルの傾向をとらえられるようになります。
また、スーパーマーケットはこれまで、POSデータの解析や、MDの中での消費購買動向を見てきました。やはり、生活に必要な食材や日用品はまだまだ住んでいる近くのスーパーマーケットに買いにいく人が多いので、消費者と近く接触頻度が高いのが特徴です。
これら、消費者の電気使用と購買行動をクロスで見ていくことによって、新しいニーズを掘り起こし、新サービスやお客様とのリレーションに繋げていくという可能性が見えてきます。
まだ実験段階ですが、ユニー様では、今年の夏、猛暑日の消費電力が多い時間帯にアピタ・ピアゴにご来店・購入したお客様に、ポイントをプレゼントする取り組みを実施しました。普段来店している店舗でポイントがプラスで貰えることはユーザーにとって嬉しいサービスですが、電力供給側からみても、猛暑日のエアコンなど電力需要が多い時間帯は、卸売市場からの電力調達単価も高くなるため、その時間帯の電力利用を控えてもらうことにはメリットがあります。店内は涼しいこともあり、指定した時間帯に来店し購入したお客様も多く、好評だったとのことです。
スーパーマーケット自体が情報媒介の機能を持っている。エネルギーなどインフラまで扱っていくことでお客様の「ワンストップ・ソリューション」としての役割に。
また、ユニーの喜多氏は「スーパーマーケットはこれまで、生活に必要なもの・良いものを出来るだけ安く売るということに重点を置いてきましたが、生活の中に締める情報・情報サービスのニーズというものが高まってきていると感じます。ITリテラシーが高くて、何でもネットで検索できる方は良いですが、そうでない方の不便がどんどん膨らんできている点の解決が、スーパーマーケットでできると思っています。」と話しました。
確かに、新しい情報について、ネットやテレビなどのメディアで報道されるよりも、いつも行くお店で目にすれば、それは「生活のための新情報」と認識されやすくなります。
お客様は、今日買うものの売り場だけでなく、買うものが決まっていないまま他の売り場も見たりします。スーパーの中で、情報を取得しながら歩き回っている、その時に新情報のリーフレットやチラシが設置していたり、相談できる場所があれば、「こういうのがあるんだ。」と関心を惹き、お客様にとって有益な情報を伝え、理解を深めてもらえます。
つまり、スーパーマーケットは生活のコンシェルジュ、エネルギーも含め生活全般に対して、「いろいろなものがワンストップで揃う」から「いろいろな“こと”がワンストップで解決出来る・相談できる」となり得るのではないでしょうか。
電気は購入ではなく「契約」。契約受付への準備や、それに伴う従業員教育・モチベーション維持の体制づくりが、新しいスーパーマーケットの課題。
一方で課題もあります。SM・GMSの多くでは食品・衣料・住関テナントと4つの組織がありますが、情報やサービスを担当する部署は無いところがほとんどです。そうした構造的なギャップをこれから変えていく必要があります。
また、「スーパーマーケットで電気を買う」のが今日の分だけ買うということなら問題ありませんが、今後ずっと使うとなると「契約」が必要になります。そうすると、従業員教育や対応できる売り場など体制の整備や、積極的にそれを売るモチベーション・インセンティブ・教育などをどうするかということも課題となってきます。
電力自由化から半年強の間に、都市ガス会社が非常に好評なのも、そもそもガスという商材が契約によって渡すものなので、違和感無く受け入れられやすいという背景があります。
スーパーマーケットは、情報・サービスを司る部署を整え、契約受付が出来る人員と売り場の体制を作ることが求められています。
電力会社を切り替えた人の9割近くが「期待していた、あるいは期待していた以上の結果になっている」と回答。新商品や売れている食品と同様に、自信を持って消費者に紹介してもらい、信頼関係を築けたら。
巻口氏は、スーパーマーケットで電気を扱う際に「一番大切なのは「あなたが入っていますか」と言われた時に、従業員が「はい、当然です」と答えられないのが問題だろう。」と意見を挙げました。
資源エネルギー庁のアンケートで、電力会社を切り変えた人は、全国で約4%でしたが、そのうち切り替えた方へのアンケートでは88%以上の人が「期待していた、あるいは期待していた以上の結果になっている」という結果になっています。切り替えた人は満足している状況です。
前述した通り体制を整えていく課題はありますが、大切なこととして「電気を変えて良かった」ということが、まだ入っていないけど悩んでいる消費者の方に、スーパーマーケットという媒介、スーパーマーケットの従業員の方を通してもっと伝わっていけばと思います。そして、スーパーマーケットは役立つ情報をお客様に提供している・売っているという点で、信頼を蓄積出来たらいいのではないでしょうか。
「自由化というのはこういうことです」と、小難しく解説するのではなくて、新商品や売れている食品を紹介する時と同じように、気軽に「いい商品を使っていますよ、あなたもいかがですか」と対面でお勧めする。スーパーマーケットで取り扱う電力販売は、そういうフェーズに入りつつあります。
(株式会社アイ・グリッド・ソリューションズ エネルギー・プラットフォーム事業本部本部長 秋田 智一)